第6話 村の掟
しかし、そんな生活も長くは続きません。
ここは長い歴史のある狭い村であり、彼女は婚姻を結ぶ年頃の少女です。
この村においては、基本的には相手こそ自由に選択できるものの、婚姻そのものを結ばないことに対する自由はありませんでした。
大抵の若者たちは十五、六歳になると、村の中、あるいは近隣の村の者と祝言を挙げ、満十七歳までに相手が見つからなかった者は村を追われます。
それがいつ始まったとも知れない、古くからの掟でした。
「ついに来週だね!」
「そうなの。いまから緊張しちゃって……」
「うふふ。ずっと好きだった人と結ばれるなんて、羨ましいなあ」
「……うん。本当に、夢を見てるみたいよ……」
女の子たちの会話が耳に入ってくるたびに、千鶴は今後の身の振り方を思い、ため息をつくのでした。
「…………。わたしはこの先、どうなるんだろう……」
とはいえ、村の外に出さえすれば、それ以上迫害を受けることはないので、期限までに相手が見つからなかった者のほとんどは、追放される前に自主的にこの地を去ることを選びます。
「お願いします! 身体は丈夫ですし、わたしにできることはなんでもしますから……」
「あんたがいい子なのは知ってるよ。でもねえ、時代は変わったんだ。
一般的な十五歳であれば、ここを出て、職を見つけ、独りでもなんとか生きていくことができたでしょう。
わずかな希望をかけて千鶴も職を探しますが、彼女の見た目はそれよりも幼いうえ、話したところで信じてもらえるかわからない事情も抱えています。
仮に信じてもらえたとしても、十歳あまりの容貌の彼女を雇ってくれる人を見つけるのは難しいことでした。
それでも、村の掟は絶対です。
猶予は残されているとはいえ、あまり呑気に構えてもいられません。
自分に出来ることなどたかが知れているということには気付いていましたが、何もしない理由としては不十分に過ぎました。
彼女は数少ない伝手を頼りに頭を下げて回りますが、すげなく断られ続け、気付けば刻限は数か月後に迫っていました。
「この村にいられるのも、あと少し……」
しかし、そう悪いことばかりでもありません。
千鶴の成長が止まって数年が経ちますが、周囲に同じ症状が出た者は誰一人としていなかったため、少なくとも伝染病の類ではないことを大多数の人は理解してくれたようでした。
進行方向から歩いてきた人が彼女を大袈裟に避けるなどのあからさまな態度を取られることも減り、彼女は救われる思いがしました。
とはいえ、彼らに受けた仕打ちを忘れることなどできそうにありません。
「村を出る口実ができたと思えばいいだけ……」
と呟いた彼女の声はかすかに震えていました。
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