第2話 始まりは雷鳴と共に
結局、薫はそのままの恰好で目的地へ向かう事になった。
行き先は3階にある3-Bと3-Cの教室。
そこは2部屋を繋げて作ったお化け屋敷になっている。
3階に着くと、遠くでゴロゴロと雷のような音が聞こえた。
廊下の窓の外を見ると、さっきまで雲1つ見えない秋晴れの空だったのに、いつの間にか真っ黒な分厚い雲が北の空から迫ってきていた。
「お化け屋敷ねえ……」
遊園地にあるやつならまだしも、学際で高校生の作ったお化け屋敷なんて怖いはずが無い。
どうせハロウィンみたいなコスプレした人が驚かせてくる程度だと思う。
「1人でも大丈夫だと思うけど……」
「絶対に嫌!!怖いのは絶対に嫌!!」
「なら行かなきゃ良いのに」
「だって、せっかくの学園祭なんだから、全部見て回りたいじゃん!!」
「あんたみたいな人が隠れミッキーを全部見つけようとするんでしょうね」
「全部見つけるのに2泊した」
ご当人でしたか。
3-Cの教室の後ろ側が入り口になっているみたいで、その前に机を並べた案内役の生徒が2人座っていた。
廊下を見ると、3-Cの前の入り口と3-Bの後ろの入り口を暗幕で覆った段ボールの壁で作った通路で繋げていて、結構本格的に作っているようだった。
「入っても良いですか?」
私は受付の女子生徒に声をかける。
「お2人ですか?じゃあ、こちらをお持ちください」
こっちが後輩だと分かっているのにも関わらず、丁寧な口調で対応してくれる。
渡されたのは小さなLEDライト。
「中はとても暗くなっておりますので、こちらで足元を照らしながら進んでください。これは最後に出口にいる者に返すようにお願いします」
「分かりました」
私はLEDライトのお尻の部分を押して明かりを点ける。
2人で1つかと思ったけど、想像していたよりもライトの光は強かった。
「じゃあ行くわよ」
薫は緊張した顔で入り口を睨むように見ていた。
心の中では、恐怖心と好奇心が激闘を繰り広げているはず。
「……うん」
勝ったのはどうやら好奇心。
それが将来的に
入り口のカーテンをくぐって教室に一歩入ると、視界が真っ暗闇に包まれる。
私は渡されていたライトで足元を照らすと、床には茶色のカーペットのようなものが敷かれていて教室の床が見えない。BGMには微かな音でお経が流れていて、なかなか凝った作りをしていた。
徐々に近づいてきている雷の音が時たま響いてきて、更にお化け屋敷の雰囲気を怖くしている。
ライトを左右に振ると人が2人並んで歩けるくらいの幅の通路が続いている。
両脇は机を並べて暗幕を張ってるのかな?
「うぅぅ……」
後ろから泣きそうな?もう泣いている?薫の情けない声と、持っている物の美味しそうな匂いがする。
何か声をかけようかと思ったけど、こういうところでそんなことをするのは野暮だと思い
お化け屋敷の中で怖がっている人に「怖くないから大丈夫」なんて変な話だし。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
「わあああああ!!」
突然薫が悲鳴を上げた。
それに驚いた私も薫に負けないほどの悲鳴を上げた。
「何?!」
壊れたメトロノームのように高速でビートを刻んでいる心臓の鼓動を感じながら薫へと振り返る。
ライトで照らされた薫は地面にうずくまっていた。
それでも手に持っているフランクフルトは落としていない。
「な、なんかビチャってしたやつが、く、首に――」
ライトを天井側に向けると、壁の上から釣り竿のようなものから糸でぶら下がっている『こんにゃく』が見えた。
これはまた古典的な……。
「薫、こんにゃくが首に当たっただけだから」
「こん、にゃく……」
その言葉に安心したのか、薫はゆっくりと立ち上がった。
真っ暗なところでいきなり首にこんにゃくが当たったら、そりゃあびっくりしたでしょうね。
「進むわよ?」
「……うん」
呟くような返事が聞こえたと思った瞬間――
――ドドオォォォォォン!!
「きゃあぁぁぁ!!」
間近で何かが大爆発を起こしたような爆音が聞こえ、教室――いや、校舎全体が激しく揺れた。
そして私の意識はそこでぷっつりと途絶えた。
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