波乱は突然に、そして続く

「エルナ先輩…!?」

「エルナ…?」


 グウィドアと二人して、目の前で揺らめく炎を幻視する。

 これはとてつもなく、怒ってる…よね?


「アデム。嘘をついてまで、この突貫バカと試合たかったの?無駄にする時間はないに思えるのだけど?」

「嘘っていうか…なんというか」


 凄むような視線に口籠る。さっきは、あんなに優しくて美しかったのに…今はそんな様子が全然伺えない。

 どう答えるか迷っていると、剣呑な雰囲気が横からも発せられる。


「あ?エルナ先輩。それは喧嘩売ってるのか?俺の槍を——ひいては我が家の槍をバカにしてんのか?」

「違うわよ。アデムには全属性の魔法が使えるのだから、それを先に伸ばすべきだからよ。

 身体能力も強化魔法で補えるし、武器の戦闘なら私の方が一枚上手だから」

「へぇ…アデムを引っ張り回しといてよくもまあ、そんなことが吐けるってんだ?先輩?

 俺の方が武器の取り回しに関しては、上を行くぜ?」

「わたしが?冗談良して。私の教えに間違いなどないわ。変な憶測でモノを語らないでちょうだい」

「やるか?」

「望むところよ」


 間に挟まれたアデムが、射殺さんばかりの目線を交わす、グウィドアとエルナに縮こまっていた。

 腰に帯剣してた細剣を鞘に納めたまま片手で構える。

 グウィドアも槍を構えて、一触即発の雰囲気になる。

 だが、両者の間に立ち異様な気配を醸し出しながら、止めにかかる


「これ、やめなさい。ただの訓練ならいざ知らず、魔法も使うとなると話は違う。

 それは、容易に人を殺めることになる。無闇矢鱈に使ってはいけないよ?」


 憤るでもなく、ただただ事実を並べて諌める。

 学長の圧に怯んだのか、険悪な雰囲気は次第に冷めてゆく。


「…申し訳ありませんでした、学長。少し頭に血が昇っていたみたいです」

「流石に学長は、敵に回せないぜ。全く、攻撃が入るイメージが湧かないからなぁ」

「グウィドア君。そんなに戦いたいなら、私の愛の籠った特別講義をみっちり二時間受けてもらおうか?」

「いえ!結構です!生意気言ってすみませんでした」

「…傷つくじゃないか」


 本気で考えていたのかは脇に置いておいて、何とか事態が収集する。

 でも、アデムはこんなにも色んな人に、慕われているのだなと確認はできた。

 確かに、今まで付き合ってくれたエルナとの訓練も久々に武器を交えたグウィドアもどちらも有意義なのは、間違いない。

 この体と心がその暖かな思いを抱いているし、横からひょっこり入って来た自分も納得するところだ。


「グウィドアもエルナもどちらの訓練もとても刺激になるんだ。優劣なんてないと思う。

 だから、二人ともいつもありがとう」


 エルナとグウィドアが鳩に豆鉄砲を喰らったような顔をしながら、こちらを見ていた。

 何かおかしなことを言ったのか…?


「ほんと、今日のアデムどうしたんだよ?そんな小っ恥ずかしい事言っちゃって、まあ」

「そうね。…何か、良いことでもあったのかしら」

「…え、なんか酷い」


 そんな疑うことないじゃん。

 が、記憶を思い返してみると、アデム君は感謝を相手に伝えないことが多すぎる。

 常に、何かに切迫詰まっているような感じだ。

 そのせい、か?

 パンパンと手を叩くシャハルに、注目が集まる。


「さて、そろそろ閉館の時間だ。ここも閉めなくちゃならないからね。

 話に花を咲かせてるところ悪いが、退出してくれると有難い」

「おっと、もうそんな時間か。帰んないとな」

「そうね、帰りましょうか。…って、アデム。時間大丈夫?」

「時間?何が?」


 何か約束事でもあったか?と頭を捻らせていると、呆れるような声でエルナが嗜める。


「門限よ、門限。規則正しく厳しくあらねばならないっていう、貴方のお父様が決めてたじゃない」

「あっ…!そうか、そうだった!」


 思い出した。

 王選候補に選ばれる以前、そんなことはなかったのだが、モナーク家で初となる全属性の使い手でさらに次代の王候補に、選ばれていたのだ。

 そのおかげというか、せいというか。

 これまでは放任主義で自由気ままに生活していたが、そんなのではダメだと厳しく躾けられるように強制されるようになったのだ。


「ごめん!二人とも先帰るね!学長も立ち合い人ありがとうございました!」


 矢継ぎ早に言い放った後、返事を待たずにドームの外へと目指す。

 

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無為なる者、頂に立つ〜死はどうやら、逃してはくれないらしい〜 黒田 輪 @D-free2023

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