第4話軒下の彼女
僕は会社用の鞄を頭の上に乗せた状態で、呆然と軒下の彼女を見つめていた。
それから我に返ったのは、雨がまた一段と強くなってきた時だった。
彼女を見ていたのは、ほんの少しの間だった筈なのに僕にはいつにも増して時間が遅く感じた。
「あの、!君、そんな所でどうしたの?家に入らないの?」
僕は一世一代、とまではいかないが、結構な勇気を出して彼女に聞いてみる。すると彼女は僕の方をチラッと向いて、どうでもいいと言うような投げやりな口調で僕に言った。
「雨宿り」
それを言い終わったら彼女はまた、とっても大きなお空へとその瞳を移してしまった。
「え、、、、??」
僕は唖然として空いた口が塞がらなかった。
う、うん。整理しよう。
1つ目に、彼女が大雨の中、古民家の軒下に居るのを僕が発見した。
2つ目に、彼女はキレイ‥‥じゃなくて、僕は軒下にいる彼女に質問をした。『どうしてそこに居るのか。君の家には入らないのか。』と。
3つ目に、質問の返事が『雨宿り』と。
「……………。」
「……………。」
両者が沈黙の構えを見せる。
え、ごめん。僕、ちょっと何言ってるか分からない。
え、分かる人いる?
この場に僕と彼女しか居ないけど。
僕はどうやら、彼女に対して盛大な勘違いをしていたらしい。要するに、彼女も僕と同じく傘を家にお留守番させた側の人間だということだ。
彼女の‥‥. 家じゃないんだね。うん。
ほら一見さ?
普通の人がちょーっとチラ見したくらいだったら分からないよね? ね??
僕は悪くないと断言するよ?
「僕は悪くない!」
あっ‥‥‥‥。
あ''ー!やっちゃったァァ!!
後悔しても遅いとはこのことだ。
僕の、考えに考え抜いた一言が口に出た。
否、出てしまった。
恐る恐る、ちょっとした好奇心という名前の怖いもの見たさで、彼女の方をチラッと盗み見る。
すると、彼女は僕の方に瞳を向けて、ちょこんと首を横に傾けていた。
「どうしたんですか?」
そう言いながら、彼女は少し乱れた髪を左手で左耳の上へとかける。
ズキュン。その心音が、そのまま僕の耳まで聞こえてきそうな程、僕は彼女に胸を打たれていた。
その声まで可憐な彼女に、僕は今世で初めて心を奪われるという感覚を知った。
これが、僕と彼女の出会いだった。
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