エピローグ

「先日、取り壊しが決定した図書館で、赤子を窒息死させた花村美咲容疑者が遺したとされるスクラップブックが発見され、

過去失踪した矢部浩二さんを殺害したことに関する内容が記されていました。

このブックには、矢部浩二さんとの関係や、彼女が失踪前に抱えていた思いが記されていると考えられます・・・」


花村美咲が赤子を窒息死させてから年月がたったそんなある日のことだった。

かつての友人であった矢部浩二が殺されていた事実が、再び彼らを集結させ、

取り壊しが決定した古い図書館へ足を運ばせる。


そこには、埃にまみれたスクラップブックが残されていた。

それを彼らは丁寧に読み進める。

花村美咲という人物を理解するために。


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1日目


今日より、植物の観察日記を始めることをした。小さくて、鮮やかな色をした、清々しいそれを乾燥させることにする。

どれくらいで色が変わるか楽しみだ。


3日目


少しずつ水分が抜けてきた。表面はまだ柔らかいが、触れると少し硬さを感じる。

乾燥が進むと、色がどう変わるのかの観察が待ち遠しい。今のところ、まだ元気そうだ。


近頃、彼の親友が行方不明になったらしい。

突然連絡をたったらしく、みんな心配している。

そんなことはどうでもいい。観察に集中する。


7日目


水分がさらに抜けてきたのか、触れるとカサカサと音を立てるようになった。

色も少しずつ褪せてきた気がする。

まだ形は保っているが、元の輝きは少しずつ失われつつある。


学校では、ある人が音信不通だと心配がる空気が広がっている。


加えて、大人が帰りが遅い彼のことを心配する声も大きくなっている。


今は観察に集中したいため、弊害となる声は全て無視することにした。

余計なものは必要ない。


14日目


乾燥が進み、少し縮んできた。もう触れると簡単に破けてしまいそうだ。

色は完全に抜けてしまい、ほとんど白に近い。

かつての生命力が消えつつある。


21日目


乾燥させきることに成功した。触れると砕けるぐらい脆くなり、かつての色は完全に失われている。静かに乾燥していく様子は少し寂しさを感じたが、


自分だけのものなのだと、相対的に達成感を得ることができた。


28日目


学年集会にて、警察に捜索依頼を出すと発表があった。

正直そんなことはどうでもいい。またどうでもいいことを書いてしまった。

これから余計な話題は自分の前から切り捨てることとする。


30日目


乾燥し切ったこれをよく見ると、自分の想いが大きくなる。

人生に色を持たせてくれたそれが、今はただ、愛おしい。キスを重ねると、

餌を与えられた雛のようにチュパチュパと吸い付くので、たまらない。

キュートアグレッションに似た感情に揺れ動かされる。


40日目


もう、何をしても反応する。

まるで愛を求める赤子のようだ。

何を与えても美味しそうに食べる様子が、母性をはげしくくすぐる。

それに向かって愛が詰まったものをかけると、美味しそうにまた舐める。

ただただ、今日は一日中愛を伝えた。


41日目


ますます、それが心の中で大きくなっている。次第に力を失い、意識が遠のいているようだ。

体が冷たくなっていくのを感じながらも、それに寄り添い続ける。


呼吸が浅い。鼓動も弱まっている。

そろそろ、輪廻転生は本当に実現するのかどうかの実験を開始する時がきた。


44日目


輪廻転生の実験のため、魂の器を作ることに成功した。

いくら乾燥し切ったといっても、生存本能はしっかり機能を残していて、体の相性も良好なのも確認できた。


その結果、それは完全に行動を停止した。


56日目


輪廻転生の立証を開始する。腹にある器に、魂を移すため、それの乾燥した部位を少しずつ食べる。


60日目


久しぶりにクラスメイトに会った。彼女たちは体の異変に気づき、悪い男に絡まれたのかと心配するが、大丈夫だと高をくくった。

3日目から探し回っている彼も久しぶりにみたが、少しやつれていた。


76日目


体に変化が訪れてきた。妊娠初期の兆候が見られる。学校を辞めた。

89日目


警察が家にきた。ある男との古い幼なじみなら、何か知っているかもと接触してきた。

冷静に、軽くあしらっておいた。


120日目


魂を宿すための赤ちゃんが順調に成長している。私の計画が望んだ通りに進んでいることを確信する。


186日目


器が、生まれたばかりの状態で私の掌にいる。

乾燥し切った、欠けた夫とともに、生まれ変わった彼を愛でる。

もうとっくに私の体は妊婦としての体へと成長した。


285日目


スクスクと成長した彼は、だんだん彼に似てきているようだ。

輪廻転生は成功している。
私のことは「おかあさん」ではなく、

「美咲」と呼ばせることにする。


460日目


毎日、毎日、毎日、彼は「浩二くん」だと語りかけているのに、魂が彼を捨てないのか、怖いよお母さんと泣きじゃくる。

輪廻転生は成功していない。

まだ定着できていないようだ。


981日目


どうして?私の努力が足りないのか?これが全く器としての機能を持たない。

浩二くんは相変わらず、この器に定着しない。

もう5年もたった。私の愛をしっかり伝えられていないのに。

この器が無駄に私の愛を浪費する。


1200日目


おかしい。これの目が浩二くんとは違う。

あなたは、私を拒絶しているの?

もっと魂から痛めつけないと、魂は出ていかない。本当に彼にすることはできない。


1296日目


ずっと泣き声が止まらない。弱い。彼ならもっと耐えられたのに。

私はこいつを「矢部浩二」にするために、なんでもする。


1333日目


無駄だ。こいつは、器の分際で魂を剥ぎ取れない。浩二くんが、私を愛してくれるはずだった。

毎日毎日、泣き声と拒絶ばかり。


1366日目


役立たずが。


1377日目


こいつは「矢部浩二」にならない。どれだけ尽くしても、彼は帰ってこないし、こんな器を求めていない。

私が愛するべき存在は、ただ一人、矢部浩二なんだ。



1380日目


もう、物資がない。あなたを取り込んでも、心が満たされない。

首だけになったあなたを、どれだけ愛しても、あなたには伝わらない。


ゴミを捨てたことが警察沙汰になった。


1500日目


刑期を終えた。久しぶりに出会った彼の両親、そしてかつての友人たちのの苦虫を噛んだような顔が反芻する。



1530日目


また、孤独になってしまった。

縁を切られたのだから、当然だろう。

これ以上、昔を羨んでも意味がない。

私もあなたのように枯れたら、会えるのかな。

次はちゃんと、あなたに向けて、謝りたい。

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