第13話 処遇


 翌日の朝のことです。


 昨晩遅くに決定した千鶴の処遇を伝えるため、参加者のひとりが代表として彼女の住まう家へと出向きました。


「おはようございます」


「……ああ、おはようございます」


 その村人を出迎えたのは千鶴の父でした。


 彼は、乾いた唇を湿らせ、意を決したように口を開きます。


「わざわざご足労いただいて申し訳ないんですが、千鶴は夜も明けないうちにここを出て行ったようで…………」


 その憔悴した様子から、彼自身も一人娘が発ったのを知ったばかりであろうことが見て取れました。


「……いえ、大した距離でも手間でもありませんから」


 村人から咄嗟に出てきたのは、味気も素っ気もない返しでした。


 どうせ自分が引っ提げてきたのは、『なるべく早くここを出て行け』という無慈悲な通達です。


 彼は最後まで掟の遵守を掲げる多数派に抗った者のひとりでしたが、結局は叶いませんでしたから、せめて目の前の気の毒な父親に、気の利いた言葉のひとつでもかけてやりたかったのですが。


「…………では」


 しかし、彼はなにも言えずじまい。


 ぺこりとひとつ頭を下げて、もと来た道を帰ります。


「ええ……」


 取り残された千鶴の父は、ぼうっとその背中を見送ったあと、家に入りました。


 それからの一年間はというと、千鶴の母ともども、ほとんど村人の前に姿を見せなかったとか。

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