新入生
佐々井 サイジ
第1話
大学の入学式前に新入生ミーティングなる友達作りを目的とした集まりに参加した結果、高野という、大学デビューを目指していそうなヤツに喋りかけられた。他人と話し慣れていないのか、会話に間が空いたり、ひたすら高野が喋っていたりで、はっきり言って苦痛だったが、初対面なので愛想良くしていた。
高野は俺だけでなく何人か話しかけていたが、中盤から完全に俺に狙いを絞って喋り続けてきた。輪になるように並べられた椅子で俺と高野が隣り合い、そして俺の片方の隣に、端正な顔立ちの女性がいる。俺はそっちと話したいのに、高野は会話の変な間が空くのを恐れて喋り続けている。
「キミは何でこの大学を志望したの? 僕はね本当は神戸大学を受験したんだけど、入試当日におなかが痛くて本来の実力が発揮できなかったんだ。だから共テ利用で受かってたここに進学したんだ。でもオーキャン行ったことなかったからキャンパスが滋賀にあるなんて思ってなかったよ。京都だと思ってた」
まあ普通に会話を楽しみたいだけなんだろうけど、意識的か無意識的か、自分が本来は神戸大学に行ける力があることをしめしていたり、この大学は余裕で受かることを知らせたかったりと、嫌味全開で話しかけてくるので俺の返事も怒気を孕んでいたかもしれない。よく我慢した方だったと思う。
そんな感じだったので、そのミーティングでは高野としか喋ることができなかったが、幸い基礎ゼミではあの端正な顔立ちの人と一緒だった。藤山さんという名前だった。目が合ったとき「あ、あのとき隣でしたよね」と藤山さんから話してくれたことをきっかけに高野の件を言うと笑いが生まれた。
いきなり藤山さんにアプローチをかけるのはさすがに露骨すぎるし、高校時代からの彼氏がいる可能性もあるので、ひたすらに良い人として接した。その間も高野は基礎ゼミの終了後、俺のクラスの前で待っていて、次の講義に一緒に行きたがった。この様子だと高野は基礎ゼミ内で浮いていると察知した。
高野は大学デビューを頑張ろうと、マッシュの髪に白いロンTと黒のパンツで合わせている。ただマッシュがかえって陰気臭さを助長させている。分厚いレンズの眼鏡の奥にある小さな目や鼻の穴が上を向いている顔ではマッシュはむさくるしさが増すばかりだった。ベリーショートの方が良いと思った。
そんなアドバイスは高野に言うことも無く、とはいえ、藤山さんが見ている前で邪険に扱うと人格的に問題があると思われるので親身に接していた。俺は高野にとってみれば大学で唯一まともに喋ってくれる存在で嬉しかったんだろう。ついこの間、ゴールデンウィークにどこか行こうと誘いを受けた。
しかし、同時期に藤山さんを含む基礎ゼミで仲良くなった男女5人の間でも遊びの計画が持たれた。「俺、誘われてるんだよね」と思わずポロリと言うと「もしかして高野っていうヤツ? アイツ大丈夫?」と男友達に言われた。藤山さんも心配そうに頷いていた。藤山さんも高野のことを良く思っていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます