第12話 真意
「あ……! そういうことか!」
「当時の人たちは、掟を作ることで『対抗措置を取ったという証明が欲しかった』んですね…………」
二人の若者が、がっくりと肩を落としました。
「おおかた、そんなところだろうね。権力者どもは、村人を守るために自分たちがなにかをした形跡さえ残せれば、それで構わなかったんだろうさ。生きてるうちに遭遇するかわからない不可解な現象よりも、毎日のように顔を突き合わせる村人たちのほうが怖い。当たり前の話じゃあないか」
人々が絶句したり憤りを隠せずにいたりするなかで、老婆だけが冷静でした。
「そんな…………」
「ひどい……」
ちらほらと非難の声が上がります。
村人たちの心は、いまや旧弊的な村の体制に対する不信感に満ち満ちていました。
「それじゃあ、
しかし、老婆が問いかけた途端、その場は静まり返ってしまいました。
「………………」
人々は想像します。
もし自分が村長などの役職を持つ者であったなら――――。
『村人たちを守る』という断固たる意志を示し、責務を果たさなくてはなりません。
なにもしなければ責められるのは誰かなど、考えるまでもないことでした。
そして、人々のために……というより、
よほど頭の切れる人物でもない限り、各人に注意してもらうように呼びかけるのが関の山で、そのためにお飾りの掟が制定されるに至ったのだと、この場にいる全員が心の奥底では理解していたのです。
「……思い、つかないな……」
「しかも、いまのところはそれで防げてる? んだから、案外馬鹿にもできないし……」
「そうだろ。一見、無価値なものでも、存在する一応の理由くらいはあるものさ」
――――とはいえ、その内容はあまりにお粗末で、とても看過できるものではありませんでした。
こんなものは対抗策などでは決してなく、一方的な自己責任の押し付けです。
「でもさあ、なんかこう……もっと……あるんじゃねえかな? 他の方法っつうかさ」
「ですよね。時代に合ってないっていうか…………」
「…………それを話し合うのもおおいに結構だけどねえ。あの子のことはどうするんだい? まさか忘れちゃいないだろうね」
老婆のひと言が、すっかり掟の内容の改善へと向かってしまった人々の心を差し迫った問題に引き戻します。
「そうだったな。千鶴ちゃん……」
村の汚泥を直視することも大事ですが、あいにくとそれは本日の議題ではありません。
さまざまなものを天秤にかけ、人々は再び頭を抱えるのでした。
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