ウォーターワールドの最前列

木漏日

ウォーターワールドの最前列

昔からテーマパークがあまり好きではなかった。並ぶ時間が1時間は当たり前。2時間を超えることだってよくあるのに、始まってみればものの5分で終わるのが耐えられなかった。父が何度かUSJに連れて行ってくれたがいつも気乗りしなかった。


でも穴場で比較的空いている「ウォーターワールド」だけが唯一好きだった。公演時間が20分ほどあり長く楽しめた。けたたましい爆発音、水飛沫そして炎。役者の演技やアクションのクオリティが高くて、高い位置から水中に落下するスタントもあった。飛行機が着水するクライマックスは何回でも見たいと思えた。でも水被りエリアだけには絶対行きたくなかった。なぜそんなシートが存在していて、水を浴びたがる人たちがいるんだろうと思った。


先日、大学時代の友人と、お酒を飲める年齢になってから初めて福岡に行った。到着後は、天神の屋台を目掛けてホテルを出発した。福岡で飲むとなれば中洲のイメージが先行するが、中洲よりも天神の方が観光客が少ないと言う情報を聞きつけた。僕たちは何か想定外のハプニングが起きることをうっすらと期待していた。しかし天神も中洲に近いかなりの観光地なだけあって、ハプニングはおろか入ることもままならず、どこの屋台も満席だった。辺りをふらふらしていると、偶然にも人数分の席がちょうど空いたお店があったので、入れ替わりでそこに入ることにした。


そこは30半ばくらいのお兄さんが1人で大きな鍋を振る中華系のお店だった。僕たちはコの字カウンターの角に案内された。僕の席からは調理風景が最も見える位置でライブ感があった。店内はとても狭く、コンロの後ろに調味料がずらっと並んだ棚とキッチンスペースがあり、その下には、たらいに水がたっぷり入っていた。ワンオペなのでお兄さんはとても忙しそうだった。くるりと反転しながら左手で掴んだ塩コショウを振りチャーハンを炒めたかと思えば、火が燃え上がるフライパンに乗った手羽先を手でひっくり返していた。洗い物もかなり大胆で、たらいから手酌で掬った水をそのままフライパンの中に入れ、湯気が収まらない内に洗剤の染み込んだスポンジでさっと洗う。余りにもスピード感があり過ぎて、勢い余って僕の足元に水飛沫がかかった。しかしお兄さんは気付きもしない。でも何故か悪い心地がしなかった。お兄さんは少し手が空くと「どこから来たの?」「川沿いの屋台は1割増で取られるから行かない方がいいよ」「ラーメンは一双が美味いよ」と話してくれた。最後に記念写真も撮ってくれた。


あの時不思議に思った水被りエリアに好んで座る人たちの気持ちが少しだけ分かった気がした。ホテルに帰るタクシーの中でそんなことを考えていた。

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ウォーターワールドの最前列 木漏日 @kukisboak

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