転生したら世界を救うことになりました。
水瀬
第1話 呆気ない幕引き
なんというか。人生ってこんな呆気ないもんなんだなぁ。なんて、事故に巻き込まれたのだろう、痛む頭で、どこか他人事のように頭の中で考える。
平田有志。高校卒業と同時に入社したブラック企業もといブラックスーパー勤務の35歳、童貞。朝の5時から出勤し、帰宅はいつも23時。これからもこんな人生なのか…!?と謎の危機感に襲われスマホにインストールしたマッチングアプリにて会う約束をした女の子とのあんなことやこんなことを妄想した瞬間、信号無視をしたであろうトラックに右側から突っ込まれ無事重症。…と言った所である。
「…呆気、な、いなぁ…。」そう呟いた言葉は声にになっていただろうか。全身が寒い。血が大量に流れているんだろう。痛みよりも寒さの方が勝っている。…このまま、死ぬのだろうか。死ぬんだろうな。だからこその呆気ない、なんだろう。人は脆い。どれだけ身体を鍛えていたとしても、こうやってすぐ死ぬ。まぁ、俺は鍛えてないんだけど。ものの例えって奴ね。
「大丈夫ですか!?意識はありますか!?」…うるっさいな。俺が今脳内で喋ってんだろ。聞こえないのか!聞こえるわけないな!!俺が馬鹿だったわ!…てか大丈夫なワケあるか!もう足の感覚も指の感覚もないわ!!そんな悪態をつきながら、声の主の面を拝んでやろうと逆恨み根性丸出しで最後の気力を振り絞り薄く目を開ける。
「今、助けますからね!」黒髪の、いかにも好青年です!って感じのやつだった。少し頼りなさそうな、それでいて俺から見た右側の目元にホクロがある、周りから可愛がられてる感じの。事故にあってなければ、俺の顔は相当歪んでいたに違いない。何が悲しくて死の間際にこんなイケメンを見なきゃならないんだ、クソッ。そもそもお前隊員じゃない一般人だろ!下手に動かして死んだらどうしてくれるんだ!!まぁ俺はもはや既に虫の息だけどな!!
「い、い…や、めて、くれ…!」どうせ最後に見るのが人だと言うならマッチングアプリで会う予定だった女の子が良かった。プロフィールの画像が可愛かった。友達と撮ったプリクラだったのか、黒髪のボブで清楚な感じ。話してて安心するタイプの…などそんなことを思いながらここまでだな、と目を閉じようとしたその時だった。目の前の男の首にぶらさがってるロケットペンダントが目に入る。
「…は??」え?うそ、うそ?そんな偶然ある??なんとその男のペンダントの写真に写ってる物に、いや、人に見覚えがあった。
「…ゆ、みちゃ、ん…??」
「いや、俺の名前は猛ですけど。」聞いてねーよ。おいやめろ、何死にそうな人間にツッコミさせてんだ。それはそうとそんな頼りなさそうな見た目して猛かよ。猛ってねーだろ!…いや、そうじゃない。マッチングアプリで会う約束をした女の子が目の前の男の首元のペンダントの中で笑ってるのだ、どういうことだ?
「ゆみは俺の婚約者です。」
「聞いてねーよ。」
「えっ?」ガフッ、と口から血が吹き出る。なにか?俺は騙されてたっての??いやまさか、そんな…しかし何度見てもゆみちゃんだった。しかも写真、それそいつと撮ったやつなの?それをマッチングアプリのプロフィール写真に設定してたの?んなことある?え?しかも婚約者って…。
えぇ、ゆみちゃん、なんで婚約者いるのにマッチングアプリ使ってるの…?え、これって不倫になる?死ぬから関係ないか… 。そういえばゆみちゃん、地元にいる親のために給料のほとんどを仕送りしてて仕事に使う化粧品すら買えない、とか言ってなかった…?だから俺、ポイポイで2万円ほど足しにしてって渡さなかった…?と脳内を様々な考えが凄まじい速さで駆け巡り、そこで俺は物の見事に騙されていたことを知るのだった。しかもそこで視界が暗転、更に物事を考えようとするも脳内でブツッ、と何かが聞こえる音がしてそこで意識を失くした。
そうして俺、平田有志。35歳、童貞。ブラック企業勤務。マッチングアプリにて女の子に騙された挙句、会う約束に心躍らせながら出勤中、信号無視したトラックにぶつかられ死亡した。
転生したら世界を救うことになりました。 水瀬 @gumin1013
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