第2話 ドキドキのお茶会!
どうやら、このイケメンに告げ口をしたのはお父様のようだった。
「ワイスト公爵から聞いたんですよ、ウチの娘が大変無礼な事を申しておりましてってね」
爽やかな笑顔にちょっぴり毒のエッセンスを加えつつ、エルデ殿下はそう言ってのけた。
「ま、ま、誠に申し訳のしようが……」
相手はこの国最高権力者の一族である。私なんて明日から国外追放と言われたら事実そのとおりになってしまうのだ。今更ながらに脂汗をダラダラに流しながら、目を泳がせて謝罪を口にする。
「あー、いいんですよ。正直そこまで気にしているわけではありませんから、そんなに緊張されなくても」
殿下はそう言ってたおやかに微笑む。私は更に顔から血の気が引いてまっちろけ。エルデ殿下はそんな百面相をしている私の顔を眺めて愉快そうに声を上げた。
「あはは、ちょっと意地悪が過ぎましたね。しかし、不思議だったのです」
「不思議、と申されますと……?」
気が気じゃないこっちの気も知らないで、エルデ殿下は優雅に紅茶で喉を潤してから、これまたうさんくさい笑顔を浮かべる。
「いえね。どうして一度もお会いしたこともないルルフ嬢にそこまで嫌われたものか、と」
「え、えーと、それはですね……」
言えるかーっ! 前世の乙女ゲームであんたが速攻主人公に鞍替えしたんですぅーなんてのたまおうものならすぐに両親の耳にすることとなり、私は頭のおかしな娘として良くて幽閉生活に違いない。な、何か適当な言い訳を……!
「え、エルデ殿下は誠にお美しい方ですから、社交界でもその名を轟かせているのではと……その、勝手ながら妄想してしまいまして……」
かなり苦しいがこれが私の精一杯だった。箱入り娘がいらぬ妄想を掻き立てて勝手に嫉妬した、ということにしておけば万事うまく収まるハズ……!
「なるほど、それで私が浮気性と思われたのですか?」
「申し訳ございませんんんんん!!」
机に額がつくほどにガバリと頭を下げると、エルデ殿下がその頭上でクスクスと上品に笑い始めた。
「ルルフ嬢は随分突飛な物の考え方をなさるのですね、いや、これは愉快です」
「エルデ殿下?」
恐る恐る、エルデ殿下の顔を窺うように上げると、殿下はひとしきり笑った後にすっと両肘をテーブルに乗せて、手を組んだ。
「あなたは私がこれまでに接してきた貴族のご令嬢とはまるで違う考え方をなさるのですね。実に面白いです」
さっきから愉快だとか面白いとしか言われてないが、これって私の事を珍獣扱いしてやしないだろうか?
「は、はあ。恐縮ですわ」
とはいえ、そんな事言おうものなら首が飛びかねない。私は楚々と応じて緊張でカラカラに乾いていた喉を潤すために紅茶を口に含んだ。
「正直に申し上げて、私は今回の顔合わせに当初乗り気ではありませんでした」
「んぐっ!?」
飲み物を喉に詰まらせる、という芸当をやってのけた私はあたふたしながらどうにか吹き出すこともなく、レディーとしての矜持を保った。
「ですがお会いしてみて、この機会をくださった皆に感謝したい気持ちです」
「エルデ殿下のお眼鏡に適うだなんて、大変光栄ですわ!」
「ええ、ですからまた次のお茶会も楽しみにしております」
「次ですかっ!?」
さらっと言われた予定に私が思わず素に近い状態で驚愕すると、エルデ殿下はきょとんとして小首をかしげる。あー、美形は幼くてもどんな仕草しても似合うなちくしょー!
「ルルフ嬢にはその気がないということですか?」
「いえいえ、ありまくりですっ!」
不敬に繋がる! と咄嗟に出た現代的言葉遣いに、エルデ殿下はまたしても微笑む。
「本当に愉快な方だ、貴女は。今日はとても有意義な時間を過ごさせてもらいました。またの機会、私は本当に楽しみにしていますよ」
それは本音だったのだろう、爽やかな笑みとともに告げられ、いやもう心臓に悪いんで来ないで欲しいですなどとは口が裂けても言えないのだった。
私ホントに悪役令嬢? N通- @nacarac
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