第9話 共通点


「…………そんなことが?」


 続きがないとわかると、若者たちのうちの一人が独り言のように呟きました。


「え? 青龍川って、とても人が泳いで渡れるような川じゃないよね?」


「うん、結構な急流……いや、おばあさんの話にもあったけど激流って言ったほうがいいか。川幅もかなりのものだし、水深だってそこそこある……」


「…………あ、いまの話で思い出したんですけど……。単純に村から見た位置で名付けられたわけじゃなくて、巨大な青い龍が暴れ回ってるみたいに見えるから青龍川っていうんだ……ってどこかで聞いたことあります」


「おいおい。そりゃ、一体どういうことだよ」


 話を聞いた村人たちは、黙って物思いに耽ったり、近くの者とひそひそ話をしたり……と、さまざまな反応を見せました。


 老婆の口から語られた奇妙な事件。

 

 その話に出てきたのは、年に数名が命を落とす危険な場所として知られる青龍川です。


 そこは村の貴重な水源なので、人々が生活用水を汲みに行くことも少なくありません。


 しかし、流れも急で底が深いため、万が一のことも考えて、大人たちが連れ立って出かける……というのがならわしでした。

 

「……正直、ちょっとよくわからない話だったが、疑ったりはしないよ。でも、それがあの掟にどう関わってくるんだ? 聞いた感じ、ただの都市伝説じゃないか」


「うーん……。あ、もしかして、被害者の共通点が未婚の人だった……んでしょうか?」


「そうさ。『歌声が聞こえた』のは、だけだった……」


 村の生き字引からの問い掛けに、老婆はしっかりと首肯します。


「…………子どもが失踪したことはないんですね?」


 一人の村人が遠慮がちに尋ねたのは、おそらく居合わせた他の者たちも気にしていたことでした。

 

「ないね。上は……いつ死んでもおかしくない爺なんかがことはあったみたいだが、いちばん若くて十七歳だ。わしに言わせりゃ、そのぐらいの年のモンは結婚してようがまだまだ子どもだけどねえ。ま、あんたらもその点は安心していいだろう」


「……次もって保証はないのに、よくそんな無責任なことが言えますね」


 幼い子を持つ村人が、老婆に冷ややかな視線を投げかけました。


「いやいや、それを言うなら事件自体も起きるって決まったわけじゃないだろ? 息子さんも小さいし、心配する気持ちはわかるが、あんまりおばあさんを責めるなよ」


 隣に座っていた村人が宥めますが、納得のいかない様子の村人は、なおも老婆を睨み付けたまま。

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