第29話 【一学期編完結】初めての彼女とのイチャイチャは、幸せの極みである

 人生初の彼女ができた幸せな夜も明け、その翌日。

 目を覚ますと、既に周りには誰もいなかった。時間は10:30。長いこと眠ってしまったらしい。

 部屋を出ると、テーブルにはパンとメモ書きが置いてあった。どうやらみんなプールに向かったようだ。俺もパンを頬張って移動した。


※※※


 彼女ができても急に世界の見え方が変わるわけではない。プールで泳ぐ者、おしゃべりする者、水鉄砲を撃ち合う者。その景色は、昨日となんら変わりなかった。

 ただ一つ。明確に変わったことがある。

 それは、俺の世界における涼音彼女の光が一層強くなったことだ。そしていまの俺は、その光を見つめ続ける権利がある。太ももやお腹、腋や肩、刺激的な彼女の素肌からさえも、目を背ける必要はないのだ。

 だって、俺は涼音彼女のものであり、涼音は彼氏のものなのだから。


 ……って、なんか朝から痛いな。彼女ができて調子に乗っているのが自分でもわかる。

 とはいえ、昨日までとすることは何も変わらない。俺は例によって、プールサイドのサマーベッドに横たわった。うん、今日もいい天気だな。


「学くんおっはよ~」


 一面青空だった俺の視界に、ピンクのワンピース水着を着用した松江が現れた。今日は武器水鉄砲を持っていないようなのでひとまず安心だ。


「おはよう松江」

「やっと付き合ったんだね。涼音ちゃんと」

「まあな」

「にいにやるう。おめでと」


 横からスク水を着た芽玖も顔を出した。なんか日に焼けたような気がする。


「ありがと」

「涼音さんを泣かせたら、私が許さないからね」

「お、おう」


 たぶん冗談ではなく、まじで許さないんだろうな。もちろん、泣かせる気なんて毛頭ないけど。


「がーっくん!」

「麗奈……んっ――⁉」


 声のする方に向こうとした瞬間、俺の顔は2つの手に挟まれ、頬に柔らかな感触が広がっていった。それが離れると同時に急いで身体を起こすと、黒のビキニを着てニヤリと笑う麗奈の姿があった。


「10年も乙女心を弄んだ罰よ。私を忘れられなくなって、一生後悔しなさい」

「え、えっと……」


 その表情はとても魅惑的で、俺の身体の温度は一気に沸点に達してしまった。

 そして彼女の後ろには、頬を膨らませて俺を睨みつける涼音彼女が……


「す、涼音。これは――」

「まあ、仕方ないよね。全部、学が悪いんだから。よーーーーく反省しなさい」

「はい……」

「でもやっぱり悔しいから……上書きしちゃお!」


 涼音が強引に俺の身体を寄せ、視界がすべて彼女の顔に覆われた。そして、俺の唇に涼音の唇が重ねられる。俺は目を閉じ、その幸せな味ファーストキスに、ただ身を任せた。おそらく、これまでの人生で最も甘美な時間だった。


「ふふ、顔が真っ赤だね」

「す、涼音だって」

「うん。好きな人との初めて唇を合わせたんだもん」


 悪戯っぽく笑いながら、目線を合わせるように腰を曲げた。胸の上の部分が俺に急接近する……もう目を逸らさなくてもいいのに、その刺激の強さに、俺は思わず横を向いてしまった。

 

「……ふ~ん。私を見てくれないんだ」

「え、いや、その……」

「学のいじわる。えい!」

「ひゃっ⁉」


 いきなり耳を舐められる。思わず女の子のような声を出してしまう。


「私からのお仕置き♡ これで上書きできたかな」


 そう言うと、涼音は再びプールに飛び込んでいった。まだ頭がぼーっとしている。


「いやー、昼間から熱々ですな~。どうですか、芽玖さん」

「そうですね~。人の目もあるのに、ちょーーっとイチャイチャし過ぎですね~、萌奈さん」


 2人が再びにやにやとこちらを見ている。


「な、なんだよ」

「「なんでもな~い」」

「お~い。委員長~いつまでもごろごろしてないで泳ごうぜ~」

「やなこった」


 プールの中から田中に誘われたが、速攻で断る。俺は運動が嫌いなんだよ。それに水着持ってきてないし。


「私も学の泳ぎ。見てみたいな~」


 これまたプールから涼音に誘われる。いやあ、愛しの彼女の願いでも、無理なものは無理と言いますか……


「で、でも俺、水着ないし――」

「にいに。はいこれ」


 芽玖がなぜか俺の水着をもっている。


「にいにのために持ってきてあげたよ~」

「な⁉ 余計なことを……!」

「ほら、学早く。着替えてきて」

「わかりました……」


 はあ。

 どうせ犬かきしかできませんけどね。


※※※


 楽しかったお泊り会も終わり、帰りの車である。

 みんな疲れ切ったのか、寝息のハーモニーが奏でられている。もうすぐ俺も仲間入りだ。体力を使い果たしたからね。久しぶりにプールにinし、沈みそうになりながらも懸命なクロール。こんなに頑張ったのに、なぜかみんなめっちゃ笑ってた。だから嫌なんだよ、運動は。

 目を閉じ、ゆっくりと意識が遠のいていく。


「ねえ、村雨さん。絶対に受けるべきよ。あなたはそれに見合う実力がある」


 麗奈の声だ。村雨と何か話してる……?


「ありがとう。でも、もう少し考えさせて欲しいの。まだ決心がつかなくて……」


 決心? 何の話だろう。


「もちろん、私に口を出す権利はないわ。でもね、客観的に見てもあなたは、私のライバルとなり得る存在よ。ここで終わるのはもったいない」

「その言葉は、とても嬉しい。でもね、やっぱり怖いの。自分のトラウマと、もう一度向き合うのは」


 村雨の……トラ………ウマ………―――――


「まあ、時間はあるし、焦る必要はないわ。でもこれだけは覚えておいて。私はあなたと戦いたい。だからどうしても、受けて欲しい」


――愛北の、編入試験を――




一学期編ファーストシーズン、完


―――――――――――――

 お読みいただきありがとうございました!

 これにて一学期編は完結になります。

 投稿当初はこんなにも読んで頂けるとは思っておらず、読者の皆様には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

 続きはすぐには投稿できませんが、学くんと涼音ちゃんのいちゃいちゃや、沙羅ちゃんや萌奈ちゃんの掘り下げなど、まだまだ書きたいことはたくさんあるので、気長に待っていただけると嬉しいです。

 再開する際には近況ノートでも告知いたしますので、宜しければユーザーのフォローもしてみてください。

それでは改めて、お付き合いいただきありがとうございました!


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【一学期編完結】高校で主人公デビューをするため、志望校を下げて首席になった~なのにどうして推薦入学に俺より優秀な超絶美人がいるんだよ⁉ 薬味たひち @yakumitahichi

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