『memory06 story of my war 04』

弾き飛ばした刀をアンカーワイヤーで絡めとり

自身の背後へ投げ捨てる。

「1度のチャンス、、、か。」

ビャクヤの言葉を思い出し、そう呟く。

初手で1度きりの切り札を切った事

、、、間違いなく、愚策だ。

でも、俺がビャクヤの代わりにここに居るのなら

これはきっと、間違ってはいないはずだ。

こんな思いになるのは、初めてじゃない

幾度も通ったし、きっとこれからも通る道だ。

静かに刀を構え、キョクヤがもう一振りの刀に

手を伸ばすその前に、刀にむかって斬りかかる。

「コレハ王手カナ?」

不愉快な声と共に、右から弾丸が飛来する。

『キョクヤが不利になったり

 完全に意識がキョクヤに集中してると

 ヨイヤミの狙撃が、左右どっちからか飛んでくる。

 だから、左右は常に注意した方がいい。』

一発の銃声が鳴り響き

メビウスに向かう弾丸と空中で衝突し

弾道が逸れ、メビウスの頬を掠る。

「お前が元凶か。」

キョクヤが間合いから離脱したのを横目で確認すると

弾丸が飛来してきた方向に向き直り

ヨイヤミの後ろに隠れる、この事態の元凶である

『鏡人形』が姿を現す。

その体は、藁で出来ており

顔は一枚の鏡で構成されていた。

そして何よりも不愉快なのが、そいつの鏡に

ぽっかりと穴が開いたかと思うと

そこから言葉に似せた、不愉快な音を発している事だった。

「アラ、アラ、アラアラアラ

 防ガレチャッタ。

 ズルハ、イケナインダ!

 イケナインダ!」

そう言いながら、鏡人形が頭をくるくる回す。

すると、どこからか「助けて」や「死にたくない」という

声と共に、銃で武装した民間人が姿を現す。

「誘拐した一般人か。」

メビウスがそう呟くと、鏡人形は

嬉しそうにこう言った。

「セイカイ! セイカイ!

 アノヒトガ言ッテタ!

 オマエ、コイツラ撃テナイッテ!

 ジャァ、、、死ネ!」

その言葉と共に、自身の意思とは関係なく

自身を取り巻く元一般人たちの銃口が

メビウスに向き、そこから弾丸が放たれる。

「どいつもこいつも、同じ思考で来やがって、、

 だから本当に、腹が立つんだよ。」

メビウスはそう言い放つと、自身の青いコートを翻し

弾丸を防ぎ、その直後に弾丸が飛来してきた

方向全てに弾を撃ち返す。

その弾丸は、見事に元一般人たちの脳天を貫き

瞬く間に、全員が物言わぬ屍となった。

「ナ、ゼ?」

「何故も何もねぇよ。

 良くも悪くも、俺は自分の役目を果たすだけだ。」

そう、俺が任されたのは

『人類の敵』の排除。

だから、それがたとえ人間の形をしていようと

はたまた人間だろうと、社会に混乱を招き

死傷者をより多く生み出してしまう存在ならば。

それを殺すのが、俺の役目だからだ。

「、、、気が変わった。

 お前は最後だ。」

その言葉と共に、メビウスの姿が消える。

否、キョクヤの懐まで一瞬で接近したのだ。

その接近に気づいたキョクヤが反射的に

メビウスのその白い刀を自身の刀で受け止める。

シュミュレーションの時と同じく

互いの刀がまるで悲鳴の様な音を上げ

火花を散らす。

「そろそろか。」

いつの間にか姿が消えているツクヨミの方に

一瞬視線を移すと、そこにツクヨミの姿はなかった。

そして、代わりと言わんばかりに

後ろから一瞬微弱な殺気と

耳障りな音が響いてきた。

「王手! 王手!

 カッタ! カッタ!」

一つ覚えのサルみたいに、そんな耳障りな音を

何度も何度も響かせ、後ろから

メビウスを撃つ様に、ヨイヤミに仕向ける。

『、、、そうだ。

 これは覚えておいてほしいんだけど

 ヨイヤミは、射線上にキョクヤが居る時には

 何があっても、撃とうとしないんだよ。』

俺は、その言葉に対して疑問を感じ

こう聞き返した。

『何でだ?』

、、、と。

『昔それで、キョクヤに弾を当てちゃったことが

 あったらしくて、怖くて撃てないって

 キョクヤが言ってたんだ。』

ヨイヤミは撃たない。

否、体が撃つことを拒否してしまい

弾丸を発射することができなかった。

「、、、やっぱり、まだそこに居るんだな。

 お前らは。」

メビウスが悲しそうにそう呟くと

刀を持つ手の力を強め

強引にキョクヤの体勢を崩した。

そして、月影を投げ捨てた後

間髪入れずに、ナイフでキョクヤの喉元を掻き切り

流れるように後ろに振り向き

弾丸をヨイヤミへと放ち、その命を終わらせた。

「ナゼ? ナゼ? ナゼナゼナゼ?」

鏡人形は、壊れた電子機器のように

そんな言葉を繰り返す。

「さて、後は、、、後始末だけ、か。」

そうメビウスが呟きながら

キョクヤの二振りの刀と鞘を拾い上げる。

「イヤ、イヤ、イヤダイヤダイヤダ!」

腰を抜かした鏡人形が、悲鳴のように聞こえる不愉快な

音を何度も何度も響かせる。

「冥途の土産に教えてやるよ。

 俺は、やり残した仕事がある奴を葬った後に

 その仕事を、そいつの武器で終わらせる事で

 弔ってやるって決めてるんだよ。」

一歩、また一歩と、地面を踏みしめ

その両目で、鏡人形の存在しない瞳を睨みつける。

「シニタクナイ、シニタクナイ、シニタク・・・」

鏡人形の言葉を無視し

メビウスは、こう呟いた。

「唸れ、絶影。」

その声と共に、竜のような唸りを上げながら

双影の刃が、鞘から抜き放たれ

鏡人形の首を斬り落とす。

「任務完了。」

そうメビウスは言い、キョクヤの双影を地面に突き刺し

ヨイヤミの持っていたライフルを双影の隣に突き刺した。

その無機質な墓標をサヨナラの代わりに

メビウスは背を向け、歩き出した。


こうして、1つの事件が終わり

人類の最強の守護者を司る2人が、この世から去った。

そして、後日にビャクヤの刀である月影が

鞘に納められ、ビャクヤの部屋に立て掛けられていた。

「、、、汚れたまんまじゃないか。」

ポツリと、ビャクヤがそう呟きながら

月影を鞘から抜く。

すると、ひらりと一枚の紙が落ちてきた。

ビャクヤはそれを拾い上げて

目を通してみる。

すると、その紙にはこう書いてあった。

『お前の依頼は大体果たした。

 でも、1つだけ果たせなかったことがある。

 その刀で、キョクヤを殺すことはできなかった。

 間接的であれ、やっぱりお前に

 親友殺しをさせる訳にはいかなかった。

 、、、悪いな。』

宛先もなければ、差出人もない手紙。

存在しない、誰かからの手紙。

太陽の光で裏側が透け、そこに何かが書いてあるのに

気づき、紙を裏返してみる。

『最後に、一つだけ。

 確かに、お前はあそこに

 あの戦いの場に居たと、俺はそう思ってる。

 、、、じゃぁな。

 また会わないことを、祈ってる。』

親友を楽にしてやる事すら出来なかった

不甲斐ない僕への、不器用すぎる慰めの言葉で

その手紙は締めくくられていた。

そして、手紙をそっと閉じたビャクヤはクスリと笑うと

小粒の涙を流し、こう呟いた。

「、、、ありがとう。

 そして、さようなら。」

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Not a human 『memory06』 @Maccha11

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