第31話 ひとりよがりのエゴイスト

 目の前の戦いに、俺は為す術もなく呆然としていた。


 自分達との居る場所と最前線で戦う者達との差に俺はただ打ちひしがれることしか出来ない。

 

 「っ!!」


 藍色の戦闘スーツから漏れ出るネオン光にも似た残像のみが奴の存在を認識させ、先程まで自分がなんとか持ちこたえていた相手を容易く蹂躙していたのだった。


 「…………」


 仮面の人物であったソイツは何も言葉を発さず、無言でただひたすら攻撃を打ち込んでいく。

 一撃一撃があまりにも正確に相手を捉えながら尚且つ早く無駄はない。

  

 むしろ、彼の攻撃を防いでいる敵に称賛を贈れる程。   

 「貴様……その力、何処で………!」

  

 「…………」


 僅かな鍔迫り合いで、怪物はソイツに問う。

 しかし、返答はなく無慈悲に刃を跳ね除けるとそのまま首を奪いに刃を振るったのだった。


 「っくそ!!」

 

 圧倒的な実力差に為す術もなく、そのまま敵の首元に奴のビームサーベルの刃が突き立てられた。


 「武器を下ろし、両手を上げ大人しく投降しろ。

 お前は協会に突き出し、そちらの情報全てを吐いてもらう」


 「黙れっ………!!」


 大人しく抵抗する間もなく敵は激高すると、その衝撃の余波でお互いに距離が開く。

 

 「貴様、リベラティオとか言ったな………。

 その程度で勝った気になるとは、私も随分と舐められたものだなぁ!!」


 「お前では俺に勝てない。

 まだ分からないのか?」


 「黙れ!!

 私はグーラの誇り高き戦士、アラクネ。

 インヴィディアの手先に劣るなど、断じて許されない。

 まして、この世界の猿共の劣るなど我が一族最大の汚点に他ならない!!」


 「この世界の人間を軽視しない方がいいぞ、グーラの戦士?

 そこにいる人間にさえ、お前は苦戦していた程だ。

 いや、その奥で待ち構えているそちらの首謀者も恐らくこちら側の人間だろう?

 既に俺達はお前達にとっては無視できない勢力になりつつある。

 いつまでも大人しくお前達の餌になるとは思わない方がいいぞ」


 「貴様ァァァ!!

 その血肉が残らぬまで、潰してくれるわ!!!」


 怪物はそう言うと、全身に淡い蒼の光が溢れ幾何学模様を浮かべながら力を増大させていく。

 しかし、奴は何事もないかのように涼しい様子。

 ろくに武器も構えず、腕を組んでどこか呆れているようにも見えた。

 

 「インヴィディアの猿共がァァ!!」


 「全く面倒な奴だ」


 怪物の言葉を意に介さず、奴はゆっくりと武器を構えた。

 

 【これよりフェイズ2へ移行します。

 以降、武装及び身体強化の制限がレベル3となります】


 再び聞こえた無機質な機械音声と共に、奴の身体が強く輝き全身を包むスーツの形状が変化していく。

 ネオン光はより強く、その頭上には天使の頭の上にある円環のソレが現れたのだ。


 「アラクネ。

 悪いが、お前はここで終わりだ。

 せめて楽に終わらせてやろう………」


 「調子に乗るなァァァ!!」 


 鬼気迫る勢いで、アラクネは正面の敵に向かって斬り掛かる。

 対する仮面の人物はゆっくりと武器を構え、狙いを定め右足から前にゆっくりと踏み込む。


 瞬間、奴の姿は一瞬で消え去った。

 踏み込んだその後が全く見えず、驚く間もなく怪物と交錯する。


 音の無い時間が僅かに過ぎった後に、ゆっくりと怪物の首が床へと転がっていた……。

 それから間もなく、落とした首目掛けて再び刃を振り下ろすと、まもなくして跡形も無く消し飛んだのだった。


 「お前っ、もう戦いは終わったはずだ!!

 亡骸にまでそこまでする必要はない!!」


 「はぁ……、まぁ当然か……。

 そこのお前、やはり何も知らないんだな」


 「何がだよ?」


 「首を飛ばした程度で、こいつ等は死なない。

 例えるなら眠りについた状態と言えばいいか、確実に殺すなら奴等の体内に存在する核を確実に破壊する事が必須条件。

 が、お前達のような無知な輩は眠りについた状態を倒したモノとみなしているようだが……」


 「だからって、そこまでする必要は!」


 「その程度の実力で生き延びただけ幸運だったな。

 あれに上手く手のひらの上で踊らせておいて、自分はまだ戦えると思い上がるとは………。

 全く、お前のような奴のせいで余計な手間がかかるんだよ、足手まといも良いところだ……」


 「…………」


 「来るなら好きにしろ。

 俺の邪魔になるようなここで斬る」


 目の前の存在はそう言うと俺に武器を向ける。

 本気だ、素顔が読めないが気配でそれくらいは分かる、自分が足手まといだってことも………。

 でも、ここまできて、ここまでやって容易く引き下がるなんて出来る訳がなかった。


 「俺も行くよ。

 最後までやるって決めてるから」


 「好きにしろ」


 「………、リベラティオ。

 それがあんたの名前だよな?」


 「本名ではない、ただの識別名だ。

 昔の事はよく覚えていないがな………」


 何かの既視感を感じた………。

 あの佇まい、気配は違うが………。

 あの姿を昔何処かで俺は見ていた。

 何処で見たかは、思い出せないが………。


 「そうか、素顔は出せないのか?

 それとも、仮面で隠さなきゃならない理由でも?」


 「…………俺の顔にそこまでの価値はない。

 ただ、役職上目立つ事は避けたいんだ」


 「国際モノリス協会所属……、それだけで随分と俺達の業界ではかなり有名人だろ?

 俺はそこまで他国の猛者達に関しては詳しくないが、お前の実力は俺の見た中で、一番強い奴だと思う」


 「…………」


 そして、気になった事がもう一つ。


 「戦う前に、自分からお前はインヴィディアの王の候補者だと言ったな」


 「それがどうした、エリスの器」


 奴はそう言葉を返し、エリスを名前を出した事で俺は驚きを隠せなかった。


 「知ってたのか、俺の事?」


 「当然だ、ただ今お前をどうこうするつもりはない。

 未熟な器、下手に手を出して他の勢力を刺激したくはないことと……。

 俺個人の目的を果たすなら、この世界を守る為にお前を他の勢力に渡さないように尽力する。

 他の勢力に向かうなら、この手で始末だけだが」


 「味方って訳でもないんだな」

 

 「俺は俺の正義の為に動く、より多くの者を守る為なら少数の犠牲は問わない。

 一人でも少ない犠牲で済むのなら、どれだけ死を増やそうと構わない」


 「………正義の味方か……。

 ただ俺の知ってる正義の味方とは全く違う」


 「現実を見ろ、無知は罪と等しい。

 何も知らずに、一方的な見方で正義を語るなど自分よがりのエゴイストだからな。

 時間が惜しい、付いてくるならさっさと来い」


 奴はそう言うと、そのままダンジョンの奥へと足を急いだ。

 その背中を追うように俺も向かうが、何処か奴の後ろ姿はもの悲しさのようなナニカを俺は感じていた。

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石板の迷宮と碑の巫女 ラヴィ @Ravic

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