第3話 こんにゃくスライス?スライム?

「……子、さ……子」


 どこかで誰かの声が聞こえた。


「……え子、冴子!」


 それが薫のものだと理解するまで少しの時間がかかった。

 私はゆっくりを目を開ける。

 薫が私を心配そうな顔をして見ていた。


「ここは……」


 周りは真っ暗。

 僅かにある明かりは、どうやら薫が手に持っているライトからの光のようだ。


「冴子大丈夫?ここは学際のお化け屋敷の中だよ」


 ああ、そうだ。

 確か私と薫はお化け屋敷に入って……それで……どうしたんだっけ?


「何で私、こんなところで寝てたの?」


「寝てたんじゃないよ。急に凄い音がして、教室もめちゃくちゃに揺れて、それで冴子は気絶しちゃったんだよ」


 ……ぼんやりと思い出してきた。

 そうだ。そんなことがあった。

 あれは何だったの?雷が校舎に落ちたとか?


「私、どれくらい気絶してた?」


 身体を起こしながら薫に尋ねる。


「そんなに長い時間じゃないよ。2,3分くらいだと思う」


 ポケットを探ってスマホを取り出す。

 どうやら無事だったようで、明るく光る画面には11時53分と表示されていた。

 確か最後に見たのが11時40分だから、気絶していたのは本当に2、3分くらいらしい。

 そして画面の上には『圏外』の文字。

 家の番号にかけようとしてみたけど繋がらない。

 胸の中のざわつく気持ちがどんどんと強くなっていく。


「何があったか分からないけど、とりあえずここから出ましょう」


 まずはこの教室を出て、外で何があったかを知らなくちゃいけない。


「うん。ここからなら戻った方が早いね」


 ライトの明りを頼りに、元来た道を戻っていく。

 帰りの先頭は薫。相変わらずメイド服のスカートがひらひらしている。

 右手にライト、左手に食べ物詰め合わせ袋。

 あの騒ぎの中でも死守したところは素直に凄いと感心してしまう。


 ……。

 ………。


「ねえ薫。この教室ってこんなに広かったかしら?」


「……冴子もそう思う?」


 教室の端から端まで歩いたとしても、10秒も掛かるか掛からないかのはず。

 でも、歩き始めてから数分は経っている。

 途中曲がりくねりながら歩いてきたけども、そもそも入ってきた時は直線だったはずだ。

 本当はもっと早くに異変に気付いてはいたんだけど、何だか怖くて口にすることが出来なかった。


 最初に聞こえていたはずのお経も聞こえないし、お化け屋敷の中にも大勢の驚かせ役の生徒がいたはずなのに、あの爆音に対して慌てているような声1つ聞こえない。


 そして何より、足元の茶色のカーペットのようだったものが本物の土に変わり、暗幕で覆っただけだった壁が、どう見てもガチガチの岩肌になっている。


 このことを整理するのに時間が掛かったのだけど、結局何の答えも導き出すことは出来なかった。


「ここ……どこなんだろう?」


 薫が歩きながら不安げな声を漏らす。


「少なくとも教室の中じゃないわね」


 ましてやお化け屋敷の中なわけない。


「……どうする?」


「どうするって言っても……進むしかないんじゃない?ここで止まっていても助けが来るとは限らないし、そもそもここがどこなのかすら分からないんだし」


 自分で言っていて頭が痛くなってくる。

 学際のお化け屋敷にいたのに、何でここがどこか分からない何て話をしなきゃいけないのか……。

 一体全体何が起こったの?


「冴子……」


「え?何?」


 前を歩いていた薫が急に立ち止まる。


「ここ……お化け屋敷の中なのかもしれない……」


 そして突然そんなおかしなことを言い出した。


「そんなわけないじゃない。どう見たってここは――」


「だって、あれ……」


 そこで初めて薫が何を言っているのか理解する。

 薫がライトで照らしている方を見ると、そこにはネズミ色をした長方形の物体があった。

 それは全身を隆起させては伸ばしを繰り返し、尺取虫のような動きでゆっくりとこちらに近づいてきていた。


「……こんにゃく?」


 色といい、形といい、サイズ感といい。

 どう見てもこんにゃくだ。薫の首筋を襲ったのと同じタイプのこんにゃく。

 ただ1つ違う点は動いているという事だけど……。


「動いてるね……」


「生きてるの?あれ?」


 私たちが観察している間にも、ぴょこぴょこと近づいてくる。


「食べられるのかな?」


「止めときなさい」


 こんにゃくと私たちとの距離が2メートルほどに縮まった時――


――ぶわあぁぁぁ。


 突然、こんにゃくは巨大化し、大きな波の様な姿となって私たちに襲い掛かってきた。


「わあああああ!!」



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