11 狙撃教育
シュミット少佐が死んだと聞いても、それほど驚きはしなかった。これだけ姿を見せていない以上、最悪の事態は予想していた。
「どうして死んだんだ?敵にヤられるような少佐ではないと思うが」
「心臓の発作……だと思います」
「だと思います?どういうことか説明してくれるか?」
彼は語気を強めた。
「はい」
「待て!そもそもお前たちは何者なんだ?」
自分は一体誰に話を聞こうとしているのか、とフレンゼンは不思議になった。
「そうですね。私たちのこと、最初からお話します」
アンヌはようやく落ち着いたのか、開き直ったのか、長めの黒髪を両手で整えてから話し始めた。
四人が戦争孤児であることは本当だった。戦場で倒れていたり、路上でうずくまっていたりしたところを、シュミット少佐に助けられたのだ。孤児の施設にも寄付などの援助をしていたそうだ。
「特に体が小さくて弱い私たち四人のことが心配だったのか、手元において育ててくれたんです」
「あのシュミット少佐がねえ」
「あなたは少佐の上官なんですよね?」
「ああ。カール・フレンゼン大佐だ」
「少佐の任務の中身についても把握されているんですよね?」
「もちろんだ」
「少佐は、私たちに銃の扱いを教えてくれました」
「子供に銃を?」
「少佐を責めないでください。私たちに自分を守る
「だからって!」
「子供に銃を握らせることが、褒められたことじゃないって、私も思います。でも、少佐は銃そのもののことと銃で敵を撃つこと以外は何も知らない人なんです。もちろん、銃のことを覚えろ、と強要されたことはありませんし、集められて銃の授業を受けたわけでもありません」
最初は、ソフィーだったようだ。狙撃用ライフルの手入れをしていた少佐に、遊んでほしくてまとわりついたことがきっかけだった。無口な少佐だったが、銃に関する質問には饒舌に応えた。親も友だちもいない少女たちは寂しかったのだ。親代わりの少佐に話をしてほしくて、少女たちは次々に銃に触れていった。
部屋の中でピストルやライフルの構造を覚え、森に入って試し撃ちをし、少しずつ、その腕を上げていった。幼い時から訓練を積んだせいか、偶然、才能に恵まれた少女が集まったのか、精度は少佐と比較しても引けを取らないほどになったらしい。
少佐も結構な歳だ。どれほど本気かは定かではないが、後継者を育てたい、という意識もあったのではないだろうか。
「銃の訓練だけじゃないだろう?」
フレンゼンは、二人の尾行に失敗している。
「少佐は、任務についても、あまり私たちに隠しませんでした。具体的に誰を狙っているとかは言いませんでしたけど、どんな性質の任務なのか、というようなお話はしてくれました」
銃の扱いが出来ただけでは、自分の身は守れない。シュミット少佐は、幼い彼女たちが厳しい世の中を生き抜いていけるように、自身の知識のすべてである軍隊やスパイの技術を教えたのだろう、それが最善でないことを理解したうえで。
「そろそろ話を戻そうか」
ニコルがずっと見ている窓の外は、もう日暮れが近かった。
「はい、少佐が亡くなったことですね」
「ああ。死因が明確でないということは、医者にも見せていないということだろう?」
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