第4話 Winner!!

「きゃあぁぁぁ!!」


 悲鳴を上げてこんにゃくビッグウェーブを躱す。


「――つっ!!」


 避けた勢いで岩肌に思いっきり左肩をぶつけて激痛が走った。


「わわわわわわわっ!!」


 薫は少し離れたところにいるようだけど、何とかこんにゃくを躱したらしい。

 それでもかなり慌てている様子が目まぐるしく動き回るライトで分かる。


「な、何これ?!」


「動くこんにゃく?」


「絶対にちがーう!!」


 うん、知ってた。


 逃げ出そうと振り返ったけど、明かりを持っていない私では進むことが出来ない。


「薫!逃げるよ!!」


 再び振り返り、薫に声をかけた。

 が、目の前にいたのは、向こう側からライトに照らし出された巨大こんにゃくだった。


 いつの間にか私と薫の間に入り込んでいたのだ。

 ライトを持った薫と私は完全に分断されてしまった。


「冴子!!」


 薫が叫ぶ。

 こんにゃくは完全に私を標的と定めたようで、さっきよりも横幅を広げて、通路全体を覆うような形状に変化していた。


 まずい!

 こいつが何なのか分からないけど、襲ってきている以上は捕食を目的としていることは明らかよね。

 捕まってしまえばどうなるか分からない。


 激突覚悟で暗闇に突っ込む?

 その時、私の頭にある考えが浮かんだ。


「薫!!食べ物よ!!」


 こいつが捕食を目的とするのなら、他の食べ物――たとえば肉で出来たフランクフルト。

 それでこいつの気を引いた隙に合流して逃げ出す!


「今食べるの?!」


「食べるかー!!それでこいつの気を引けって言ってんの!!」


 助かったら絶対にひっぱたいてやる!


「了解!!――えっと、これは絶対に食べたいし……これも美味しそうだし……」


「フランクフルト!!」


「はいぃぃ!!」


 2発ひっぱたく!!絶対に!!


「おーい!こっちだこんにゃくー!!」


 薫の声にこんにゃくが反応したように、ぐにゃりとそちらへと反り返る。

 言葉が分かるの?


 ライトの明りがぶんぶんと揺れる。

 どうやらライトを持っている手でフランクフルトを振り回しているみたい。

 いい加減、袋は下に置け!!


 私はこんにゃくの隙を伺う。

 チャンスは薫がフランクフルトをこんにゃくに投げた瞬間。

 それに気を取られている間に、一気に走って薫と合流して逃げる!


 顔の無いこんにゃくだけど、意識があっちに向いていることは伝わってくる。

 だって、じりじりと後退していっているから。

 何なら、ライトの動きに合わせてゆらゆら動いているから。

 そんなに私よりもフランクフルトの方が魅力的なのか?


「薫!!出来るだけ壁際の天井に向けて投げて!!」


 そして私はその逆側を走り抜ける!


「いくよー!!」


「おっけー!!」


 ライトの光が天井を走る。

 薫がフランクフルトを振りかぶって投げようとしている。

 私は腰を軽く落としてスタートの体勢を整える。


「そりゃー!!」


 薫が掛け声と共にフランクフルトを投げ――


――ピカァァァァーーー!!


 ――ようとしただろう瞬間、眩い光が周囲を照らした。


――びちゃ。


 眩しさに目を瞑っていた私の前に何かが落ちてきた音がした。


 恐る恐る目を開ける。

 そこに広がっていたのはネズミ色をした地面。

 ドロドロのネズミ色のスライムみたいなものが、バケツでぶちまけたような状態。


 そして何故か明るい。

 さっきの眩しさほどではないけど、歩くのに困るという事は全然ない明るさ。

 洞窟のような周囲がはっきりと見えるようになっていた。


 こんにゃくはいない。

 薄々分かってはいたけども、この地面に散らかってるのがそうだろう。


「薫、それは?」


 私は薫のところまで歩いて行き、この明るさの光源となっているものを見つめて呆然としていた薫に声をかける。


「……フランクフルト」


 光りを放ちながら輝くそれは、どこからどう見ても剣でしかない。


「フランクフルトを投げようとしたら……急に光って……こんにゃくが真っ二つになって……」


 何となく言ってることは分かるけど、起こったことは意味不明。


「あのフランクフルトがその剣になったの?」


「多分……そう」


「見せてもらって良い?」


「うん……」


 ぼんやりとしたままの薫から剣を受け取る。

 が、手に乗せた瞬間、あまりの重さに受け取ることも出来ずに落としてしまった。

 ドスン!という鈍い音からも、その剣の重さが伝わってくる。


「何これ?!何でこんな重い物を持ってられたの?!」


 地面に落ちた剣を掴んで持ち上げようとするけどビクともしない。

 たった今まで薫は普通に持っていた。

 とてもじゃないけど信じられない。


――キンコーン!


 ん?スマホの通知音?ここって電波繋がってるの?!

 それなら連絡することが出来るかもしれない!!

 慌ててポケットの中からスマホを取り出す。

 そして画面に表示されていた通知内容を見て固まった。


『鑑定結果をお知らせします。

 聖剣【Winnerウインナー

 魔力の強さによって攻撃力の変わる聖なる力を秘めた魔法剣

 勇者のみが所持することを許されている』


 鑑定結果?

 聖剣?

 勇者?

 何でこんなものがスマホに……


《何これ?!何でこんな重い物を持ってられたの?!》


 ……私が聞いたから?


Winnerウインナー……」


「違うよ。フランクフルトはソーセージだよ」


 薫は剣を拾い上げながらどうでも良いことを言った。

 そもそも発音は《ウィナー》のはずだ。

 しかし私には《ウインナー》とルビが振られているように読める。


「そうじゃなくて――薫、あなた勇者になったみたいよ……」


 私はスマホの画面を薫に見せる。


「え……何これ……」


 画面を見て私同様に固まる薫。


「勇者……」


「まあ、薫が勇者かどうかはこの際置いておいて、とりあえず戦える武器が手に入ったんだし、どうにかここから出る方法を考えましょ。頼りにしてるわよ。――勇者様」


「ええぇぇぇ!!戦うの?!」


「何言ってんの?でしょ?」


「嫌だあぁぁぁ!!」


 洞窟に響き渡る薫の叫び声。

 それを笑顔で見つめる私。


 そしてビンタを2発。


「なんで?!」


 こうして、長く馬鹿げた私たちのお化け屋敷から始まったダンジョンの旅は幕を開けたのでした。




《選ばれた者しか着ることが許されない勇者の証である》


 いやいや、何をつまらないことを思い出してるの。

 メイド服の勇者がいてたまるか。

 これは学祭によくある執事メイド喫茶の衣装なんだから。




―― 完 ―― 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お化け屋敷を抜けると異世界ダンジョンだった?!~知らないうちに異世界転移!怖がらせるにもほどがあるんじゃ?~ 八月 猫 @hamrabi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ