『memory06 story of my war 01』

ザー、ザー、と

バケツをひっくり返したような豪雨の中

誰かと誰かが、ぶつかり合う音が響く。

「何で分からないんだ!

 君の、君がやろうとしていることは、、、!」

一人は、白い刀を握りしめ

まるで何かを吐き出すかのように、青年がそう叫ぶ。

「分かってないのはお前の方だ。

 この役目は、、、この役目だけは

 お前がやっちゃいけないんだよ。

 でも、それでも誰かがやらなきゃいけない事だって

 何で分からない!」

もう一人の少年は、青いコートを身に纏い

その青年の思いを、真っ向から否定する。

その光景を見ていた、青年のパートナーが

彼を助けようと、戦闘態勢を取る。

「ビャクヤの敵になるなら、、、

 ビャクヤの目的を邪魔するのなら。」

その声と共に、幾つもの金色の閃光が

青いコートの少年に襲い掛かる。

「止めてくれ、ツクヨミ!

 殺したくは、、、殺したくはないんだ。

 だから、、、。」

青年は、パートナーに対してそう必死に説得する

だが、その言葉は少年の銃撃によって遮られる。

その銃撃は、無慈悲に、そして無機質に

まるで少年の言葉を代弁するかのように

二人に降り注ぐ。

「これ以上邪魔をするな。

 、、、これ以上邪魔をするなら

 お前であろうと殺す。」

先ほど青年にぶつけた感情は、声と瞳から

完全に消え失せており、その少年の言葉は

まるで機械のように感じれた。

その言葉を聞いて、何かのタカが外れたのか

青年のパートナーが、少年を一切の容赦なく殺しにかかる。

「、、、馬鹿が。」

青年はまたパートナーを止めようとするが

その横を少年が通ったかと思えば

次の瞬間に、青年のパートナーは銃の底で殴られ

頭から血を流しながら、倒れ伏した。

「、、、貴様ぁ!」

それをみて、青年の目に一般人でもわかる程の

明確な殺気が宿る。

「邪魔をするなら殺すと、そう忠告したはずだ。」

静寂が二人の間を支配する。

少年は、ただただ青年と言う名の障害を排除するために

隙を伺い、青年は少年という自身の大事な人を

傷つけた相手を殺そうとしていた。

コーン、と

朽ち果てた廃墟から、何かが落ちた音を皮切りに

二人の間の止まった時が、一気に動き出す。

少年は、刀の間合いに入らない様に銃撃を繰り出し

青年は、少年の銃撃を回避し、ときに防ぎながら

確実に間合いを詰めていた。

「どうして、、、、どうして、ツクヨミを!」

「邪魔だったから寝てもらってるだけだ。」

その返答を聞き、青年は激情のままに

銃撃が当たることもいとわず少年に接近し

その刀を振りぬく。

「がっ、、、?!」

次の瞬間、少年の腕が宙に舞い

ベチャッ、と言う嫌な音と共に地面に落ちる。

、、、理解してしまう。

彼の腕を、自分が切り落としたという事実を。

「え、、、あ、、、?

 ご、ごめん!

 今すぐ手当を、、、。」

正気を取り戻し、少年の傷を手当てしようと

近寄る。

が、少年はそれを気にすらせず残った片腕でナイフを抜き

構え、青年の喉を掻っ切ろうとする。

だが、青年は少年の腕を斬り落としてしまったことに

対する気の動転で、それに気づけなかった。

それを止めたのは、一つの着信音だった。

ピピピピピ ピピピピピ

『そこまでだ。

 死神君、ビャクヤ君。

 キョクヤ討伐作戦は一時中止だ。

 今すぐ、帰投してくれ。』

いつもおちゃらけていたA&Hの最高責任者

神宮新の、強張った声が通信機越しに聞こえ

それと共に、少年はナイフを懐に収め

切り落とされた腕からハンドガンだけを回収すると

青年の目の前から去って行ってしまった。

、、、なぜこんなことになってしまったかと言うと

時は少し遡って、数時間前。


『死神君、今回の作戦

 君に一任する。

 今回は、相手が相手だ。

 全力でこちらもバックアップをするから

 遠慮なしに、全力でやってくれ。』

「全力でやらないと、こっちが死ぬだろ。

 今回の相手は。」

通信相手、神宮新に対して

メビウスはそっけなくそう返す。

『、、、うん、よろしく頼むよ。

 あと、これからオペレーターさんに

 代わってもらうんだけど

 最後に一つ。』

「何だ?」

『いつもこんな役目を背負わせて、すまない。』

神宮のその一言を、メビウスは鼻で笑うと

こう返した。

「お前がそれを言うのか。」

しばらく、通信が途絶える。

そして、少し経った後

いつものメビウス専属のオペレーターの

声が通信機から響いてくる。

『テストー、テストー、応答願います。』

「聞こえてる。」

『通信良好っと。

 今回の作戦について、改めて確認を行います。

 今回の標的はカテゴリー 怪種 夢種 通常名

 【マリオネッター】の強化種。

 潜在危険度 悪夢 【鏡人形】と

 堕種【ヨイヤミ】及び識別コード旧03

 コードネーム【キョクヤ】の討伐です。

 今回の作戦では、03チームである

 キョクヤとヨイヤミの2名の救助も

 検討されたのですが、調査を進めていくうちに

 どうやら【鏡人形】の特性として

 自身が死亡した場合、操った対象も死亡し

 その繋がりを断とうとしても

 操られている側が死ぬ、という特性が判明しました。

 よって、今回の作戦は、、、救助でも無力化でもなく

 討伐に分類されました。』

「一応確認するが、まずヨイヤミが操られ

 その混乱の隙を突かれて、キョクヤも操られた。

 と言う認識で間違いないか?」

『はい。

 音声ログを確認した限りでは

 ヨイヤミが操られ、堕天した後に

 キョクヤ自身が操られた。

 と、確認されています。』

「、、、クイーンが関わってる可能性は?」

『おそらく、高いと思われます。』

やっぱり、か。

「標的の座標と、今までのルートを出してくれ。」

『了解しました。』

その声と共に、網膜に投影されているHUDに

位置情報が表示される。

初発見は、、、エンドタウン。

街の外か。

そこから、キョクヤたちが郊外で掃討作戦を

行っている時に、不意打ちで二人を操り

そしてその後、、、この動き方は、なんだ?

相当強い手駒を手に入れたなら、都市に潜入や

正面から襲撃をかけてきてもおかしくはないのに

何故郊外をふらついているだけなんだ?

いや、一応少しづつ都市に近づいてはいる、、、のか?

「こいつの行動基準について何か情報はあるか?」

『それについては、推測の域を出ておらず

 こちらを警戒している、及び

 追撃部隊を誘い、手駒を増やそうとしている。

 もしくは、メビウスさんを待っている。

 この3つの意見の内のどれかだろうと

 推測づけられています。』

なるほど、なら、、、リスクを減らすために

とりあえず偵察か。

「一回接触し、デモンズの傾向と03チームに

 ついて、もう少し情報を得る。

 可能なら討伐する。」

『撤退前提の作戦ですか?

 珍しいですね。』

「標的の場所は割と都市に近い。

 万一でも、キョクヤが人類の敵になっていることが

 知れたら、世間は大騒ぎだ。

 だから、情報を得ると言うより、、、

 郊外に誘き寄せる意味合いが大きいな。」

『なるほど。

 ではいつも通り、支援体制を整え

 待機でいいでしょうか?』

「あぁ、それで構わない。

 、、、現在時刻08:42、これより作戦を開始する。」

ビルの屋上を伝い、標的の場所まで移動する。

、、、その時だったろうか。

標的に向かうビャクヤと

ツクヨミの姿を見てしまったのは。

そこからは、想像するに難くない。

キョクヤと親友と言ってもいいほどに仲の良かった

ビャクヤと、討伐をしなければならない

メビウスが対立し、戦った。

そして、今に至った。


切り落とされた腕の切断面に

血液凝固剤スプレーを吹き付け

その上から、包帯を強く巻き付け

無理やり血を止める。

「これで、本部までは持つか。

 オペレーター、輸送機の手配を。

 あと、神宮に回線を繋いでくれ。」

『了解しました。

 秘匿回線、開きます。』

ピピッと言う音と共に、神宮新が

通信に出る。

『まぁ、来るとは思っていたよ。

 、、、それで、何を聞きたいんだい?』

「何故撤退命令を出した。

 、、、いや、まぁそれは最悪いいとして。

 何故あの場所にビャクヤが居たんだ?」

歯切れが悪そうに、神宮はこう返す。

『また僕の仕業、とでも思っているみたいだけど

 それは流石に違うよ。

 君は知らないだろうけど、キョクヤくんと

 ビャクヤくん、彼らは仲が良かったんだ。

 それこそ、親友と互いを呼べるくらいに。』

、、、知ってるよ。

キョクヤを殺そうとしたときに

あいつが必死に俺を止めてきて

その時に、それは聞いたよ。

『そして、最初の疑問

 あれは、、、その、ね。

 我ながら考えが足りなかったというか

 、、、つまるところ、鏡人形に嵌められた。』

「鏡人形に、嵌められた?」

メビウスがそう問い返すと、神宮はこう答えた。

『位置情報は、魂や装備のデータを検出して

 表示しているのは知っているだろう?

 それを、偽装された。

 そして、民間人を人質に取られた。

 しかもたちの悪いことに、その後

 こっちに攻めてくることもなく、また姿を消した。』

「なるほど、な。」

そう呟き、天を仰ぐかのようにボーっと

空を見つめていると

輸送機のエンジン音が聞こえてきた。

「とりあえずこっちも、ビャクヤとの衝突で

 戦える状態じゃない。

 追跡はそっちに任せていいか?」

『あぁ、もちろんだ。』


自分の手に、血が付いている。

いや、自分の手が、、、返り血でまみれている。

ちょっとやそっとの血の量じゃない。

まるで濁流の様な血を、人の血を、、、浴びたのだ。

頭の中が、真っ白になる。

手が震える。

、、、まだ、あの感触を、、、覚えている。

ふと隣を見ると、あの腕が

自分が切り落とした腕が、転がっている。

「なんで、どうして、、、僕は!」

そう叫び、拳を地面に叩きつける。

何度も、何度も、何度も。

血がにじんでも、痛くても、気にならなかった。

だって、それの数十倍も溢れ出すこの感情が

痛かったから。

こうしていないと、自分が犯した罪で

狂ってしまいそうだったから。

ふと、拳を包む優しい感覚に気づく。

「ビャクヤ、、、大丈夫だった?」

振り返るとそこには、ツクヨミが居た。

「ねぇ、ツクヨミ、、、。

 僕は、一体どうしたら、、、?」

きっと、この時の僕は見るにたえない

顔をしていたのだろう。

ツクヨミは何も言わずに、ビャクヤを抱きしめ

頭を撫でた。

まるで、子をあやす母のように

ただただ、そうしていた。

「大丈夫、ビャクヤは敵を倒しただけ。

 あなたは、悪くない。

 悪いのは、、、向こう。」

その言葉は、本来は救いだっただろう。

でも、今回ばかりは違った。

「ツクヨミ、少し聞いてもらってもいい?」

「うん、いいよ。」

嗚咽交じりに、ビャクヤはこう言った。

「キミを死なせたくなかった。

 守りたかったのは、、、本当だし

 それについては後悔していないんだ。

 、、、でも、でもね?

 僕は、メビウス、、、彼も救いたかったんだ。」

ツクヨミは、優しくこう問いかける。

「、、、どうして?」

「だって、誰かを殺すなんて

 そんなの、、、辛いじゃないか。」

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