第2話 親友


 それから一年ほどが経過した頃でしょうか。


 これまで順調に伸びてきた千鶴の身長は、突然伸びなくなってしまいました。


 元は真ん中より背の高い部類に入っていたはずの彼女ですが、ついに先日、村で一番背の低かった親友にも追い越されてしまいました。


 どんどん大きくなっていく周りの子たちに対して、自分だけ十歳で時が止まってしまったかのような千鶴の心には、次第に焦燥感が芽生えてきました。


 ――――『この先もずっと、この調子だったらどうしよう』と。


「急にどうしちゃったんだろう……。わたし、病気なのかな…………」


 彼女はその悩みを親友である飛鳥に打ち明けることにしました。


「こういうのって人それぞれだし、今はちょっとだけお休み中なのかもしれないよ」


 千鶴より少しだけ背の高くなった飛鳥は、そう言って不安がる彼女を励ましました。


 そして、少し考えてから、『どんな身長でも、千鶴ちゃんは千鶴ちゃんだしね』と付け加えました。


「そうかな……。ありがとう。でも、飛鳥ちゃんだって同じことで悩んでるかもしれないのに、無神経すぎた……よね…………」


「千鶴ちゃんが本当に無神経だったら、もっと早くに相談してたんじゃないかなあ。……そういうのも優しさなのかもしれないけど、遠慮しなくていいのに。私、いつも千鶴ちゃんに頼ってばっかりだから」


「飛鳥ちゃん……」


 飛鳥が身長のことを気にしている素振りを見せたことはありませんでしたが、実を言うと、彼女に話していいものかと何度も躊躇った末の決断だったので、千鶴は心底ほっとしました。


 やはり彼女も、自身の身長についてずっと悩んできたのでしょう。

 

 最後に付け加えられた言葉は、彼女自身が欲していたものなのかもしれません。


「一緒に身長伸ばす方法調べたり考えたりしようよ。きっと、ひとりよりふたりのほうが頑張れるし、いい方法も見つかると思うんだ!」


 よく知っているはずの親友が急に大人びて見えて、ますます取り残されてしまった感覚が強まった千鶴でしたが、嘘のない言葉に励まされたのも事実です。


 これからはなるべく気にしないように過ごそうと決意しました。


「…………うん! 本当にありがとう」


 睡眠を多めに確保するなど、出来る範囲の努力をしていれば、少しくらいは改善するだろうと――――淡い期待を抱きながら。

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