『memory06 war of cause』
「ねぇ、輝也は
将来は何になりたいの?」
いつかの光景。
置き去りにした筈なのに、いつも振り向けばそこに在る
いつもの光景。
今は名前も思い出せない誰かが、僕に言ったあの一言。
その一言に、僕はこう返した。
「将来は、僕はヒーローになって
色んな人を救いたい、かな。」
そう言って、僕に問いかけてきた声の方向を振り向くと
そこには何も無かった、
いや何か、もしくは誰かが居たのかもしれない
でも、もうそこには何もなかった。
「また、、、なのか。」
そう呟きながら、僕はベットから身を起こす。
あの光景は、いつも僕が見る学生の頃の思い出。
というより、僕に対しての忠告や戒め
そう言った方が正確なのかもしれない。
だって、僕はその友人の事を
守る事なんて、出来なかったんだから。
でも、それでも。
だからこそ、僕はヒーローになりたい。
次は、命を取りこぼさないように
次は、誰も悲しませないように。
ベットから立ち上がり、顔を洗い
鏡に映る自身の姿を見る。
「複雑な表情してるな、僕。」
ヒーローになりたい。
その思いを抱いて、A&Hに入ったあの時から
いつもずっと、こんな感じなんだろう。
ヒーローになりたくとも、届かない。
当たり前の話ではあるけれども
僕はどこまで強くなっても、やっぱり一人の人間だ。
いくら誰の力を借りようとも、いくら強くとも
結局、全てを救う事は出来ない。
でも、だからといって、この夢というより
この誓いを破るわけにだけはいかない。
「はぁ、、、。」
俯き、溜息をつく。
それで何が変わるというわけでもないのに
いつも最近は、こんな感じだ。
といっても、それは一人の時の話だけれど。
「ショウヤ、大丈夫?」
噂をすればなんとやら、といった所だろうか。
いつの間にか部屋に入ってきた僕の相棒
【ツクヨミ】が、僕のその落ち込んだ顔を
覗き込むかのように、僕の横に立っていた。
「いつもの事だから、多分大丈夫、、、だよ。」
そう言い、自分を奮い立たせるかのように
自分の頬を叩き、気合を入れる。
「よし!
じゃぁ、行こうか。」
装備を身に着け、刀掛けから【月影】を取り
一人の人間【灯台 輝也】から【06 ビャクヤ】として
姿と心構えを変え、パートナーと共に出撃する。
「今日もよろしくね。 ビャクヤ。」
「あぁ、よろしくな。
ツクヨミ。」
『E4ブロックに、カテゴリー 怪種 危険度 常闇
個体名称【無形】を確認しました。
至急、付近のエージェントは対処を願います。』
「こちら06ビャクヤ、了解。」
無形か、、、まずいのがでたかもしれないな。
「E4ブロックは、ここからすぐだね。
ツクヨミ、行ける?」
ビャクヤがそう問いかけると
ツクヨミはコクコクと頷いた。
「それじゃぁ行こう、、、か?」
E4ブロックに向かおうとしたその時
丁度E4ブロックの方面から、悲鳴と
爆発音などが響いた。
「、、、ツクヨミ、行くよ!」
黒い影が、青いコートを纏った少年に襲い掛かる。
「ウェポンラック、三番、五番射出!」
少年が放り投げた箱から、盾と剣が射出され
少年の手の中に納まる。
クッソ、無形、こいつら厄介すぎるな。
それに、、、何でこいつらは、、、!
「ねぇ、あのエージェントって誰?」
「識別コードは?」
「右だろ、もっと右!」
「ほら、金払ってんだからもっと踏ん張れよ!」
このクソみたいなギャラリーは何で逃げない?!
もう周囲の建築物や、車に被害が出て
何なら爆発まで起こってるんだぞ?
、、、正気じゃない。
『メビウスさん。』
「こちらメビウス、どうぞ。」
『先日接触した06、ビャクヤチームが
こちらへ対処に向かっていますけれど
どうしますか?』
、、、あいつか。
見た感じ強かったし、ここは任せてもいいか。
「撤退し、後はあいつに任せ
遠距離からの隠密支援に徹する。」
『了解しました。
こちらの識別信号はどうしますか?』
「識別信号も何も全部なし
俺がここで戦った、なんていうことは無かった。
ここで戦ったのは、訓練中の
予備エージェントで、もう死んでいる。
以上だ。」
『処理内容は了解しました。
、、、あの、それで本当にいいんですか?』
「今に始まった事じゃない。」
そう言いながら、グレネードを取り出し
自身を取り巻く無形と、自分自身を巻き込むだろう場所に
放り投げた。
次の瞬間、青いコートを着た少年を巻き込むように
爆発が巻き起こり、同時に少年の姿が消え
そこには無形がかわりに佇んでいた。
「、、、あれ? あのエージェント、死んだ?」
「いやまさか、そんな、、、ねぇ?」
民衆がそんな風に話していると
青いコートの少年と入れ替わりと言わんばかりに
白い刀を携えた青年が、民衆を守るかのように
無形の前に立ちはだかった。
「こちら06ビャクヤ、現地に到着。
これより、対処を開始します。」
『了解しました。』
、、、一歩遅かった。
さっきまで戦ってたエージェントは
きっと、取り込まれてしまったんだろう。
「誰も、取りこぼしたくなかったんだけどな。」
自身の特注武装である月影を鞘から抜きながら
そう小さくつぶやく。
「ビャクヤ、大丈夫?」
ツクヨミが、そんなビャクヤを心配するかのように
問いかけると、ビャクヤは
いつもの晴れやかな笑みで、こう返した。
「ごめん、ちょっと心配かけちゃったかな。
それじゃ、行こうか。
ツクヨミ。」
月影を構え、無形を見る。
数は、、、10。
おそらく、倒されたエージェント以外は
誰も取り込んでないはず。
「「エンゲージ!」」
その声と共に、ビャクヤは月影を構え
一気に距離を詰め、それを援護するように
ツクヨミは金色の光を収束させ、光の杭を
無形に撃ち出した。
「おお! さっきのエージェントより強いじゃん!」
「ほら見てあれ! 識別コード06だって!」
「やっと強いエージェントが来たのかよ。
さっきの雑魚エージェントは
もう少しくらい粘れなかったのかよ、、、無能だな。」
無形を切り捨てるたびに、そんな声が
守るべき人達から聞こえる。
命を張って自身たちを守ってくれていた
人間を貶め、挙句の果てに
この戦い自体を娯楽としてしか見ていない
聞くにおぞましい声が聞こえる。
「頼むから、、、そんなことは言わないでやってくれ。」
そんな悲痛な、小さなつぶやきと共に
無形を一体一体、切り伏せる。
「ビャクヤ! 後ろ!」
ツクヨミのそんな声で、ふっと我に返り
真後ろに剣を向ける。
すると、最後の一匹の無形が
腕を上げ、振り下ろそうとしていた。
「まずい、、、!」
無形の攻撃は、防御できない。
くらったら最後、取り込まれる。
そんな時だった。
ツクヨミの月光が無形に風穴を開けると同タイミングで
自身の後ろから、青い弾丸が飛来し
無形の脳天を貫いた。
「ビャクヤ、大丈夫?」
ツクヨミが、ビャクヤの事を心配し
駆け寄ってくる。
「あ、うん。
というか、多分今ので最後、、、かな?」
『はい、周囲にデモンズの反応はありません。
作戦終了です。
お疲れさまでした。』
「ビャクヤ、巡回戻る?
それとも、少し休んでから、、、?
どうしたの?」
あの射撃はやっぱり、、、。
「ツクヨミ、さっきの射撃見えた?」
「射撃、、、?」
やっぱり。
「ちょっとついてきて。
巡回に戻る前に
ちょっと行きたい場所が出来た、かな。」
そう言い、足早に現場を去り
弾丸が飛来してきた方向へと進んでいった。
が、特段何かがあるわけでもなく
普通のビル街が広がっているだけ、、、のように
一般人には見えた。
でも、ビル街にそびえるタワーの骨組みに青い人影が
佇んでいるのを、ビャクヤは見逃さなかった。
「、、、酷いやつらだったな。
なぁ、なんでお前はそこまでして
あいつらを守るんだ?」
メビウスは、自身の後ろにいる気配にそう話しかける。
「やっぱり、君だったんだね。」
振り返るとそこには、ビャクヤとツクヨミが居た。
わざわざ、アンカーワイヤーで同じとこまで
上ってくるとは、本当に物好きな奴らだ。
「本当はバレる予定じゃなかったんだけどな。」
そう、ビャクヤを救ったのは、俺だ。
ツクヨミの攻撃は確かに無形を捉えていただろう。
でも、あれだと先にビャクヤが殺されて
ビャクヤを取り込んだ分で、絶命前に
あの個体は再生してしまっていただろう。
それも、ビャクヤの力全てを継承した状態で。
「それにしても、わざわざ分かりにくいように
ハンドガンで狙撃したのに。
よく分かったな。」
「まぁ、カンってやつ、、、かな?」
そう言いながら、ビャクヤはメビウスの隣に腰掛ける。
二人の間に、沈黙が流れる。
当たり前だろう。
人が嫌いな、存在すら認められないエージェントと
どこを歩いても人気者の正義の味方。
そんな二人が会話なんてしてしまったら
、、、いや、それは違うな。
俺が、きっとこの感情をぶつけてしまうから。
だから、、、喋りたくないのかもしれない。
「やっぱり、君はすごいよ。」
長い沈黙を破るように、ビャクヤがそう呟く。
「、、、俺が?」
「うん、君が。
だって、あの時君が助けてくれなかったら
、、、僕は死んでたでしょ?」
その言葉を聞いたツクヨミとメビウスが
目を丸くする。
「どういう、こと?」
ツクヨミは最初から気づいていなかったからなのか
ビャクヤにそう問いかける。
「ツクヨミの攻撃は、確かに無形を仕留めてた。
でも、多分僕の方が先に無形に取り込まれてた。」
その言葉を聞いて、メビウスは大きなため息をつくと
こう言った。
「、、、何でもお見通し、ってか。」
「いいや。
僕はそんなに万能じゃないさ。
だって、君より戦場にたどり着くのが
圧倒的に遅かったんだから。」
そこまで、自発的に話そうとしなかった
メビウスが口を開き、もう一度問いかける。
「なぁ、ビャクヤ。
戦う理由って、何だと思う?」
自分の事を人と言えるために、デモンズを殺し
00の識別コードを与えられたものとして
精いっぱい頑張ってきた。
でも、人を殺したし、天使も殺した。
かつて、話したことのある戦友すら手にかけ
挙句の果てに、その結果守ったのが
あの、人の形を取った悪意。
こんなこと、意味がないんじゃないか。
いつも、それが頭から離れない。
それに、、、誰を殺し、誰を守ったとしても
もう俺を、誰も人なんて呼んでくれる人はいない。
だから、理由を知りたかった。
誰もが持ってる、その人だけの戦う理由を。
「僕かい?」
ビャクヤは、しばらく考え込むように俯く。
「僕はね、、、誰かを守りたくて
その誰かに死んでほしくなくて、戦ってる。
きっと君も、何か理由を見つければ
迷いなくその力を振るえる、と思うよ。」
ビャクヤは、そうやって優しい嘘をついた。
いまは、行方すら分からない親友。
キョクヤが、戦う理由に迷って、さまよう自分に
かけてくれた言葉。
それを、その言葉を、メビウスにそのまま贈った。
誰かを守りたいのは本当だ。
誰かに死んでほしくないのも本当だ。
でも、、、彼の事を何一つとして知らない僕が
何か理由を見つければ、迷いなく力を振るえるなんていう
優しい言葉をかけるのは、、、
彼に対して嘘をついているのと一緒だ。
でも、嘘をついているとしても
彼が迷っているなら、人間を守る事を苦痛としているなら
自分の進みたい道を進むために、力を振るうべきだから。
僕は、嘘だとしても、、、この言葉を
贈らなきゃいけない。
そう思ったんだ。
「、、、やっぱりあんたはヒーローだよ。
ビャクヤ。
だから、俺に関わってちゃいけないな。
じゃぁな。
、、、死ぬなよ。」
そう言い残し、メビウスはいつの間にか
ビャクヤたちの目の前から完全に姿を消していた。
「ねぇ、ビャクヤ。
何で、、、あの言葉を?」
ツクヨミが、ビャクヤにそう問いかけると
ビャクヤは、ツクヨミに縋るように抱き着いて
泣き出した。
「あんな生き方、悲しすぎる。
それに、、、可哀そうすぎるよ。」
子供のように、ただひたすらに
彼、メビウスの境遇を悲しんで泣いていた。
だって、そうだろう?
誰よりも早く現場で戦い、命を張り
どんな罵声を浴びせられても
それでも人を護ったヒーローを
後から来た僕までのつなぎとしてしか
みんなが見ていないなんて。
しかも、それを、、、僕らしか知らなく
その上、本人がそれを受け入れるなんて。
「、、、悲しすぎるよ。」
いつも、ヒーローになって色んな人を救いたいと
その一心で戦い続けてきた。
でも、、、そんな僕が、救われた上に
その恩すら返せないなんて
余りに無様すぎるし
あまりに、、、酷い人じゃないか、僕は。
遠くで、誰かが泣く声が聞こえる。
また、俺と関わったせいで
悲しみ、そして泣く人の声が聞こえる。
そして、その原因を作った俺を
恨む思いが、ひしひしと伝わってくる。
「、、、だから嫌なんだよ。」
その嫌という言葉が
悲しみを生み出す自分に向けたものだったのか
それとも、自分を恨む誰かに向けたものだったのか
自分を罵倒する民衆に向けたものだったのか。
はたまた、それ以外に向けたものなのか。
その答えは、彼以外に誰も知らない。
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