第8話理事長の孫 桜井凛の願い 生徒会選挙編
おじいちゃん「凛は桜が好きかい?」
凛「うん。大好き。」
おじいちゃん「そうか。私も好きさ。」
凛「でも、もっと咲いてて欲しい。」
おじいちゃん「そうだね。でも、少ししか咲かないからこそ美しく尊い故に好かれるのかもしれないね。」
凛「よく分かんない。」
おじいちゃん「いつか凛にも分かる日が来るよ。その時はまた一緒に桜を見に行こうね。」
凛「うん。約束だよ?」
おじいちゃん「約束だ。」
文化祭も終わり季節は冬になろうとしていた。
今年も残り少なくなってきた。
年末が近づくにつれて寂しい気持ちになるのは俺だけだろうか?
帰りのホームルーム
黒井「生徒会選挙がもう少しで始まる。詳しい話は実行委員からしてもらう。」
実行委員「はい。それじゃあ、生徒会選挙について説明させて頂きます。生徒会選挙では生徒会長、副生徒会長、書紀、会計の4人を選挙で投票して決めます。立候補したい方は実行委員もしくは先生の方に申し出て下さい。」
黒井「自分達のことだからちゃんと考えて投票するようにしろよ。」
生徒会ね〜。わざわざ面倒くさいことをやりたいとは思わないね。
ホームルームが終わり俺はいつも通りに部室に向かおうとした。
桜井「海城君ちょっといい?」
昌磨「へっ?」
俺を呼び止めたのは俺と同じクラスの桜井凛(さくらいりん)さんだ。
昌磨「俺に何か用かな?」
桜井「海城君今から部室に行くんでしょ?私も一緒にいい?」
昌磨「別にいいけど、俺に付いてくるってことは何か相談したいことがあるってこと?」
桜井「そう。向かいながら話しましょうか。」
俺は桜井さんと一緒に相談部の部室に向かった。
昌磨「それで相談したいことって何かな?」
桜井「相談したいことっていうのは生徒会選挙の件。私生徒会長に立候補しようと思っているの。」
昌磨「生徒会長に?!ていうことは相談したいことって選挙の手伝いをして欲しいとか?」
桜井「そう。引き受けてくれる?」
昌磨「それは相談部の他の部員にも聞かないと分からないけど、立候補しようと思った理由を聴いてもいいかな?」
桜井「それを話すにはまずは私のことを話す必要があるかな。私はこの学校の理事長の孫なの。」
昌磨「理事長の孫?それが生徒会長になるのと何の関係があるんだ?」
桜井「理事長の孫だからこそ私はこの学校のことについて普通の生徒よりも詳しく知っているの。まだ決まってはいないのだけれど来年の春頃に新たな学校施設を建設する計画があるの。」
昌磨「新たな学校施設の建設計画かそれが関係してくるってこと?」
桜井「そう。その施設の建設予定地には今桜の木が植えられているの。」
昌磨「あ〜。あの桜の木か。あれは立派な桜だよね。」
桜井「そうなの。あれはこの学校が出来た時に植えられた桜の木なの。だから、私のおじいちゃんにとっても私にとっても大切な桜の木なの。」
昌磨「それで桜井さんが生徒会長になりたいのは生徒会長になってその工事を止めさせたいから?」
桜井「そう。今その工事に賛成なのと反対なのとの割合はほぼ同じなの。だから、私達在学中の学生の意見はとても重要になってくるの。」
桜井「だから、私は生徒会長になって生徒代表として工事反対の意見を学校の理事会に提出したいと考えているの。だから、私は生徒会長にならなければならないの。」
昌磨「なるほど。理由は分かったよ。じゃあそれも踏まえて相談部の他の部員にも説明するよ。」
桜井「えぇ。お願い。」
俺達は相談部の部室に着いた。
ドアを開けるとそこにはアイリスと茜ちゃんともう1人男子生徒がいた。
桜井「貴方なんでここに?」
速瀬「おや、どうやら考えることは同じなようですね。桜井さん。」
桜井「ということはやっぱり貴方も生徒会長選挙に立候補するつもりなの?」
速瀬「いえ、生徒会長に立候補するのは国見聖也君です。私が彼を推薦しました。勿論、彼もやる気満々ですよ。」
昌磨「国見聖也って確か文化祭の時にシンデレラの王子役をやってた人だよな?」
茜「そうっす。雑誌モデルもやってるイケメンさんっす。」
アイリス「なるほどね。彼の人気があれば生徒会長選挙でも有利になれるわね。」
速瀬「その通りです。でも、味方は多いにこしたことはありません。なので、相談部の皆さんにもご助力を頂きたいと思いましてね。如何でしょうか?」
桜井「ちょっと待って私も相談部にお願いに来たの。勝手に話を進めないでくれる?」
アイリス「これは困ったわね。」
茜「こんな時は部長に頼るしかないっすね。」
昌磨「お前らこんな時だけ部長呼びするなよ。」
アイリス「あら、それなら普段から部長と呼んだほうが良かったかしら?」
昌磨「いや、今まで通りでいいよ。」
茜「それでどうするんすか?」
昌磨「そうだな〜。そう言えばまだ彼は名前を聴いてないんだけど。」
アイリス「彼は速瀬航(はやせわたる)君。私と同じ2年A組よ。」
昌磨「ていうことは最初にアイリスが話を聴いた感じ?」
アイリス「そうね。」
昌磨「なら、アイリスと茜ちゃんは速瀬君の手伝いをして俺は桜井さんの手伝いをするのはどうかな?」
アイリス「私は別に構わないわ。」
茜「それって私達と昌磨先輩が敵同士になるってことっすか?」
昌磨「まぁそうなるな。」
茜「うーん。なら私はどっちにも協力しないっす。」
昌磨「そっか。分かった。けど、投票にはちゃんと参加しろよ?」
茜「分かってるっすよ。」
速瀬「結論が出たようだね。それじゃあ、また明日から頼むよアイリスさん。」
アイリス「えぇ。分かったわ。」
速瀬「選挙楽しみにしてますよ桜井さん。」
桜井「私は絶対に生徒会長になってみせるわ。」
速瀬君は相談部の部室から出て行った。
昌磨「いや〜まさかこんなことになるとはね。相談部として手伝えなくて申し訳ない。」
桜井「仕方ないの。また明日からよろしくね海城君。」
昌磨「あぁ。よろしく。」
こうして生徒会選挙に向けて各自行動することになった。
数日後には立候補者の名前が掲示板に貼り出された。
生徒会長には2人副生徒会長に2人書紀と会計には3人ずつが立候補している。
そしていよいよ選挙活動期間に突入する。
選挙活動期間内は立候補者達は自分をアピールするために毎朝と帰宅時間に正面玄関で挨拶運動を行う。
勿論桜井さんも挨拶運動を行っているがやはり国見君の人気は凄まじく毎朝行列になっている。
中にはうちの生徒じゃない人まで並んでいる。
帰宅時間の挨拶運動が終わった後に桜井さんと2人で作戦会議を行っている。
場所は俺が居候させて貰っている喫茶店だ。
昌磨「すみません。場所を借りてしまって。」
舞「いいのよ。昌磨君のお家なんだから気にしなくていいの。はい、サービス。」
桜井「ありがとうございます。」
舞さんはサービスで飲み物を用意してくれた。
昌磨「それじゃあ改めて選挙活動について話し合おうか。桜井さんが言ってた工事の件だけど、あれは選挙の時に言う訳にはいかないのかな?」
桜井「多分厳しいと思うの。まだ決定した訳じゃないから学生に知らせても混乱させるだけになると思うし理事長や校長先生からならまだしも一学生が言い出しても信憑性もないもの。」
昌磨「確かにそうか。なら桜井さんは公約はどうするの?」
桜井「私の公約は来年の春に桜の木の下で学生や先生達と花見大会を開催することよ。」
昌磨「花見大会か。それは楽しそうだね。それにその公約なら桜の木を守る理由にもなる。学生を味方に出来るかもしれない。」
桜井「そうなの。だけど、これだけじゃまだ弱いかもしれない。」
昌磨「そうだね。国見君の人気は想像以上だね。」
桜井「どうしたらいいの?このままじゃおじいちゃんの桜の木が守れない。」
昌磨「理事長って今は病院に入院してるんだっけ?」
桜井「そうなの。来年からは父が引き継ぐことになってるの。父は今のところは桜の木を残すよりの考えだと思うけどそれもこの選挙の結果次第で変わるかもしれないの。」
昌磨「なら負けるわけにはいかないね。」
だが決定打がないまま選挙活動期間は過ぎていき立候補者による立会演説会まで残り数日となった頃校内にある噂話が広まっていた。
その噂話というのは来年の春に学校の敷地内に新しい施設が建設される予定だという噂である。
放課後に俺と桜井さんはいつも通り喫茶店に集まっていた。
桜井「海城君もあの噂話は知ってるの?」
昌磨「あぁ、クラスメイトから聴いたよ。」
桜井「噂話を流したのは速瀬君でしょうね。あの工事の件は学生だと理事長の孫である私と校長の息子である速瀬君しか知らない内容だもの。」
昌磨「だろうね。しかも、あの噂は桜の木を伐採するっていう箇所は取り除かれているね。」
桜井「重要なのは新しい施設が建設予定であるという情報だからね。この噂によって学生の間ではなんの施設が建つのかという話で持ち切りになる。」
昌磨「こうなると皆の興味が新しい施設に向いてしまって桜の木を伐採するのも仕方ないって考えの人が増えるかもしれない。」
桜井「やられたわね。」
昌磨「そうだね。おそらく速瀬君達は立会演説会でも新しい施設に関する公約を発表してくるかもしれない。」
桜井「でしょうね。なら、私達も桜の木が伐採されることを発表するしかないの。」
昌磨「そうだね。でも…」
桜井「分かってる。厳しいのは。」
もし今回の選挙が桜の木を伐採して新しい施設を建てるか伐採をしないかだったらまだ勝負は分からなかったと思う。
だけど、既に学生の間で新しい施設への期待が高まってしまっている場合に後から桜の木が伐採される話をしてもそれは仕方ないと考える人が勝るのは仕方ないことだ。
それに国見君の人気もプラスされるとなると正直勝ち筋が見えない。
今回は相手の方が一枚上手だったということかな。
それから特に打開策も浮かばずにその日は解散になった。
桜井凛の自宅
桜井「このままじゃおじいちゃんとの約束が守れない。私はどうしたらいいの?」
?「お困りのようだね。」
桜井「誰?!」
?「おっと、驚かせてすまない。私はミラン。君達に分かりやすく言うなら悪魔さ。」
桜井「悪魔?!悪魔が私に何の用なの?」
ミラン「何か悩んでいるんだろ?私で良かったら相談に乗ろうと思ってね。」
桜井「悪魔に相談することなんて何もないの。私の部屋から出て行って。」
ミラン「出て行ってしまって本当にいいのかい?私なら君の悩みを解消してあげられるかもしれないよ?」
桜井「貴方なら私の悩みを解消出来るの?」
ミラン「あぁ、だから私に相談してみない?相談するぐらいなら問題ないんじゃないかな?」
桜井「まぁ話だけなら…」
桜井はミランに自分が抱えている問題について話した。
本来の桜井であれば悪魔に相談なんてしないのだが、悪魔と対面した人間は正常な判断が出来なくなってしまう傾向にある。
ミラン「なるほどね。桜の木を守りたい君は生徒会長になる必要がある。だけど、現状だと厳しい。なら簡単な方法があるよ。」
桜井「どんな方法なの?」
ミラン「それはね~」
それから数日が経ち立会演説会の日がやってきた。
立会演説会は立候補者が自分の公約を発表する場であり選挙において重要な場である。
実行委員「それでは、生徒会長に立候補している2年A組の桜井凛さん。お願いします。」
桜井「はい。」
桜井さんは壇上に立ち演説を始めた。
桜井「公約を発表する前に皆さんに話したいことがあります。現在学内である噂話が広まっています。その噂話の内容は来年に新しい施設が建設されるという噂です。」
桜井「この噂話の内容は本当です。但しまだ確定ではありません。そして、この噂話の内容には大事なことが抜けています。それは、その新しい施設の建設予定地が桜の木がある場所だということです。」
桜井「あの桜の木はこの校舎が建設された時に記念に植えられたものなのは皆さんご存知でしょうか?あの桜の木には我々の先輩方や勿論我々在校生にも沢山の思い出があります。」
桜井「そんな大切に守られてきた桜の木を切ってしまっていいのでしょうか?今一度胸に手を当てて考えてみて下さい。」
それから桜井さんは公約を発表し演説を終えた。
実行委員「次に同じく生徒会長に立候補していた国見聖也さんの演説に移りたいと思いますが国見さんは今日は欠席ということで実行委員が代読させて頂きます。」
国見君が欠席?
こんな大事な日に?
周りの生徒も困惑しているようだ。
実行委員の代読が終わり次に生徒会副会長の演説が始まったが副会長に立候補していた速瀬君も欠席しているようだ。
2人共欠席なんて偶然があるのか?
他の立候補者の演説も終わり投票の時間になった。
学年事に順番に投票を行っていく。
投票結果は翌日の朝に掲示板に貼り出されることになっている。
翌日
学校に向かうと掲示板の前には沢山の人がいた。
俺はなんとか掲示板を見てみると選挙の結果が貼り出されていた。
選挙の結果生徒会長は桜井凛に決まった。
喜ぶべきなのに心から喜ぶことが出来なかった。
心の何処かにモヤモヤした感情を抱きながら俺は教室に向かった。
教室に入ると桜井さんの机の周りをクラスメイト達が囲っていた。
皆桜井さんが当選したことを喜んでいるようだ。
俺はそれを横目に自分の席に着いた。
その後はいつも通りに1日を過ごして部活に向かおうとした時にスマホにメッセージが届いた。
確認すると桜井さんからだった。
部活が終わった後に生徒会室に来て欲しいという内容だった。
桜井さんは今日は生徒会の仕事の引き継ぎを行う筈だ。
だから、それが終わった後に生徒会室で会いたいということだろう。
まぁ多分選挙のことで少し話すぐらいかな。
俺はそんなことを考えながら部室に向かった。
部室に入るとアイリスだけが椅子に座りいつものように本を読んでいた。
昌磨「お疲れ。」
アイリス「えぇ。お疲れ様。」
昌磨「選挙期間中は部活が無かったからなんか久しぶりだな。」
アイリス「そうね。」
昌磨「国見君と速瀬君の件だけど、2人共まだ風邪で休んでるみたいだな。」
アイリス「そうらしいわね。担任の先生からの情報でしかないけど。」
昌磨「2人とは連絡とってるのか?」
アイリス「連絡先は知らないわ。」
昌磨「そうか。」
アイリス「2人のことが気になるのかしら?」
昌磨「まぁ2人同時にあのタイミングで休んだからな。そりゃあ気になるだろ。」
アイリス「それもそうね。でも、もう終わったことよ。そうでしょ?」
昌磨「そうなんだけどな。なんかモヤモヤするんだよな。」
そんなことを話しながら時間は進み桜井さんとの約束の時間になった。
今日は特にやることもなかったので部活も終わることになった。
俺はそのまま生徒会室に向かった。
生徒会室のドアをノックしてから生徒会室に入る。
入ると生徒会長の席に桜井さんが座っていた。
どうやら桜井さん1人のようだ。
昌磨「お疲れ。」
桜井「お疲れ様。わざわざごめんなさい。」
昌磨「別にいいけど、用件は何かな?」
桜井「選挙の時はありがとう。お陰様で当選することが出来たの。」
昌磨「いやいや、俺は大したことは何もしてないよ。桜井さんの想いが伝わったんじゃないかな。」
桜井「そう言って貰えると嬉しいの。そんな海城君には申し訳ないのだけれど私のお願いを聞いてくれるかしら?」
昌磨「お願いって?」
桜井「アイリスさんを呼んで欲しいの。」
昌磨「アイリスを?何で?」
桜井「何故ってそれは殺したいから。」
昌磨「はっ?!今なんて?」
桜井「だから、アイリスを殺したいから呼べって言ってるの。」
昌磨「何を言ってるんだ?何でアイリスを?」
桜井「いいから言う通りにすればいいのよ。じゃないとこの娘が死ぬわよ?」
そう言うと桜井さんはポケットからナイフを取り出して自分の喉元に突きつけた。
昌磨「なっ?!何をやってるだ。今すぐやめろ!」
桜井「早くしないと本当に死ぬぞ。」
そう言うと桜井さんは自分の喉元にナイフを少し突き刺した。
桜井さんの首からは血が流れている。
昌磨「分かった。呼ぶから少しだけ待ってくれ。」
俺はアイリスに電話をした。
昌磨「あっもしもし?アイリスか?悪いんだけど、今から生徒会室に来てくれないか?」
アイリス「いきなりどうしたの?」
昌磨「頼む。用件は聞かずに来てくれないか?」
アイリス「分かったわ。今から行くわ。」
電話を切り桜井さんの方を見る。
昌磨「アイリスは呼んだ。一体何がしたいんだ?」
桜井「お前には関係のないことだ。黙ってそこで見ていろ。」
しばらくしてアイリスが生徒会室にやって来た。
アイリス「なるほど。私に用があるのは貴方かしら?」
桜井「えぇ。あまり驚かないのね?」
アイリス「これでも驚いているのよ。貴方桜井さんじゃないわね?」
桜井「それぐらいは分かるのか。人形でも。」
昌磨「人形?」
桜井「お前の言う通りこの体は桜井凛の物だが、今は私に主導権がある。私の名はミラン。悪魔さ。」
アイリス「貴方の話は先生から聴いていたわ。先生の娘さんを殺した悪魔。」
ミラン「オイオイ、殺したのはあの女だろ?あの女が自分の娘を殺したんだ。」
アイリス「貴方の話に興味はないわ。用件を言いなさい。」
ミラン「用はお前を殺すことさ!」
ミランは持っていたナイフをアイリスの胸に突き刺した。
アイリス「でしょうね。でも、貴方の考えは読めているわ。」
アイリスはミランの腕を手で掴んだ。
ミラン「何のつもりだ?」
アイリス「拘束させてもらうわ。」
ミラン「拘束?何を言っている?」
アイリス「あとはお願いします。先生。」
黒井「あぁ、任された。」
ミラン「現れたか黒井仁美!」
黒井先生がアイリスの後ろから現れた。
黒井「お前の目的は私だろう?」
ミラン「そうさ。お前を殺すことが私の目的さ。その為にまずはお前の大切な人形を壊してやろうと思ってな。」
黒井「そうか。だが、お前が私を殺したいように私もお前を消し去りたいと思っていたのさ。故に私が何も対策をしていないと思っているのか?」
ミラン「対策だと?何をするつもりだ?また娘の時のようにお前の教え子ごと私を消すか?」
黒井「対策したと言っているだろう?アイリス、始める。」
アイリス「はい、いつでも大丈夫です。」
黒井先生はミランの背中に周り手をかざすと魔法陣が発動し黒井先生が何やら演唱を始めた。
ミラン「何だ?何をするつもりだ?」
黒井「貴様の魂を桜井から切離しアイリスに移す。」
ミラン「何だと?そんなことが出来るはずがない!」
黒井「お前らの様な悪魔や精霊などの思念体で尚且つ私が作ったオートマタでのみ可能性な芸当だ。」
ミラン「こんなことがあってたまるか!」
そう言った後にミランは気絶したようにその場に倒れた。
それと同時にアイリスも倒れた。
そしてしばらくしてアイリスが目を覚まし立ち上がろうとしている。
アイリス(ミラン)「バカなバカな。こんなことが。」
黒井「どうやら上手くいったようだな。それじゃあ、今すぐに消してやる。」
アイリス(ミラン)「待て、この人形はお前にとって大切なんじゃないのか?」
黒井「確かに私にとって大切なオートマタだ。だが、何かあった時の為にバックアップはとってある。問題はない。それじゃあ、消えろ。」
アイリス(ミラン)「嫌だ嫌だ嫌だ。」
黒井先生はアイリス(ミラン)に向けて手をかざし魔法陣を展開した。
次の瞬間アイリス(ミラン)は発火し消し炭になりその場から消えてしまった。
黒井「一件落着だな。海城。怖い思いをさせてしまったな。すまない。」
昌磨「俺は大丈夫ですけど、アイリスはどうなったんですか?」
黒井「大丈夫だ。君にはちゃんと説明するつもりだよ何せそれがアイリスの望みだからね。だが、その前に桜井を保健室にでも運ぶか。」
黒井先生は桜井さんを保健室に運ぶ前に桜井さんの頭に手をかざした。
昌磨「何をしてるんですか?」
黒井「彼女の記憶を少し弄らせてもらおうと思ってな。悪魔との記憶だけ消させてもらう。」
そう言って桜井さんの頭から手を離し彼女を担いで保健室に向かった。
保健室のベッドに桜井さんを寝かせてから保健室を出て黒井先生に付いてくるように言われたので付いていくことにした。
先生に付いていくと相談部の部室にたどり着いた。
昌磨「ここで話をしてくれるんですか?」
黒井「あぁ、だが君が思っている場所とはかけ離れた場所だがね。」
そう言って先生がドアを開けるとそこは俺の知っている相談部の部室ではなく別の場所に繫がっていた。
黒井「驚いたか?ここは私の研究室だ。一時的に私の研究室に繋げたのさ。」
昌磨「繋げたってもう何でもありっすね。」
黒井「なんだ?あんまり驚かないんだな。面白くない奴だな。君は。」
昌磨「いいから話を聞かせて下さい。」
黒井「そうだな。少し長くなるが構わないか?」
昌磨「はい。お願いします。」
黒井「そうだな。まず最初に説明すると私は魔法使いだ。そして、アイリスは私が作り出したオートマタいわゆる機械人形だ。」
黒井「どうして私がオートマタを作り出したかというとある少女を目覚めさせるため。」
昌磨「ある少女?」
黒井「そう。それがこの娘だ。」
黒井先生は部屋の奥にある棺桶を開けた。
棺桶の中には女の子が眠っていた。
この子は見たことがあった。
何故なら…
昌磨「アイリス?」
黒井「あぁ、アイリスはこの子を元に作られたのさ。だから、姿がうり二つ。」
昌磨「この子は一体誰なんですか?」
黒井「この子の名前は白石美冬(しらいしみふゆ)私の弟子だ。」
昌磨「弟子ってことは彼女も魔法使いなんですか?」
黒井「いや、この子はまだ見習いさ。1人前の魔法使いになるには魔法使いに弟子入りして認められる必要がある。」
昌磨「なるほど。それで、先生はどうしてアイリスを作り出したんですか?」
黒井「美冬を目覚めさせる為だ。美冬はミランに魂を抜かれてしまったんだ。1度魂を抜かれてしまってはもう助からない。今の美冬は生きてはいるが目覚めることはない。」
黒井「だが、私は美冬を目覚めさせる為の方法を考えて導き出した答えがオートマタに感情を収集させてその感情を美冬に与えれば美冬は目覚めるのではないかと思ったのだ。」
昌磨「感情を収集。それがアイリスの役目ですか?」
黒井「そうだ。物には長い年月により魂が宿るとされている。このオートマタには私の技術と魔力そして精霊の力を借りている。その結果アイリスに感情を芽生えさせることが出来た。」
黒井「あとはこの集めた感情を美冬に与えれば目覚めるはずだ。君には感謝しているよ、君と出会ってからアイリスには様々な感情が芽生えた。」
昌磨「そう言われても別に嬉しくないんですけど。あと、あの悪魔は何だったんですか?」
黒井「アイツの名前はミラン。アイツが美冬の魂を奪ったわけだが、そもそも何故そうなってしまったかと言うと原因は私にある。」
昌磨「先生に原因が?」
黒井「私には娘がいた。黒井奏(くろいかなで)という娘が。奏は幼い頃から虚弱体質でな殆どをベッドの上で過ごしていた。」
黒井「そんなある日私は美冬と出会った。美冬から弟子にして欲しいと頼まれて私はそれを許した。それから、毎日美冬に魔法を教えた。美冬には魔法の才能があり日に日に実力を上げていった。」
黒井「だが、それを奏はよく思わなかったのだ。奏は美冬とは仲良くしようとはしなかった。そして、美冬に嫉妬するようになりその嫉妬心からミランに騙され契約してしまった。」
黒井「奏はミランと契約し美冬の魂を奪った。私はミランを消し去る為に奏を殺した。だが、ミランはギリギリのところで逃げ出していたという訳だ。」
昌磨「なんとなくは分かりました。それで白石さんを目覚めさせることは本当に出来るんですか?」
黒井「やってみたいとわからないさ。さっきも言ったが君のお陰で効率よく感情を集めることが出来てね理論上では美冬を目覚めさせる為の感情は補填出来た筈だ。あとはこれを美冬に移すだけだ。」
先生は奥から水晶玉のような物を取り出してきた。
黒井「それじゃあ、早速始める。」
先生は水晶玉のような物を白石さんの体に近づけた。
すると、水晶玉のような物は白石さんの体の中に取り込まれた。
しかし、白石さんが目覚める様子はない。
黒井「目覚めるのに時間がかかるのかもしれない。もう下校時間を過ぎているな。君はもう帰りなさい。明日には結果を知らせよう。」
昌磨「分かりました。」
俺は先生に言われた通りに帰ることにした。
翌日
俺はいつも通り学校に向かった。
教室に入ると桜井さんが席に座っていた。
昨日の先生の話を信じると桜井さんの記憶からはミランの記憶が無くなっている筈だ。
昌磨「おはよう。桜井さん昨日は何か変なこととかなかった?」
桜井「おはよう。変なことって?」
昌磨「いや、特に無いならいいよ。ごめん。変なこと聞いて。」
桜井「?」
どうやら本当に覚えてないみたいだ。
しばらくして先生が教室に入ってきた。
だが、入って来たのは黒井先生ではなくて学年主任の先生だ。
学年主任「え〜急なことですが、黒井先生は一身上の都合で今日付けで退職されました。つきましては残りの3年生までの間を私が受け持つことになったのでその様にお願いします。」
黒井先生が退職した。
なんとなくその可能性もあるとは思っていたが流石に驚いたな。
だけど、これだとあの後どうなったのかが分からないままだ。
ホームルームが終わった後に俺は2年A組の教室に向かった。
教室の中にはアイリスの姿は見えなかった。
昌磨「すまん。アイリスを知らないか?」
2年A組の生徒「えっ?アイリス?何それ?」
昌磨「えっ?アイリスを知らない?」
2年A組の生徒「うん。知らないけど。」
昌磨「そっか。ごめん。」
アイリスを知らない?もしかして他の生徒の記憶からアイリスの記憶が消されているのか?
俺はそのまま相談部の部室に向かった。
そこには確かに相談部があった。
俺はドアを開けて部室の中に入った。
すると、そこには制服姿のアイリスではなくて彼女は…
昌磨「白石さん?」
白石「ん?やっと来たか。遅かったね。えっと、海城君だっけ?」
昌磨「あぁ、海城。海城昌磨。俺のことを覚えてないってことは俺のことは黒井先生に聴いたのか?」
白石「うん。そうだよ。先生から色々聴いたよ。アイリスのことも聴いた。」
昌磨「そっか。でも、君が目を覚ましたってことは黒井先生の実験は成功だったってこと?」
白石「そうなるね。私の記憶は私がミランから魂を抜かれるまでは覚えているよ。そこから先は先生から聴いて知った感じかな。」
昌磨「そっか。黒井先生は?」
白石「先生は旅に出る仕度をしているところだよ。だから、君にはお別れを言えないから代わりに私が言いに来たの。ごめんね。」
昌磨「いや、別にいいよ。ていうことは、君も先生と一緒に旅に出るの?」
白石「うん。私にはやりたいことが出来たから。そのために先生と一緒に旅をして1人前の魔法使いになる。」
昌磨「そっか。ちなみに、俺の記憶は消さなくてもいいのか?」
白石「うん。アイリスが望んだことみたい。だから、心配しなくてもいいよ。それに、君にはアイリスの事を覚えていて欲しいかな。」
昌磨「アイリスのことを?」
白石「そうすれば、あの子は私達の中で生き続けられるから。あの子がこの学校で過ごした時間を忘れないであげてね。」
昌磨「分かった。忘れない。」
白石「約束だよ。それじゃあ、もう行かなきゃ。元気でね。海城君。」
昌磨「あぁ、元気で。」
そう言って白石さんは部室から出て行った。
俺も授業を受ける為に教室に向かった。
今日からはまたいつもの日常が始まる。
だけど、その中にアイリスはもういない。
けど、俺は決して忘れることはない。
彼女と過ごした時間を…
黒井「すまないな。海城はどうだった?」
白石「どうって言われても初めて会ったからよく分からないですよ。でも…」
黒井「でも?」
白石「アイリスが気になった人なのはなんとなく分かったかな。」
黒井「そうか。なんなら残って普通の学生として生きていく選択も出来るんだぞ?」
白石「何度も言わせないで下さい。私にはやらなくちゃいけないことがあるんです。その為に私は1人前の魔法使いになってみせます。」
黒井「そうか。だが、私の指導は厳しいぞ?眠っていたからといって容赦しないからな。」
白石「望むところです!」
こうして白石美冬は黒井仁美と共に魔法使いになる為の旅に出ることになった。
魔女の相談室 火神ツバメ @kagami021
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