第3話彼女の瞳
それから無事に高校を卒業した僕は、大学へと進んだ。
大学は経済系へ進み、特別にサークルにも所属していなかったので、必至に勉強した。
なにせ、勉強だけが僕の取り柄だったのだから。
僕は運動音痴な上に、リズム音痴であり、方向音痴だった。大抵の''音痴''という名前が付くものは全て網羅していたと言っても過言では無い。
そんな僕は、大学の同級生からの‥‥‥..それは違うな。『全ての同級生からの』が正解だ。中学でも、高校でも基本的に、カラオケ等の遊びの誘いは全て断っていた。
特にカラオケで音程バーを全て外すという偉業を成し遂げる奴は僕を置いて、他に知らない。
採点機械に『抑揚パーフェクト!音程やリズムに気をつけると、より良くなります!^^』と言われ、最低点のギリギリの1桁を叩き出したり、『採点できませんでした。』と歌っている筈なのに、何故か採点されていなかったのはいい思い出だ。
その他の経験でも、懸命に歌うが健闘も虚しくお気に入りの枕を濡らしたり、そもそもカラオケ店に辿り着けない等といった理由から、尽くが惨敗に終わっていた。
まるで誰かに仕組まれたかのように。
運がないと言われればそれまでなのだが、何故だか凄く悔しい。
そんな僕が今、目の前に居る、、、可憐な彼女に目を奪われていた。
彼女は古民家の軒下で佇んでいた。
僕は息が上がっていたので、ちょっとだけ休憩が欲しかったのだ。決して、彼女に一目惚れして立ち止まった訳ではない。
ないはずだ…
彼女は薄い黄色のワンピースを着ていて、腰丈までありそうな艶やかな漆黒の髪は雨に濡れていた。毛先から落ちた水滴が地面に染み込み、白い玄関口のアスファルト舗装にグレーのシミを残している。
その姿はまるで、絵画から抜け出してきたのかのようだった。
僕はちょっとだけ彼女に興味が湧いた。何故か湧いてしまったのだ。普段なら声も掛けないで素知らぬフリだっただろう。多分。
なにせ?その家の人だろうし、家の軒下でずぶ濡れでいる彼女はその場から動かず、分厚くて薄暗い雲しかない虚空を見つめていたのだから。
言い訳じゃないんだよ?決して。
うん、でもまぁ。確かに風邪ひきますよー、くらいは言っていたかもしれない。
だがそれ以上にその様な、たわいもない言葉さえも失わせてしまう程、彼女の瞳は無垢で空虚だったのだ。
一体、彼女の瞳には何が映っているのだろか。
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