第30話 繋がれ、生かされた命
動かない巨大な亡骸を眺めていた。
ついさっきまで、罵詈雑言を互いに言い合い喧嘩の絶えなかった。
しかし、紙一重の過ちにより容易く命は奪われる。
あまりにも軽い命……。
エリスの為に俺が庇う道理はあっても、アイツが俺を庇う道理なんて無かった。
アイツの家族をその手に掛けた。
なのに、エリスの為に俺を生かした。
エリスの居る、この世界の為に俺を生かした。
「こんな形で決着が付くとは、残念だ。
もっと君とは刃を交えたかったのにな……。
いかに未熟で器と言えど、所詮はただの人。
目の前の死を受け入れられず、失意に飲まれたか」
ゆっくりと、アラクネと名乗った目の前の怪物がこちらの命を狩り取る為に歩いてくる。
「残念だよ、本当に残念だ……」
そんな事を呟いて、今のこの戦いを終わらせる為に近づいてくる。
終わり?
この戦いはもう終わり?
俺はこんなところで、終わるのか?
『ご主人、君は最後まで戦ってくれ。
生きる為に、自分の大切なモノを守る為に………』
「っ!!」
脳裏に過ぎった、ササミの言葉……。
言葉に奮いたたされ、迫り来る敵の刃を無意識に俺は弾き返し、俺は敵を見据えて武器を構えていた。
「ほう、まだ戦うか………。
面白い」
「俺は死ねないんだよ、このまま………。
このまま死んだらササミの、ポルトスの死が無駄にってしまう、だから出来ない。
エリスの為に託されたこの命を俺は絶対に無駄にするわけにはいかないんだ!!」
「…………」
武器を構え、刃の切っ先を敵に向ける。
恐怖で震えるその手に、僅かでも大きな力を込めていく。
俺は、エリスに見出された王の選定者の一人。
それが目の前の存在に劣るものなのか?
いや、違う……。
その程度の力が、エリスの与えた力ではない。
目の前の奴は確かに強い、恐らく今の俺よりも………。
でも、アイツに勝たなきゃいけない。
アイツに勝てる力が欲しい、いやそこに届かせる。
俺は、エリスに選ばれた王の候補者。
「だから俺は負けられない
今目の前にいるアラクネ、お前だけには絶対に負ける訳にはいかないんだよ!!」
込められた力に、右手のモノリスが強く光を放つ。
すぐ横に倒れる猫の亡骸を光は包み込み、俺から放たれる光に飲み込まれ、全身に何かの力が満ちていく。
ササミの亡骸に残された力の残滓が俺に戦う力を与えてくる。
俺の得意とする水の異能の力が、全身を包み水が羽衣のように外套を成し、手に持った水の刃も外套の力に共鳴したのか色と形を変え漆黒の波打つ刃を形作っていった。
「お前を倒して、俺はエリスを守って見せる!
もう誰も、俺の目の前で失わせはしない!!」
●
目の前の少年は先程までとは別人かのように、凄まじい勢いで攻撃を放ってきた。
一撃一撃が加わる毎に、僅かながら速度と力が上がっている。
「面白い!戦いはこうでなくてはな!!」
「っ!!」
鬼気迫る勢いとでも言うのか、がむしゃらにただ目の前の事ばかりに気を取られている。
実に単調だが、繰り出される膨大な力故に技を捻らずとも十分相手を屠るに至れる力があった。
ただソレは攻撃が当たればの事。
当たらなければどうという事はない……。
「ほら、どうした?
その程度か?」
「お前だけは絶対に今ここで倒してみせる!!」
声に呼応するように、また僅かに攻撃の速度が上がっていく。
いつ振りだろう、ここまで私を楽しませる程の者はあの弟子以来だろう……。
経験の浅さを除けば、それ以外は比較的高い評価。
体格もそこまで悪くもなく、若さ故に起点の良さがある種の第六感としてこちらの攻撃を一手一手確実に対応してくる。
常に反撃の機会を伺っているようだか………。
攻撃に反応出来る程度、攻め手には欠ける。
「つまらないな、やはり……」
攻防の均衡が途切れた刹那、僅かな隙を目掛け私の刃が彼の首を捉えた。
明らかな、確実な勝ちを確信した瞬間。
私の刃は、彼の身体をまるで水を切るかのように通り抜けてしまった。
「………!?」
敵の姿が幻のように消え、水の塊と化した彼の身体が私の身体を捉えそのまま衝突。
いつの間にか実体を何処かへ隠し、私は幻と刃を交えていたようであった。
「………そこっ!!」
背後を狙った気配に勘づき、すぐさま刃を振るうも水の幻を斬り裂くだけでまた仕留め損ねる。
不意に何かの悪寒が全身を巡った。
実体が見当たらず、水の幻が先程から私の命を奪おうと向かってくる。
その際に現れる殺気、いや殺意や敵意を向けた際に盛れる異能の残滓を、あの水の幻の全てから私は感じていた。
この手の攻撃を、この短時間で形とするのは天性のソレと評価出来る。
ただ目の前の存在に勝つ為に、たったそれだけの為にここまで自分の力を引き出せるのはかなりの芸当。
「面白い……、さあ全力で来るがいい!!」
私の声と共に、数多の幻が私を取り囲むように現れる。
僅か数秒の間に、数百近い水の幻が現れたのだ。
「数を積めば勝てるとでも?」
異能の力を込め、取り囲む幻達に攻撃を飛ばす。
こちらの斬撃を飛ばした程度、あの幻を消すには十分であり私の思惑通り、幻達はただの水の戻りそのまま雨のように降り注いだ。
数に頼った無粋な策、そう思った刹那……。
降り注ぐ水滴達が空中で停止し雲の巣のように形を変えると私の回りを取り囲みに向かってくる。
「二段構えか……まぁ、このくらい当然だろうな」
再び斬撃をこちらが放ち、取り囲んだそれ等を切り裂き退路を開いていく。
二段構え、まぁ悪くはない。
実体を持った幻、その解除をされた際の次の一手として先程の捕縛系の異能を組み合わせた。
この技量をこの僅かな時間で形にするとは………。
「やはり殺すに惜しいな!!
気に入ったぞ小僧!!!」
●
目の前の化け物は底なしも良いところ。
どんな攻撃もすぐに反応してくる。
幻を用いた攻撃は愚か、それに仕込んだ拘束さえも軽く対応してみせた。
というか、まだまだ相手は全然本気ではない。
こちらは最初から全力で挑んでるはず。
なのに、食らいつくので手一杯。
そんな俺の思考なんぞ知らず、敵はこれから本気モードって具合……。
RPGでいうところの第二形態って辺りか……
自分出来る手は限られてる。
コレ以外の手もあるにはあるが、糸を用いた攻撃では恐らく斬られておしまい。
水で包み込もうにも、俺の技量じゃ多分逃げられる。
大口叩いた割にかなり不利。
でも、負けられない。
ササミが繋いだこの命を無駄には出来ないからだ。
「もっと力があれば………俺にもっと力が……」
一体何処まで欲すれば、その手を伸ばせば奴に届きうる力に届くんだ……。
焦りを覚える、まさに敵は今この瞬間にも俺の命を奪いに来る。
敵の姿を視界に捉える中、敵の背後……。
入口側に向かう回廊から新たな人影が見えて来たのだ。
こちらへの援軍か?
それとも俺達を嗅ぎつけて追った敵の手先か?
「小僧、一体何を見て……」
奴が俺と同じ方向へとゆっくりと視線を向け、その存在を視界に捉えた。
黒いロングコートを羽織った仮面の人物。
無表情というかのっぺりとした、目と口のところに小さな穴が開いている白面の人物が現れたのである。
「未覚醒では、所詮この程度といったところか」
仮面の人物はそう言うと、ゲームのカセット状の形をした何かを取り出し、それに付けられたボタンを押すと蒼い光と共に機械的な音声が鳴り響く。
【ユーザーを認証及びロックを解除。
これより戦闘形態へと移行します】
カセット状のそれが光を放ちながら粒子状に拡散され、仮面の人物の全身を包む。
紺と青を基調としたまるで悪魔を模したかのような機械のような戦闘スーツに身を包むと、腰に備えた端末らしきモノを取り出す。
取り出した端末は奴の意思によりビームサーベルへと変化すると剣先を異型の怪物へと向けた。
「俺はインヴィディアの王の候補者が一人。
モノリス協会第二席、リベラティオ。
俺達の世界に手を出したのはお前達か?
覚悟はいいな、グーラの戦士よ」
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