化け猫

古時計地獄

化け猫

以下の文は、ある学者とその助手の会話である。


助手「しかし、お化けと妖怪を同じものとみなして良いものでしょうか」

学者「いや、ならんだろう。字義どおり解釈すれば、お化けは化けて出るもの、すなわちもとはお化けでなかったものだ。一方妖怪は生まれつき妖怪なんじゃないのか」

助手「そうですか。じゃあ化け猫はどうなんです。あれはお化けなんですか妖怪なんですか」

学者「そりゃ君、猫のお化けだからお化けなんじゃないか。丁寧に言えばお化け猫、またそれを略せばお化け」

助手「でも世間一般では妖怪という認識ですよね。妖怪図鑑にも載っていましたが、そこんところどうなんですか」

学者「どうなんですかと言われてもな。たしかに、妖怪と言われればそうだろうとも言えるだろう」

助手「どっちなんですか。はっきりしてくださいよ。大体あなたはいつもそうだ。この間だって曖昧にはぐらかして、結局答えてくれなかったじゃないか」

学者「なんだと。その件は今は関係ないじゃないか。なぜ急にキレるのだ。それが人にものを聞く態度か。わからんものはわからんのだ」

助手「なんですって。僕たちのことなのに。じゃあ僕のことは遊びだったって言うんですね」

学者「つまらないことを言うんじゃない。そもそも、私に聞くのが間違っている。そういうことはお前の尻のほうがよく知っているだろう。おい、尻。妖怪とお化けの違いはなんだ」

Siri「お化けとは、幽霊や妖怪など特異なものの総称とされています」

助手「なんだ。では、化け猫はやはり妖怪かつお化けということなんですね」

学者「そういうことだ」


2人は、マンションの一室でソファに腰掛けている。コーヒーテーブルの上に座ってくつろいでいる猫の尻尾は2本ある。


助手「よく考えたら、こいつは化け猫というより猫又なのかもしれませんね」

学者「いずれにせよ新種、ということか」

助手「新種となれば、先生の名誉も挽回されて、また研究室に戻れるでしょう」

学者「うむ。なんとかして論文を完成させて、次の学会で発表しなくては」

助手「しかし不思議なのは、こいつが住宅街の真ん中で見つかったということです。普通新種が見つかるといったらジャングルの中か深海の底でしょう。こんな町中で、比較的大きい哺乳類の新種が見つかるなんて。今までどこに隠れていたのやら」

学者「そこが問題なのだ。まるでお化けか何かのように急にふっと現れたからな。はっはっは」

助手「はっはっは。それはもはやお化けそのものじゃないですか」

学者「化け猫はお化けだと尻も言っていたからな。そうなんだろう」

助手「え?じゃあこの猫はほんとうのお化けなんですか」

学者「え?いやこの化け猫は、え?お化けっていうか、え待って何この猫」


コーヒーテーブルの上の化け猫はゆっくりと首を回してじろりと二人を見た。次の瞬間、そこには何もなかった。

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化け猫 古時計地獄 @furudokei_4

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