どうやら、そう甘くはないようで
「ははっ!どうした、どうしたぁ!!いつもの攻めがまるでないぞ、アデムぅ!!」
「…っ!!うるさい!」
乱れ付く突きを弾いては避けて、呼吸を整えようと、比較的力の入っている突きを渾身の力でカチ上げる。
「うおっ…!」
驚きの声と共に、タタラを踏むも浮いた片足をトンっと地を蹴り、後方で華麗に着地する。
アデムも少し、下がり少しでも呼吸を整えて仕切り直すように努める。
「へへっ…しかし流石だな。やっぱこの速さについていけるの。お前だけだよ」
「はぁ…はぁ…、そりゃどうも」
獰猛な笑みを浮かべて、称賛されるもそんな余裕はつゆほども無いのである。
防戦一方で、攻勢に出れない。どうしたもんか。
思考する間もなく、距離を詰められ槍の突きが次々に襲う。
思考が擦り切れそうだ。必死に食らいつき、懸命に避けて、弾いて、対処する。
だが、やはり、攻勢に出るまでの相手の攻撃のインターバルの無さと、思考と体の動きが合わないために、どうしても攻撃ができない。
何より…
思うように、体が動かない…!
悔しさに歯を食いしばりそうになるのを堪えて。
少しでも隙を無くすように、足回りを小さく、剣の振りを最小限に、剣先を届かせるために前へと。
できる限りの事をする。
「…!ははっ!近中距離で俺と競おうってか!?いつもはやらないのに、面白えぇじゃねぇか!!」
「……!!」
無言の意気と共に、徐々に距離を詰める。グウィドアも持ち手を、ほぼ真ん中あたりに切り替え、直剣と同じ間合いと変わらないまで持ってゆく。
攻撃速度は格段に増し、アデムの攻撃の手数が減る。
薙ぎや柄側による足払いも加わってきて、より一層緩急のついた攻撃が、アデムを惑わせる。
「…くっそぉ!」
「そらそらそらぁ!!」
風車のように回しては、間に突きを放つ様に、もはや対抗出来なくなっていた。
せめて、一太刀…!
そう思い、捌いた先に、突きを放った槍と同時にかがみ、転びそうになる体を支えるように一歩踏み出す。
そのまま地にめり込ませるように踏み込み、全力の横薙ぎを放つ。
「甘ぇ…!」
高速で器用に最小限で回転させ、柄側で木剣の腹をタイミング良く殴り、はたき落とす。
「…づっ!」
あまりの衝撃に、取りこぼし両手を地につけてしまう。
そうしてしまった時には、首に槍の穂先が添えられていた。
「…俺の勝ちだな」
「…ああ、負けたよ」
勝敗は決する。
時間にしては数分程度だったが、アデムには何十分以上も永遠に続けていたかのような感覚だった。
「ほれ」
「ありがとう」
グウィドアに手を差し出されて、それを掴み体を起こされる。
「いやぁ、最後は、ちとひやっとしたわ。あんな至近距離を、アデムと鍔迫り合うことなかったからびっくりしたわ」
「そう?いつもこんな感じじゃなかったけ?」
「ははは!おかしな奴め!いつもは一撃強力なの放ってすぐ離脱するじゃないか!」
「…そうなん?」
「そうだよ!ほんと今日どうした?まあ、今まで、で1番楽しかったから良いけどよー!」
うぅわぁ…!そうすればよかったぁ…!
脚力には、そこそこ自信があるんだったから、一撃離脱を心掛ければ良かったんだ…
まあ、もう、遅いけど…
けらけらと笑うグウィドアを恨めしく見ながら、パチパチと手を叩く音を聞く。
悠然と近づいてくる監督役だ。
「二人ともお見事。久しぶりに見る組み合わせだと思って見てたらいつもと違う戦い方でより一層白熱してたな。
知らずうちに、心が躍ってしまったよ」
「あ、あはは。ありがとうございます」
「学長に褒められるたぁ、嬉しいねぇ!」
「ああ、そうだね…て、ん?え?」
なんか聞き捨てならないことを言ったような?
「ははは、やはりランツェ家の気配感知の風魔法に変装は通用しないか!」
バッと、頭を覆っていたすべてのものを取り去り、長い青みがかった黒髪が宙を舞う。
灰緑色の瞳に、少し皺が寄った顔に少し長い顎ヒゲを蓄え、口を開けて笑っている。
豪快な笑みだったが、しかしどこか怜悧な様が垣間見える。そんな御仁だ。
「シャヘル・ローガン学長…?」
「やあ、アデム君。君にしては、攻めた戦い方だったね、今回は。新たな道を探求するのは良いことだ。何か心変わりでもあったのかね?」
「…あ、いえ、特には。ただ相手に攻撃を加えようと必死だっただけです」
「…ふむ、そうかい。まあ、模索することは良きことだ。今のうちに戦い方の幅を広げておくと良い。そのうち役に立つ日が必ず来るからね?」
「はい、ありがとうございます」
こちらを射抜くような視線に、蹴落とされるもの柔らかい笑みを浮かべて、頭を撫でられる。
「おい、アデム!なんだか、すごい人だかりになってんぞ!?」
「は…?なにが?」
そういえば、なんだか騒がしいなと思って周りを見ると、いつのまにか土壁が取り払われて、闘技台の周りに訓練所にいた全ての人が観戦して沸いていた。
「いつの間に壁が…?それにこんなに人も」
「ははは。他の生徒の良い刺激になると思ってね。途中から取り払って観戦しやすいようにしたんだよ」
「それ、危ないんじゃ…?」
「君たちの攻撃ぐらいは、まだ防げるさ。まあ、魔法も使われてたらわからなかったかもだがなぁ」
はははと、またも豪快に笑うシャヘル。
それ一歩間違ってたら大惨事だったよなと、魔法使わなくて心底良かったと思った。
…いや、まだ扱えるかどうかわからないけども。
しかし、負けはしたがリーチ差で負けてる槍に対して、結構良い線いったのではないだろうか。
けど、やっぱり一太刀は入れたかったなあとも思ってしまう。
そこは、要訓練…か
と顧みてると、背後からひたりとした声が響いてくる。
「アデム…?こんなところで何してるの?校舎回ったら帰るんじゃなかったの?」
「…え?」
身が凍えるような声がした方に振り返ると、そこには冷たい笑み…いや、今にも燃え盛りそうな怒り立ち込めているエルナが立っていた。
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