第7話海城夢は心配である 文化祭編

私には2つ年上の兄が1人いる。

兄は今年の春から都会の学校に転入してしまった。

その為兄とは春休み以来会っていない。

夏休みの時に実家に帰って来ていたようだが、その時私は海外に語学研修に出掛けていて会うことが出来なかった。

私は心配だ。

兄が無事に学校生活を過ごせているのかどうか。

だから、私は今度開催される兄の学校の文化祭に行く予定だ。

勿論、兄にはナイショで。

楽しみだな〜都会の学校の文化祭、ついでに都会に行くんだから買い物もしないとね。


文化祭当日


遂にこの日が来た!

待ちに待った文化祭だ!

流石は都会の学校の文化祭だ、活気に満ち溢れている。

色々気になるけどまずは兄を見つけなくては。

兄は教室にいるかな?

私は兄の教室に立ち寄ってみることにした。

兄のクラスでは喫茶店をやっているようだ。

とてもいい匂いがする。

何をするにもまずは腹を満たしてからよね。


長谷川「いらっしゃいませ!お一人様ですか?」


夢「はい。」


長谷川「それでは、席に案内しますね。」


席に案内され座りメニューを見てみるとアップルパイと飲み物はりんごジュースかコーヒーか紅茶があるようだ。


長谷川「ご注文は決まりましたか?」


夢「えっと、アップルパイとりんごジュースでお願いします。」


長谷川「かしこまりました。少々お待ち下さい。」


兄のクラスの喫茶店は結構繁盛しているようだ。

教室の外は少し行列になっている。

しばらく待つと店員さんが注文の品を持って来てくれた。


長谷川「お待たせしました。アップルパイとりんごジュースになります。」


夢「わぁ凄い!お店に出てくるのと変わらないですよ。」


長谷川「ふっふ。ありがとうございます。当店のパティシエは料理が得意なんです。見た目だけでなく味も美味しいので是非食べてみて下さい。」


夢「はい。いただきまーす!うー!美味しい!」


長谷川「それは良かったです。」


夢「あっそうだ。目的を忘れるところだった。すみません。お聞きしたいことがあるんですけど。」


長谷川「はい。なんでしょうか?」


夢「このクラスの海城昌磨って何処にいるか分かりますか?」


長谷川「海城君ですか?多分、相談部の部室にいるんじゃないかしら?」


夢「相談部ですか。それって何処にありますか?」


長谷川「えっとね〜。」


クラスメイトの方に相談部の場所を教えて貰った。


夢「ありがとうございます。行ってみます!」


長谷川「あっこれ良かったらどうぞ。」


夢「これは?」


長谷川「文化祭でやってる演し物でスタンプが貰えるんだけどそのスタンプをそのカードに押して3つ貯まるごとに一回くじ引きが出来るから是非参加してみてね。」


夢「分かりました!ありがとうございます!それでは失礼します!あと、これからも兄をよろしくお願いします!」


長谷川「あっ、行っちゃった。兄ってことは海城君の妹さんかな?無事に海城君に会えるといいけど。」


クラスメイトの方に聞いた相談部の部室に今向かっているけど、相談部って何をする部活なんだろう?

相変わらず兄の考えることは良く分からないな。


夢「あっ着いた!ここが相談部。よしっ待ってろよお兄ちゃん!」


私は相談部の部室のドアを開けようとしたが鍵がかかっていて開かなかった。


夢「開かないってことは留守かな?うーん。何処に行っちゃったんだろう?」


茜「おやおや?相談部に用事っすか?」


夢「はい。相談部っていうよりかは相談部の海城昌磨に用なんですけど。」


茜「昌磨先輩に用っすか。昌磨先輩ならさっき見たっすよ。」


夢「本当ですか?!何処で見ましたか?」


茜「私が案内してあげるっすよ。私は河井茜っす。貴方は?」


夢「海城夢です。よろしくお願いします。」


茜「夢ちゃんっすね。それじゃあ、行きましょう!」


そう言うと河井さんは私の手をとり歩きだした。


夢「あの1人でも歩けますから。」


茜「こうした方が逸れないっすよ。」


夢「だから、大丈夫ですって。」


茜「お姉ちゃんがちゃんと案内してあげるっす。」


茜に手を引かれながら歩きしばらくして目的地に着いたようでようやく手を離してくれた。


茜「ここに入って行くのを見たっすよ。だから、夢ちゃんも入りましょう!」


夢「ここに本当に兄が入って行ったんですか?」


茜「間違いないっす。ほら、行きましょう。」


夢「分かりましたから手を繋がないで下さい。」


そのまま2人は1年A組の教室の中に入っていく。

教室の中は薄暗く黒いカーテンで仕切られていてその一本道を進んで行く。


茜「夢ちゃんは幽霊とか大丈夫っすか?」


夢「幽霊なんているわけないじゃないですか。だから、大丈夫です。」


茜「そうっすか。あっ神社がありますよ。お参りしていきましょう。」


河井さんが言うように前には鳥居とお賽銭箱があった。

河井さんと一緒にお参りをしてお賽銭箱にお金を入れようとした。


茜「このお賽銭箱のお金の入り口が狭いから近くから入れないと駄目っす。」


夢「分かりました。」


確かにこのお賽銭箱は神社にあるようなお賽銭箱ではなくお金を入れる場所が一箇所しか空いていない。

そのため近づいて入れるしかない。

私はお賽銭箱に近づきお金を入れようとした時、お賽銭箱の後ろから手が出てきて私の腕を掴んだ。


夢「いや〜!」


茜「落ち着くっす。夢ちゃん。」


夢「助けてお兄ちゃん!」


しばらくすると手は私の腕を離してくれた。


夢「ハァハァ。助かった。」


茜「良かったっすね。でも、まだまだ終わりじゃないっすよ。」


その後も何度も驚かされようやく教室から出ることが出来た。


夢「ハァハァ。やっと出れた。」


茜「楽しかったっすね。それじゃあ、次は何処に行こうか?」


1年A組クラスメイト「ちょっと茜。そろそろ交代の時間よ。」


茜「え〜。仕方ない。夢ちゃん申し訳ないっすけどお姉ちゃんは仕事をしないといけなくなっちゃったっす。昌磨先輩なら多分バスケ部の助っ人に行ってる筈っす。」


夢「河井さんもしかして私のこと騙しました?」


茜「騙してないっすよ。昌磨先輩も確かにこのお化け屋敷に来てくれたっすから。」


夢「分かりました。本当かどうかは兄に聞きます。それでは。」


私はその場から離れバスケ部が演し物をしている体育館に向かった。

体育館の中ではバスケ部の人達が演し物をしていた。

兄がいるのか良く分からないのでもう少し近くに行くことにした。


杉山「いらっしゃいませ。良かったらどうですか?」


夢「あっ、はい。やります。」


杉山「バスケはやったことありますか?」


夢「はい。授業でなら。」


杉山「そうですか。じゃあ試しに1回やってみましょうか。ルールは簡単です。バスケのゴールに3回投げて1回でも入れば景品をお渡しします。」


夢「分かりました。」


私は授業でやってるようにボールを投げた。

ボールはゴールに当たったが入りはしなかった。


杉山「惜しかったね。じゃあ次は軸を意識してやってみようか。」


夢「軸ですか?」


杉山「そう。体に一本の軸が通る感覚で投げてみよう。」


夢「分かりました。」


私は言われた通りに体に一本の軸が通っているのを意識して投げてみた。

ゴールには入らなかったがさっきよりも綺麗に投げられたような気がする。


杉山「うん。さっきよりも良くなってるよ。じゃあ最後はフォームを意識しようか。正しいフォームで投げれば次はきっと大丈夫だよ。俺がお手本としてやるから見ててくれるかな?」


夢「分かりました。」


杉山は綺麗なフォームでシュートし見事ゴールにボールが入った。


夢「すごーい!」


杉山「それじゃあ、やってみようか。」


杉山のフォームを真似て言われたことを思い出しながら夢はシュートした。

ボールは見事にゴールに入った。


夢「やった〜!入りました!」


杉山「おめでとう!少しはバスケが楽しめたかな?」


夢「はい。凄く楽しかったです。」


杉山「それなら良かった。これ景品のりんごとタオルです。あとスタンプ押すね。カード持ってる?」


夢「はい。あります。ありがとうございます。ちなみに、なんでりんごなんですか?」


杉山「あ〜。実は別のクラスでりんごの発注ミスをしたらしくてね。それでこのりんごも景品にしてくれないかって頼まれてね。」


夢「そうだったんですね。あっそれと海城昌磨がこちらに来てないでしょうか?」


杉山「海城先輩ですか?実はさっき言ったお願いをしに来たのが海城先輩なんですよ。」


夢「あっそうだったんですか。兄がご迷惑をかけて申し訳ございません。」


杉山「いやいや、全然大丈夫ですよ。海城先輩にはお世話になってますしね。それより、兄ってことは海城先輩の妹さん?」


夢「はい。海城夢です。あの〜兄はバスケ部の方とどの様な関係なんでしょうか?」


杉山「そうですね。俺にとっては改めてバスケと向き合うきっかけをくれた人ですかね。だから、海城先輩には感謝してるんですよ。」


夢「そうですか。」


具体的には分からないけど兄がというよりは相談部として活動した結果って感じかな?


夢「あっそれと、兄を探してるんですがここに来た後は何処に行ったか分かりますか?」


杉山「漫画研究部に行くって言ってたよ。」


夢「漫画研究部ですね。分かりました。ありがとうございます。」


私は次に漫画研究部に向かった。

漫画研究部では似顔絵を描いてくれる催しを行っているようだ。

またしても兄の姿は見当たらないので似顔絵を描いてもらいながら兄の話を聴くことにした。


真一「海城先輩ですか?」


夢「はい。ここに来たと聞いたんですけど。」


真一「確かに来ましたね。俺が似顔絵を描いてたんですけど途中で軽音部の人達が来て海城先輩と何か話した後に俺にお姉ちゃんじゃなくて生徒会長の似顔絵を描いてくれってお願いされて描きました。」


夢「生徒会長の似顔絵を?なんででしょうか?」


真一「さぁ理由は分かりませんけど海城先輩なら変な事には使わないだろうと思って承諾しました。」


夢「ちなみに、漫画研究部と兄はどんな関係性なんでしょうか?」


真一「海城先輩というか相談部の皆さんには俺達の作品を作る手伝いをしてもらいました。俺も自分に自信を持つきっかけ作りに手を貸してくれました。」


夢「そうですか。分かりました。それじゃあ、兄は次に生徒会室に向かったんですかね?」


真一「多分そうじゃないかな?」


夢「分かりました。ありがとうございます。」


真一「あっまだ終わってないからもう少し大人しくしててくれるかな?」


夢「あっすみません。」


その後無事に似顔絵を描いてもらいスタンプも押して貰った。

私は次に生徒会室に向かった。

生徒会室にもやはり兄はいなかったので生徒会室にいた人に兄について聞いてみると生徒会長を連れて体育館のステージに向かったということが分かった。

私はすぐに体育館に向かった。

体育館のステージ側半分はパイプ椅子が沢山置いてありステージの催し物をお客さんが見るスペースになっていた。

現在は吹奏楽部による演奏が始まろうとしていた。

吹奏楽部には私の親戚の斉藤玲花ちゃんが所属していた筈だ。

私はパイプ椅子に座り吹奏楽部の演奏を聴くことにした。

思っていた通り玲花ちゃんが出て来た。

吹奏楽部の演奏が始まった。

代表的なクラシックだけでなく最近の流行りの曲も演奏されとても楽しめた。

吹奏楽部の演奏が終わると次は軽音部の出番のようだ。

軽音部といえば兄が何か話していたそうだけど何か関係あるのかな?

軽音部の人達が準備を始めると周りは少しざわめき出した。


生徒A「あれって生徒会長だよね?なんで生徒会長が軽音部と一緒にステージに立ってるんだろう?」


円華「え〜みんな驚いているようだな。正直私も驚いているよ。だけど、少しだけ話を聞いて欲しい。実は軽音部のボーカルの子の喉の調子が悪くて今日は歌えなくなってしまったんだ。」


円華「それで急遽私に歌ってくれと白羽の矢が立った訳だ。知っている人もいるかもしれないが私は生徒会長になる前は軽音部に所属していた。その経緯もあり今回私が代役を勤めることとなったわけだ。」


円華「本来の軽音部のライブを楽しみにしていた諸君には申し訳なく思っている。だが、私も任されたからには全力で挑む所存だ。だから、みんなも全力で聴いて欲しい。」


そして軽音部のライブが始まった。

生徒会長の歌声はとても綺麗で軽音部の演奏と凄く合っていた。

今日が本当に初めてかと思うほど完璧な仕上がりだと思う。

最初は皆驚いていたようだが途中からは皆声を出して一緒にライブを盛り上げていた。

それからあっという間にライブは終わってしまった。

その後もアンコールが鳴り響きもう一曲歌い上げて無事に軽音部のライブは終わった。

兄が生徒会長の所に行ったのはこの為だったのか。

そしてしばらくして次の催し物が始まろうとしていた。

次は2年A組による演劇でシンデレラをやるそうだ。

ステージの上では劇が始まろうとしていた。


夢「シンデレラ役の人綺麗だな〜。」


長い白髪に青い瞳まるでお人形さんみたいだ

そして王子役の人が出てくると客席から凄い歓声が聴こえてきた。

あれは確か雑誌モデルをやってる国見聖也(くにみせいや)さんだ。

この高校にいるとは聴いていたけど、やっぱりイケメンは凄いな。

シンデレラ役の美少女と王子役のイケメンの国見さんがハマり役過ぎて絶句してしまった。

気が付いたら劇は終わっていた。

私は兄を探すという目的を忘れて文化祭を楽しむことにした。

そもそもここで合わなくても今日は兄が居候している斉藤さんのお宅に私も泊めてもらう事になっているからそこで会えるし何も問題はない。

そして私は文化祭を一通り歩き回り最後にくじ引きをすることにした。

貯めたスタンプで3回は回せる。

特賞はなんと旅行券!

2等でもお肉が貰える。

私は全集中でクジを回した。

結果は6等のポケットティッシュが2つと5等のりんごが1つ。

ここにもお願いしていたのか兄よ。

私はがっくしと肩を落とした。


アシュリー「そこの貴方!良かったら私の券をあげますわよ。」


夢「えっ?」


私は顔を上げると前には金髪の長い髪の女性が立っていた。


夢「えっと、私ですか?」


アシュリー「そう、貴方。」


夢「えっでもどうして?」


アシュリー「貴方は昌磨の妹さんなんじゃなくて?」


夢「えっ?!なんで兄の名前を?というかなんで妹だと知っているんですか?」


アシュリー「さっきまで昌磨を探し周っていたでしょう?その時にたまたま話し声を聴いたの。」


夢「そうだったんですか。あの〜兄とはどういう関係なんですか?」


アシュリー「昌磨は私の友達よ。その昌磨の妹さんが困っているんだもの。助けるのは友人として当たり前よ。だからこのスタンプカードは貴方にあげるわ。私はもう行かないといけないの。だから、もしいらないなら捨ててくれて構わないわ。」


夢「そこまで仰るなら有り難く頂きます。ありがとうございます。」


アシュリー「どういたしまして。それじゃあ、私は行くわ。昌磨によろしくね。」


夢「はい。あのお名前は?」


アシュリー「名もなき魔法使いよ。」


そう言うとアシュリーはその場から歩きだした。


夢「魔法使い。変わった人だったな。けどこれでもう一回クジが引ける。」


私は貰ったスタンプカードを出してクジを引いた。

結果は…


夢「やった!2等だ〜今日は焼肉だ!ありがとう魔法使いさん!」


ナギ「昌磨君には会わなくていいのかい?」


アシュリー「昌磨と私達とは住む世界が違いますから私の仕事は昌磨達の世界を守ること。」


ナギ「そうだね。でも、相変わらず昌磨君は頑張っているようだね。」


アシュリー「そうですね。私も友達として負けていられません。」


ナギ「そうだね。それじゃあ、行こうか。」


アシュリー「はい。」


こうして文化祭は無事に幕を閉じた。


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