Q:好きな人の、ドコが好き?(終)











 ————なんて、終わりはしたものの。


 あんなところをオチとしては、肝心なことが伝わらない。

 とある大事な、特に重要な、危険性が示せていない。

 なので、こんな場面を補足する。


 通学路にて、鬼絡みの使命から解放された少女と出くわした日の事。

 恋は恋として、夢は夢として、有坂愛里咲は恒例の一人芝居を行っていた。


 二つの校舎の二階を繋ぐ屋外渡り廊下。

 めくりで記される演目は、【ロンディナム侯の奇異なる購入】。


「この世に、物好きではないものなどいると思うか?」


 恒例の風景。

 なれどもそこに変化アリ。

 前と同じく晴れ渡り、興味が湧いた程度の芝居を楽しむには些か難儀な炎天下に……観客が、三人いた。


「まさか、まさか! 人は誰しも一人残らず物好きだ! 俺も、君もね!」


 彼らは皆、通りすがりが足を止めたもの。芝居を見て『足を止めよう』と感じた者たち。

 途中からであっても、かぶりつきの間近で、三対の眼が真正面から彼女を見ている。

 大粒の汗も苦にせず一生懸命演じる少女……それより前に表れている、奇態にして奇抜の侯爵から、目を離せずに。


「誰もが要らないものだろうと、誰かが欲することもある! むしろ、誰にも欲されないようなものこそが、俺は愛おしくてたまらないんだ! 今回は、そう——これを貰おうじゃあないか!」


 そうして、芝居が終わった。

 六個の手が賞賛を打ち鳴らすが、それを受けている最中、彼女は何のリアクションもしなかった。できなかった。その心はまだ、冬の邸宅の、商人と魅惑の品の前にあったから。


 そうして、一人が去り、二人が去り……ようやく、親から継いだ莫大な遺産を持て余す変人侯爵が九十九ヶ丘高校二年生の少女に戻ったころ、指を差した先にちょうど偶然立っていた、最後まで残り、ずっと拍手をしていた一人の生徒が口を開く。


「今度はまんまと、良い芝居に足を止めさせられちまったよ」

 

 日向志央が、静かに。

 ただ、若干の熱が篭った調子で、言う。


「偏屈侯爵の演技、変わったじゃん。とびきり変わり者で、したいことしかしないやつの感じが、前よかずっと伝わってきて引き寄せられた。余計な角が取れたっつーか、括弧の中身を音読してるみたいな力みがなくなったっつーか。多分だけど、よほど参考になる経験とかしたんだな。お見事、有坂。なんか、うん……自分でもよくわかんないんだけど、礼を言いたくてたまらない気がする」

「……………………」

「ありがとな。お前のおかげで、今日もいい日だ」


 彼は購買の人気メニュー、売り切れ必至のカツサンド……と、スポーツドリンクの入ったビニール袋を差し入れに置き、去っていく。


「……ウッソだろ。あいつめ、何も覚えてなんかいないくせに、ピンポイントなことを。これだから、全身フラグ男は恐ろしい」


 降り注ぐ青い夏。

 全てを舞台袖から見ていた魔女が補足する。


「何もかもなかったことになっても、経験値だけは蓄積する……本気の芝居の経験が、値千金芸の糧、役者の財産になる、か。君のやってることは別に、自分の得るものが何もないわけではないかもだ。……あいつのあんな感動顔、初めて見たよ。案外こっちの武器で、君は立派に日向の心を攻略することが——」


 そこまで言ったところで、智悟は「いや、野暮か」と発言を改める。


「愛里咲。日向志央の、一体どういうところが好きだい?」


 しっかりと掴んでいるので迷わない。

 六月の青空さえ引き立て役とするように、有坂愛里咲がとびきり眩しくはにかんで。

 好きな人の、好きなところを、穏やかに綴った。


「誰かのがんばりを、ちゃんと、見つけてくれるところ」



—————————————————————



[Girl’s/Slash/Egoism]

[the curtain]


(勿論)

(青春と、初恋は続く)


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Girl’s/Slash/Egoism  負けヒロインな有坂愛里咲はいかにして108人の恋敵の成立フラグをブチ折ることに決めたのか 殻半ひよこ @Racca

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