『memory06 story of my war 02』

「、、、はぁ。」

ため息が漏れる。

何故だろうか?

いや、何故かという理由自体は分かっているのだが

逆にその理由が分かっているが故に

自身の情けなさにため息が漏れる。

「いつもの君らしくない、というか

 まさか片腕を落されるとは、、、大丈夫かい?」

輸送機から降り立ったメビウスに

神宮がそう問いかける。

「大丈夫なわけないだろ。

 痛みと出血多量のせいで眩暈とふらつきが、、、っ。」

急激に痛みが襲い来る。

応急処置時や、その後にあまり痛みを感じなかったにも

関わらず、今痛みを感じた理由は

想像に難くない。

おそらくそれは、あの戦闘で興奮状態となり

アドレナリンが分泌され、痛みを和らげていたのだろう。

「無駄話をしてる暇はなさそうだね。

 、、、救護班、彼を頼んだ。」

神宮がそう言うと、発着場に待機していた救護班が

メビウスを担架に乗せた。

「あ、そう言えば、、、腕はどうしたんだい?」

救護班がメビウスを運ぼうと準備を着々と進めていた

その時、神宮が思い出したかのようにそう言った。

「目立つから置いてきた。

 それに、一応欠損部位の再生成と修復は

 可能ではあるんだろ?」

担架で横になっているメビウスがそう言うと

神宮はこう返した。

「いや、、、まぁ確かにできなくはないけども。

 年月がかかりすぎる上に、君の体は

 普通の人間の体じゃないのだから。

 きっと、体の方から拒否反応が出るか

 もしくは、機能不全を引き起こすのが関の山

 ってとこだろうね。

 ま、そういうことなら僕の部隊に回収させておくから

 気にしないで寝ててくれ。」

メビウスは目を閉じ、意識を沈める。


『医療ポットより

 仮想戦闘シュミュレーションシステムへの

 ログインを感知しました。』

俺の体は疲弊しきっている。

普通は、意識だけを動かすこのシュミュレーションにも

入らずに、体を休めるべきなのだろう。

でも、、、それじゃぁ、足りない。

奴を仕留めきれない。

頭はまだ動く、なら、、、今俺がやれることは

やっておくべきだろう。

静かに目を開ける。

「システム設定、敵MOB【キョクヤ】【ヨイヤミ】

 シュチュエーション、及びマップ設定はランダム。

 追加設定、自身へ右目使用不能状態を付与。」

『了解・・・シュミュレーションスタート。』

キョクヤを模したデータ体が

腰にぶら下げた二本の刀に手を伸ばす。

「ウェポンラック五番射出!」

刀が抜かれるとほぼ同時に、ウェポンラックから

射出された直剣が、メビウスの手の中に納まり

その二振りの刀の斬撃を防ぐ。

「間合いは同じ、、、

 手数はキョクヤが上、ってとこか。」

二振りの刀の斬撃を受け止め続けている直剣が

まるで悲鳴のような金属音を響かせる。

「力負けはしないが、、、マトモに打ち合うと

 こっちの武装が先に死ぬか。」

そう呟きながらメビウスは剣を構えながら

バックステップで間合いの外に離脱する。

意識を一瞬ヨイヤミの方に向けるが

やはりと言うべきかなんというべきか

気配が完全に察知できず、隠密に徹されてしまっていた。

「幻影と、影の支配、、、能力がバックアップ特化なのは

 知ってたが、ここまで厄介なものなのか。」

意識をそらしたその一瞬の隙に

キョクヤが急接近し、一振りの刀だけで襲い掛かってくる。

「軽く10m位離したのに

 半秒未満で間合いに捉えられるか。

 想定以上に早いな。」

恐らく一刀流のスタイルに戻した、というより

そうしているのは速度を上げる為。

そして、一撃一撃の鋭さを上げる為、、、だろうな。

ま、ぶつかってみれば分かるか。

手のひらの上で直剣をクルリと回し

逆手持ちに切り替え、下から迫りくる斬撃を

受け止めようとする、が

カーン、と言う鋭い音と共に直剣が両断される。

「やっぱりそうか。」

メビウスはそれを想定していたのか

後ろへ上体を傾けると、そのまま地面を蹴り

バク転で一度距離を取り、その隙に接近してくる

キョクヤに、折れた直剣を投げつける。

すると、キョクヤの輪郭が突如として揺れ

霧の様に霧散する。

「ヨイヤミの幻影か。」

ヨイヤミができることは主に三つ。

幻影の想像と操作、相手の五感の支配、影を操り

自身とキョクヤの隠密性を高める能力。

後ろから嫌な感覚が突如現れる。

すると、メビウスは

咄嗟に前へ飛びながら、狙いもつけずに後方に銃を放つ。

「五感の支配ね。

 支配ってより、、、妨害に近いか?」

今まで経っていた場所に斬撃の軌跡と

多少の被弾を受けただろう

キョクヤが刀を構え、こちらを見据えてくる。

その時だった。

『致命的なダメージを検出。

 アバターの活動を停止します。

 Bチームの勝利を確認

 シュミュレーションを終了します。』

そんな音声と共に、突如として戦闘が終わった。

「、、、ヨイヤミの狙撃か。」

『頭蓋への命中後、脳への致命的なダメージと共に

 活動を停止しています。

 記録映像を再生しますか?』

「記録映像はいい、シュミュレーションでの

 ヨイヤミの動きを出せ。」

『了解。』

最初は定石通り隠密。

俺がキョクヤと近接戦を開始したころに

能力を使用し、キョクヤを援護

完全に意識がキョクヤに割かれている状態で

後方からの狙撃、か。

「やっぱり、白の頁がないと厳しいか。

 こればっかは、ぶっつけ本番になるのは

 仕方ない。」

そう、仮想戦闘シュミュレーションは

あくまで、仮想なのであって

メビウスのように、未来を見せることや

未来を決定づける能力は、処理が間に合わず

反映させることができないのである。

「よし、さっきの設定で

 もう一回シュミュレーションを、、、」


「キョクヤ、それ、、、持ってなくても別に

 いいと思うけど。」

ツクヨミが輸送機の中で、キョクヤにそう言う。

「確かに、そうなんだけど。

 頼まれたのもあるし、そもそもの原因が

 僕だから、ね。」

肩を落とし、キョクヤはそう答える。

そんなキョクヤが持っていたのは

自身が切り落としたメビウスの腕だった。

「だからって、、、。」

ツクヨミの反応は、人として

いや、天使としてもごく普通な反応だ。

なのだが、キョクヤの中では

倫理観を罪悪感が圧倒的に上回っているのか

その言葉に、全く耳を貸さなかった。

ツクヨミは何とかキョクヤを慰めようと

言葉を探すが、その言葉が出てこない。

『向こうが悪かった。』

私はそう言ったけれど

キョクヤはそれを聞き入れてくれなかった。

『仕方のない事だった。』

この言葉もきっと、キョクヤは自身の力不足

きっとそれで片づけてしまう。

「あ、あの、、、さ。」

必死に言葉を繋ぎ合わせ、何とか形にしようと

口を開く。

『本部へ到着しました。

 当機に呼び出しがかかっているので

 なるべく早めに降機をお願いします。』

必死につなぎ合わせた言葉は

その間の悪い呼び出しで、無かったことになった。

「うん、わかった。

 それじゃぁ降りよっか。」

そう言い、キョクヤは後部ハッチを下っていくが

自分以外にそのハッチを下る音が無いことに気づき

負と後ろを振り返る。

「ツクヨミ?」

ツクヨミが、珍しく悩みこむような表情を

一瞬浮かべる。

「、、、ごめんなさい、ちょっとぼーっとしてた。

 行こ、ビャクヤ。」

ただ、そんなツクヨミの苦悩よりはるかに大きい

矛盾を抱えたビャクヤには

その表情すら、目に入っていなかったのかもしれない。


『シュミュレーション スタート』

『致命的なダメージを検出・・・』

『シュミュレーション スタート』

『致命的なダメージを検出・・・』

『シュミュレーション スタート』

『致命的な・・・』

目まぐるしく変わる作り出された景色の中で

剣戟と、銃撃、鉄と鉄がぶつかり合い

命を散らす音が絶えず響く。

「何で、、、何で幻影ごときが!」

目の前に居るのは、あくまで戦闘データから

再現したキョクヤとヨイヤミの模倣、幻影だ。

それなのに、勝つことすらままならない。

たかが幻影に、たかが模倣に

それにすら勝つことができない。

『累計敗北回数3ケタを突破。

 メンタル面、及び肉体面の両方から

 休憩を推奨します。』

「どうせこっから戻ったって

 医療ポットの中で腕を繋げ直してるだけだ。

 結局腕が治るまでは何もできないし

 何より、一区切りつくまでは医療ポットから

 出る事すら出来ないからな。

 それだったら、何かしてた方がマシだ。」

そう、これは気を紛らわすための模擬戦。

なのに、、、何でただの一度も勝てない?

何故、何故、何故何故何故

そんな思考が頭を渦巻く。

焦りと不安に頭の中を支配され

頭を抱え、うずくまる。

『システムメッセージ

 アバター名【ビャクヤ】及び【ツクヨミ】の

 ドロップアウトを確認しました。』

「、、、やぁ。」

ふと、声がした方向に顔を向けると

ビャクヤが、何とも言えない表情で立っていた。

きっと、先の戦闘を引きずっているんだろう。

「何の用だ?」

すると、ビャクヤはこう言った。

「その、、、さっきは、ごめん。」

メビウスは、そのビャクヤの謝罪を

予見していたのか、はたまた

どうでもいいと思っていたのか

素っ気なくこう返した。

「どうでもいいし、気にもしていない。

 マップランダムでシュミュレーションを

 開始してくれ。」

そう言い、メビウスが自身の武器のチェックを

済ませていると、ビャクヤがこう言った。

「もし、君がどうでもいいと思っていても

 僕が、僕の行いを許せないんだ。

 だから、、、。」

メビウスは作業の手を止め

目線だけをビャクヤに向けた。

「だから?」

「僕にできる事で、君の力になりたくて、、、。

 それで、考えてみたんだ。」

決して、いつものようにハキハキ喋っているわけではなく

珍しく弱気な物言いに、メビウスは違和感を感じた。

「シュミュレーションストップ。

 、、、話くらいは聞いてもいい。」

「それで、その、、、。

 少し、僕の話になっちゃうんだけど、さ。」

誰かを安心させるために、もしくは自分が理想の姿で

あるために、自分を欺きながら戦っているエージェントは

多く、それが俺は嫌いだった。

だから、ビャクヤがここに来た時

話なんて、これっぽっちも聞く気は無かった。

でも、ビャクヤがわざわざ自分を欺くのをやめ

そのままの自分の言葉で、話してくるならば

耳を傾けすらしないのは、失礼だろう。

「続けろ。」

武器を仕舞い、適当なオブジェクトに腰掛けながら

メビウスはその言葉の続きを待った。

「僕とキョクヤは、凄い仲が良くってさ。

 いっつも時間を見つけては、互いに剣の腕を

 高めあって、たまに一緒にバカをやってさ。

 、、、だから、代わりに僕が・・」

そこまで言いかけたところで、静かに話を聞いていた

メビウスが鬼の形相でビャクヤを睨みつけながら

こう言った。

「駄目だ。

 何があっても、お前はキョクヤを殺してはいけない。」

俺とこいつとの最大の差であり

衝突した最大の原因。

「何も殺すなんて、、、。

 だって、助けられるかもしれないだろ?」

ビャクヤも本当は分かっている。

ナンバーズを一人で打ち破る程の

危険度のデモンズに、捕まった人間の救出なんて

出来るわけが無いというのは。

でも、助けるという選択肢がある、、、

という望みは、どうしても捨てられなかった。

「無理だ。

 、、、キョクヤとヨイヤミを乗っ取ったのは

 強化種な上に、救出の方法は一つもない。」

続けて、メビウスはこう言った。

「もし、あいつを助けられるとしても

 その救出作戦で、いくらの人間が死ぬと思う?

 相手は、ナンバーズだぞ?」

救出は無理。

その事実はビャクヤも分かっていた。

だからこそ、メビウスの代わりに

せめて自身の手で、キョクヤを殺そうとした。

だけれど、、、それは、それだけは

何があっても駄目だった。

「だから、僕があいつを、、、!」

「何で駄目なのかまだ分からないのか!」

いつも声を荒げることのないどころか

感情を表に出すことのないメビウスが

声を荒げ、そう叫ぶ。

「俺が殺す分には問題ないんだよ。

 もう、、、俺の手は血で汚れすぎているし

 その上、俺は存在していない扱いだ。

 でも、人類の守護者として売り出しているA&Hの

 上位の実力者が、よりによって仲間殺し

 、、、人によってはただの人殺しになることを

 やらせられるわけないだろ!」

そう、メビウスは表向きには存在しない。

だからこそ、表に出せない不都合な任務

かつ、ナンバーズほどの実力を持ち合わせていないと

遂行が不可能な任務を遂行する適任者だ。

でも、その表に出せない不都合な任務、、、いや

汚れ仕事をA&Hの表に居る誰かがやってしまったら

ただでさえ、いつ現れるか分からないデモンズに

怯えてる民衆がパニックに陥り

A&Hの信用は下がり、結果として

人同士での殺し合いが起こることは、目に見えている。

だからこそ、何があっても

表に居る彼らエージェントが

相手が誰であろうと、人殺しだけは

出来なかった。

してはいけなかった。

「でも、、、!」

「、、、分かってくれよ。

 だって、お前がここで動いたら

 誰が一番、、、悪い、何でもない。」

メビウスが、そんな事を言いかける。

その表情には、怒りより悲しみが見え隠れしていた。

だからこそ、ビャクヤも分かってしまった。

自分がやろうとしていることの意味に。

「そう、か。

 そうだったんだ、ね。

 ごめん、やっぱり僕は、、、まだまだ

 君に比べて未熟みたいだ。」

だって、ここでビャクヤがキョクヤを殺してしまったら。

いままで、メビウスがその手を血で染めてまで

防いできた、表に居るエージェントの人殺しが

行われてしまったら。

それは、、、メビウスの頑張りを、人を手に掛ける

苦しみを飲み込んで、終わらせたその全てを

全部、無駄にしてしまうのだから。

「気が済んだなら、もう帰ってくれるか?」

メビウスが、今までと打って変わり

覇気のない声で二人にそう言った。

すると、今まで置物のように何も喋らなかった

ツクヨミがこう言った。

「ビャクヤらしくないよ。

 、、、助けられないからって

 自分が代わりにやってあげられないからって

 そこで諦めるのは。

 私が好きなビャクヤらしくないよ。」

「、、、え?」

キョトンとした表情を浮かべるビャクヤに

ツクヨミはこう言った。

「色んな人を救いたいんでしょ?

 なら、やれることはまだある。

 キョクヤと一番仲が良かったビャクヤだからこそ

 キョクヤと剣の腕を高めあった

 ビャクヤだからこそ、あるはず。」

そう、ビャクヤはキョクヤの手の内を

知り尽くしていた。

だって、何十回も互いに戦い

そしてその度に、高めあってきたのだから。

そして、目の前には

キョクヤと戦って、なんとしてでも

勝たなきゃならない人がいる。

なら、、、私の知ってるビャクヤが

とる行動は、たった一つだけ。

「、、、正直、私はそこの人がどうなろうと

 負けようと、死のうと

 ビャクヤが生きて、隣にいるならどうでもいい。

 でも、それ以前に

 ここで何もできなかったって、そう言って

 ずっと後悔し続けるあなたは、見たくない。」

これは、漫画でもなければ、美談でも

はたまた英雄譚でもない。

ただの、歴然たる事実、、、今だ。

だからこそ、奇跡が起こるはずもないし

意地を張って、どうにかできるなんてことは

あるわけがない。

でも、そんな中にも

自身が後悔したくない何かがあるのなら

自身が届かなくとも、そこに届く誰かに

手を差し伸べることができるのならば。

きっと、そういう事が出来る人の事を

ビャクヤの理想であるヒーロー、英雄と呼ぶのだろう。

「ありがとう、ツクヨミ。

 、、、やるべきことがちょっと見えた気がするよ。」

毎朝のように情けない表情を浮かべた自身の顔の頬を叩き

気合を入れなおす。

重ねて言うが、これは美談でもなければ、漫画でもない

ハッピーエンドも、逆転劇も存在しない。

でも、やっぱりそれでも

ツクヨミが惚れた、その青年が選んだのは

親友を殺す手助けになることになろうとも

その誰かに、手を差し伸べる道だった。

「キョクヤを止めるために

 僕に協力させてほしい。」

「、、、具体的には?」

メビウスがそう聞き返すと、ビャクヤは

迷いなくこう言った。

「君が、キョクヤを殺すために

 僕に、手助けをさせて欲しい。

 そして、、、キョクヤとヨイヤミを

 楽にさせてあげて欲しい。」

今度は、理想でもなく

事実から目を背ける訳でもなく、ただただ

歴然と事実を受け止めた上で、こう言ったのだ。

『親友を殺す手助けを、自分にさせて欲しい』、と。

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