第3話 五年後


 それから、五年が経過しました。


 千鶴はというと、かつての誓いを果たせる状況ではなくなっていました。


 それもそのはず。


 彼女の成長はやはり微々たるもので、身長に限っていえば、あの日から小指の半分ほどしか伸びていなかったのですから。


 身長以外の部分でも外見上の変化はほとんど見られず、同い年の子たちが大人顔負けの体躯に成長していくなかで、やはり千鶴ただ独りだけ、時間が止まってしまったかのようでした。


 原因がはっきりしていれば、ここまで思い悩むこともなかったのかもしれません。


 千鶴は母に付き添われて何度も村の医者にかかりましたが、健康状態に異常はなく、該当する病名もありませんでした。


 こうなってしまっては、医者もお手上げです。


「うーん……。やっぱりどこにも異常はないよ」


 医者は診察結果に何度も視線を走らせましたが、千鶴の身体は健康そのものでした。


「でも、おかしいじゃないですか! ほとんど成長が見られないことが既に異常ではないんですか?」


 母の指摘を受け、医者の眉が曇ります。


「そうは言ってもねぇ……何も見つからないんだよ」 


 そのことに医者である彼が気付いていないはずはありませんが、安易に肯定してしまえば、さらにきつい追及は免れないでしょう。


「そんな…………! もう少し、しっかり調べてください……」


「これ以上、調べるところなんてないよ。『私の手には負えない』。ここまで言わんとわからんのかね。……失礼。診察は終わりだ。他の医者を当たってくれ」


 医者は二人を追い払うように、次の患者を呼び出しました。


 同じように帰されたのは、もう何軒目になるでしょう。

 

 繰り返される医者と母のやりとりにげんなりしながら、千鶴は考えます。


 『』のかと。


 彼女には心当たりなどありませんでしたが、謎を解く鍵はそこにあるに違いないのです。


 ――――自分に記憶がないのなら、他の人の知識に頼ればいい。


 千鶴はこの逼迫した状況でも悲観的にはならず、現状を打破するべく懸命に思案します。


 体は成長しておらずとも、彼女の精神は誰より成熟したものでした。


 過去の事例から、少しでも参考になりそうな記録を見つけ出せないか。


 そう考えた彼女は、を訪ねることにしました。

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