第5話僕の心の叫び
僕の心は昂っている。雨で風邪を引いてしまったのかもしれない。いや、そうでは無い。それは1番僕が分かっている。代わりに僕の胸を打ったその正体を、僕は真剣に見つめていた。
僕は彼女に向かって社会問題を起こした。
「君、もしかして…もし!帰る場所が無かったらウチに寄っていかない?」
僕は無意識のうちに、そう口走っていた。
「え?」
彼女の口から出た一言は、彼女の感情を大いに表していた。その表情も心做しか強ばって、固まっている。
それは、そうだ。誰だって《困惑》である。
「え?」
僕はそう呟いた。僕の頭が無意識から意識へと覚醒していく中で、唖然としていた。
い、今僕、何言って‥‥んだ?
完全に今のナンパじゃねぇか!!?
お、おいおいおいおい!!!
やべぇだろ。
どう考えても変な不審者が、道端で可憐な彼女を誘拐しようとしている真っ最中にしか見えない。 と言うか誰だって、こんな光景を見たら必ず通報する筈だ。
え、え、どう、どうしよう。
と、僕が絶賛悩み中の所に、彼女は思いもよらない爆弾を投げつけてくる。
「‥‥.‥.‥‥.うん。いいよ。貴方と一緒に行く。」
まさかの、オーケーだったぁァァー!!
そして、ぇえええ!!帰る場所ないの?まじで!?
本当にまさかの展開に、僕は目が点になっていた。まじか。笑えないけど。
これがいっその事、夢やネット小説ならどれほど良かっただろうに。今の僕は恐らく、目が死んでいることだろう。
この場で分かる事は、少なくとも彼女は僕より年下である事。そして、これから僕は準犯罪者として警察から追われる事にでもなるんだろうか等という僕としてはどうでも良くないが、状況的にどうでもいい疑問が、簡単に想像出来てしまうという事だ。想像しただけでも身の毛が夜立つほどだった。
嗚呼、なんて事を言ってしまったのだろう。
『後悔は先に立たず。』とはこの事だろう。それよりも、どちらかと言えば『後悔は後に佇む。』と言った方が今回の場合はしっくりくる気がするのだ。
まるで後悔という名のうねりが僕の事を飲み込もうと待機している様だった。
そうして、僕は彼女と目が合うと、今度こそ一世一代の一大決心をした。する他なかった。
「うん。じゃあ、行こうか。」
僕と彼女は、雨の中をずぶ濡れになりながら、最寄りの駅へと向かった。
もう、びしょ濡れの会社用の鞄の中にある会社の先輩から貰った、連絡先が書いてあるメモなんて必要なかった。
ちなみに、会社の先輩は僕の憧れの人だった。やっとの思いで交換できた連絡先で、少々浮かれ上がっていたのかもしれない。
その結果が、この大惨事を招いてしまったのだ。
「御子柴くん?その子は‥‥.。」
とても聞き覚えのある声のする方向に僕は顔を向けた。
その最寄りの駅の改札の前には、会社の憧れの先輩が立っていた。
先輩はその場で棒立ちになりながら、器用に首を左右に振りながら僕と彼女を交互に見比べて僕の名前を呼んでいる。
何をしているの?と。そんな言葉が透けて見えるほどには僕は先輩のことを知りすぎていたのだ。
終わった‥‥‥。この状況下で冷静に、僕はそう直感できてしまった。
愛する雨の雫となって NEW @aruminn
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