ヴォイドの呼び声

アルファ

王の帰還

目を覚ますと、目の前は真っ暗な視界に覆われていた。

そして全身に感じる。酷い圧迫感を。

気分も悪い。

一体どうなっているんだ。

なぜこんな状況に置かれているのか、まったく理解できない。

だがこの圧迫感には耐えられん。本能のまま右腕を突き出す。

バキッ!右腕がなにかを突き破った感覚が走る。

腕が突き破った場所からは、冷たい空気がこちらに流れくるのを感じる。

そのまま本能に駆られ、突き破ってできた穴を両手でおもむろに広げていく。

穴はボロボロと簡単に崩れ、大きく広げた穴から外へ出る。他の部分は起き上がると同時に脆く崩れ去った。

辺りを見回すと、そこは冷たく静かで、なにかの遺跡のような場所に思えた。

暗闇に目が慣れたのか、やけに視界がハッキリと見える。

駄目だ…なにも覚えてないな。一体俺は誰だ? なぜここに?

「くそ」ふと自らの出てきた場所を見る。

棺、か。棺だと?

ああ、まったく一体どうなってるんだ。

死んだ後に蘇ったのか? それともここは、魂の行き着く墓場か。

もどかしいな。


薄暗い視界の中、壁を見て集中し、目を凝らす。

眩しいほどに視界が鮮明となり、辺りが日の当たる場所のようにハッキリと見通せるよう変化した。

おもむろに自分の手に目をやる。

すると見えたのは剥き出しの骨。

どうやらアンデッドに成り果ててしまったようだ。不思議と悪い気はしない。

生前の自らを思い出せはしないが、アンデッドになり果てた顚末を思うに、生前はろくな事をしてなかったと容易に想像がつく。

呪いか、または死霊術の類いか。

いずれにしろ、全てから見放された者の運命といったところか。哀れだ。


カラン…。足の末節骨に何かが当たった。

右を向くと、棺の台座の石にもたれかかるように死んでいる遺骨が視界に入る。

この骨は俺のように蘇ってきてはいないのか。なぜ俺だけ?

こいつ、手に何かもっているようだな。

羊皮紙か?

羊皮紙を拾いあげ、読む。


──腐敗した羊皮紙。

この時まで、貴方と運命を共にできた事を嬉しく思います。

死しても尚、貴方は私達の良き導き手となってくれました。

しかし貴方がいなくなってからというもの、私の心は…。

これ以上は腐敗していて読めない。

──

羊皮紙を捨てる。

この者が何者かは分からんが。

俺は何かの指導者だったということか?

いずれにせよ。この状況では当時の名も、とうに廃れている事だろう。

自らが何者だったのか。この辺りをもう少し探索すれば、他に手がかりが見つかる可能性があるかもしれないな。

どのみち、ここに留まっているわけにはいかない。

あれが、出口のようだな。


ドアのない出口から部屋を出る。

部屋の外に出ると、植物の蔓や苔が生えた床や壁が広がっている。

随分と廃れているな。

長い間、外部とは隔たっていたんだろう。

しかし広そうだ。全てを見て回るのは厳しいかもしれん。

ガサガサガサ。咄嗟に辺りを見回すが、辺りは静まり返ったままだ。

くそっ。魔物か遺跡荒らしか、それか他にも俺のような奴がいるのか。

いずれにしろ用心しなくては。

手に力を集中させる。

魔法は駄目なのか?

武器になりそうな物も、ないか。

ん? なんだこの感覚は。

体に妙な力が宿り、咄嗟に解き放ってしまった。

今のは一体なんだったんだ。

まあいい。こうなったらできるだけ目立たないよう進み、いざとなったら遺骨のふりでもして凌ぐしかないかもな。


遠くから剣を弾くような音が聞こえてくる。

耳を澄ます。

ふむ。どうやら、争う音のようだな。

音のする方へ向かう。

音が近い。この部屋か。

壁に背を付けたまま、ゆっくりと中を覗き込む。

巨大な蜘蛛と複数のスケルトンが戦っていた。

「おお、我が同胞よ」奴らも俺のように目覚めたのか?

スケルトン達は錆びた剣や古びた盾を手に取り蜘蛛と戦っている。戦況はあまり良くない。

蜘蛛が勝つか、スケルトンが勝つか。

当然スケルトンが勝つ方が俺にとっては好都合になる可能性が高い。

ならばいざ、参戦といこうか。

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