第2話
「入学前ミーティングのときからずっと喋りかけられてるんだよね」という一言をきっかけに高野に対する愚痴が止まらなくなった。芋っぽい顔、いかにも大学デビューしているが失敗していること、高野をディスるたび「大変だね」と藤山さんから共感されるのが気持ちよかった。高野は良いエサになった。
結局、高野には「ずっとバイトだから」と言って、遊ぶことを断り、基礎ゼミのメンバーでユニバや琵琶湖一周をした。俺は意識的に藤山さんの隣に歩くようにした甲斐があり、脈ありムードまで育むことができた。かわいそうだったが高野を犠牲にさせてもらったかいがあったと心底思った。
大学でも藤山さんと二人で行動することが増えた。最初は高野がかまわず喋りかけて来たが、ぞんざいに接したからかさすがに心が折れて、いよいよ一人で行動するようになった。少しだけ抱いた罪悪感はかわいい彼女をつくるには多少の犠牲が必要だという信念によって覆われてしまった。
夏休みになり、藤山さんと花火大会を満喫したその帰りに告白し、見事に受け入れられた。キスは付き合ってから2~3回目のデート、セックスは1ヶ月後という高校時代に学んだ知識を生かすことなく、そのまま下宿先に連れて帰って藤山さんを手に入れた。高野の存在は頭の隅にもいなかった。
とはいえ藤山さんとは長続きせず四ヶ月で関係に終止符が打たれた。藤山さんは男女5人組の中の友達と付き合い始めた。そのことで基礎ゼミ内の雰囲気は混沌としたものになるのは避けようが無く、男女仲良し5人組の解散も自然の成り行きだった。そうなった俺は急に高野を思い出し再び彼に近づいた。
高野は相変わらず一人ぼっちだったため、俺が帰ってきたことを喜んだ。基礎ゼミや元友人のメンバーとはキャンパス内ですれ違うたび、俺が散々罵倒した高野といることに顔を引きつらせているのがマスク越しにでもわかった。彼らは友人からヨッ友へ、そのうちあいさつすら交わすことも無くなった。
よく考えれば、誰かの悪口で盛り上がるヤツと付き合うより、コミュニケーションは下手くそだが自分のことを大切に思ってくれる高野といいた方が良い。とはいえ俺も高野に対して悪口を吐きまくったので申し訳ないと思っている。せめて今後はずっと友達でいるから勘弁してほしいなと思う。
新入生 佐々井 サイジ @sasaisaiji
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