『memory06 story of my war 03』

「『絶影(ぜつえい)』って、聞いたことあるかい?」

「、、、何だ急に。」

「いや、、、その、さっきの話だよ。」

「キョクヤを倒す手助け、ってやつか?

 それで、あいつの二つ名の絶影が

 今の話と何の関係があるんだ?」

メビウスが、そう問いかける。

「言葉で説明するよりかは

 見てもらった方が早いかな?」

その言葉にメビウスは首を傾げるが

そんなメビウスの様子を気にせず、ビャクヤは

シュミュレーションをスタートさせる。

「行くよ、ツクヨミ。」

手が震えている。

、、、まぁ、無理もないか。

データ体とはいえ、親友と殺し合いをするのだから。

「、、、大丈夫?」

傍から見ていたメビウスにだけ、気づくほどの

小さなその震えは、ツクヨミのその気遣いと共に

消え去った。

、、、なるほどな。

他人とのつながりってのも

案外馬鹿には出来ない、か。

「じゃぁ、行くよ!」

その掛け声と共に、ビャクヤは腰から

真っ白な刀身の刀を抜き、構える。

ツクヨミも呼応し、自身の背後に

金色の光で形成された矢を、幾本も展開させる。

瞬きの間にビャクヤが斬り込み

キョクヤがその斬撃を、黒い刀身の刀で受ける。

、、、同じだ。

俺が直剣で打ち合った時と同じ

あのままじゃ、どちらかの刀が折れる。

それが、ビャクヤの方だったら事だ。

「離脱した方がいいと思うぞ。」

メビウスが、ビャクヤにそう言葉を投げかける。

が、ビャクヤはこう返した。

「普通なら、確かにそれが正解だけど

 キョクヤ相手なら、話が変わってくるん、、、だっ!」

キョクヤの刀を力任せに弾き飛ばし

がら空きになったキョクヤの胴体、、、ではなく

もう一振りの刀を抜こうとしている手に向かって

刀を振り下ろす。

「ツクヨミ!」

ビャクヤが唐突にそう叫ぶと

キョクヤのもう一振りの刀が、唸りを上げながら

目で追えぬ速度で、鞘から降り抜かれ

ビャクヤの白い刀身とぶつかり合い

直視できないほど眩い火花を散らす。

それと同時に、ツクヨミの能力によって作り出された

金色の矢が空中に放たれた後、二分され

片方はキョクヤの刀を握る手に、もう一方は

遮蔽物で陰になっている場所に降り注ぐ。

するとどうだろう。

メビウスが幾度挑もうとも倒せなかったキョクヤ達が

いとも簡単に膝をついたのである。

「、、、は?」

思わず口から言葉がこぼれる。

「絶影。

 それが、多分君がキョクヤ達に勝てなかった

 一番の原因だと思うよ。

 まぁ、今のだとちょっと

 分かりにくかったかもしれないけど、ね。」

、、、絶影?

あれはただの二つ名じゃなかったのか?

「正直、色々頭が追い付かない。」

メビウスがそう言うと、ビャクヤはこう話し始める。

「キョクヤが、刀を抜く時に少し変な、、、というか

 普通じゃない挙動な時があったろう?

 あれが、絶影。」

そう言われると確かに、刀を抜く時だけ

力が強かった、、、というより

動きが見えすらしなかった。

見えたのは、刀を抜く寸前の予備動作だけ。

刀を振り抜き、その刀がどこを斬ったのかは

全く見えなかった。

「居合、、、ってより、抜刀術に近いアレか。」

「その通り。

 キョクヤが使う刀、『双影(ふたつかげ)』の

 鞘の中のギミックが、刀を抜く時の速度を

 通常の何倍にも引き上げた、キョクヤの切り札。

 まず、絶影を出されたら、避けることは不可能だし

 見てから防ぐことも、絶対にできない。」

双影、、、そうか。

ナンバーズ専用にチューンされていたのか、あれは。

「じゃぁ、その絶影とやらを

 どうしたら封じ込めることができるんだ?」

「それは、、、」


『作戦準備完了しました。

 メビウスさん、準備をお願いします。』

「了解。」

廃れた廃ビルの屋上から、砕けた道路の上に

佇む二つの人影に目線を向ける。

一人は、キョクヤ。

そしてもう一人は、ヨイヤミ。

俺が今日、、、これから殺す人の名だ。

「目標視認、任務を開始する。」

体を前に傾け、重力の任せるままに

自由落下する。

地面まで数メートルというところで

空中で体を回転させ、腕からワイヤーアンカーを射出し

ビルの壁に突き刺し、滑るように地面に降り立つ。

「まだ、その中に居るのか?」

拳銃を抜き、その冷たい瞳で

二人を見据えながら、メビウスはそう問いかける。

だが、いつまで待っても言葉は帰ってこない。

でも、彼らの目がこう訴えている。

『苦しい』と。

「まだ、その中に居るのか。」

深いため息をつきながら

拳銃の安全装置を外し、構える。

「、、、これだから、嫌なんだよ。」

キョクヤがまるで、操り人形のように

ふらつきながら一歩を踏み出すその音と共に

静かに、その殺し合いが始まった。

脳裏に、あいつとの会話が浮かび上がる。

『キョクヤの間合いに入ったら

 何があろうと、絶対に防戦に入らせることだね。

 、、、それさえ守ってれば、絶影は出せないし

 仮に出されたとしても、見切れると思うよ。』

瞬きの間に、眼前までその黒い刀が迫りくる。

『あぁ、あとそれと、、、』

その刃は、完全にメビウスの急所を捕らえており

下手な剣で受けようものなら

その剣ごと真っ二つになる様な鋭い斬撃だった。

だが、

「唸れ、絶影。」

そのひと声と共に、カーン。

そんな甲高い音が鳴り響き、キョクヤの刀が宙を舞う。

「、、、あいつに言われたんだよ。」

そう呟いたメビウスの手中には

ビャクヤの白い刀が握られていた。

『僕の武装、【月影(つきかげ)】

 この刀で1度だけ、キョクヤの絶影と同じことができる。

 だから、、、』

キョクヤの目に、確かに映ったその白き刃の後ろから

青い瞳が、キョクヤの瞳を覗き込む。

「こいつでお前を止めてくれってな。」

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