第11話 誰がための


「だから、未婚の若者を……をなるべく出さないように、あの掟が生まれた……? それが昔の人たちが考えた『対策』ってことなの……?」


 と発言した若者は、唇をわななかせています。


「でも……でもさ! そんなの勝手じゃないか!」


「そうよ。事件の原因や歌声の正体だって、はっきりしてないんでしょう?」


「反対する奴は一人もいなかったってのかよ!」


 またも、一人の声が呼び水となり、人々はそれぞれの感情を露わにします。


 被害者たちに一応の共通項は見えるものの、断定できる材料も不十分なまま掟として制定し、一定の年齢に達したからと婚姻を強いる村の在り方は、村人――主に若者たち――にとって、理解不能なものでした。


「…………あんたら、お人好しにも程があるんじゃないかい」


「どういうことですか?」


 彼らを見回してため息をついた老婆に、鋭い質問が飛んできました。


「いまの話を聞いて、…………いや、違うね。の掟だと思った?」


 老婆はそれに答えることはせず、逆に質問を投げかけます。


「もちろん、『村人みんなを守るため』ですよね! そのために仕方なく……。あなただって、そうおっしゃっていたじゃないですか」


 間髪入れずに答えた若者の瞳は、純粋な煌めきに満ちていました。


「部分的には正しいんだけどねえ……。残念なことに、実際はあんたらが考えてるような上等なもんじゃあないさ。わしの言いかたにも、ちと問題はあったがね」


 村人たちは互いに顔を見合わせ、首を傾げます。


 その者たちの瞳も例外なく煌めいていました。


「……あんなのはね、苦肉の策だよ。根本なんて断ちようがないだろう。相手は不定期に訪れる正体不明の怪異だ。実害も出てる……」


「そんなことはわかってます。もったいぶってないで、早く教えてくださいよ」


 村人たちは明確な答えを欲していましたが、老婆は答えそのものを明言しようとはしません。

 

「だからって、どうなる? だい?」

 

 ひと呼吸置いて、さらに畳み掛けます。


 彼女は、何十年、何百年と続いた因習の実態と、そこに隠された思惑に、若い彼らにも自力で辿り着いてほしかったのでした。


 ――――たとえ、その瞳の煌めきが損なわれようとも。

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