後悔
あはんへんほん
まやかし
……ああ、ごめんよ。君は僕の理解者だ。いつだって僕の心をわかってくれている。君だけだよ、こんな僕にずっとついてきてくれるのはね。
だから、これからもずっと僕についてきてくれよな?
「い、いやだ。いやだ、いやだいやだ」
……そうだ。例えば僕の眼の前にいる少女が、今まさに死に瀕しているとしよう。これは大変不幸な事件だ。誰にだって想像がつくだろう? 少女には将来を約束した彼氏がいた。二人は幸福な日々を送り、幸せを育んできた。だが少女はもうじき死ぬ。これはきっと変えられない運命なのだ。
……本当に、そうだろうか?
「いやだ」
……少女には彼氏がいた。それは確かだ。
しかし、何故彼女でなければならないのか? 他にもっとふさわしい誰かがいるだろう? 彼女以外の誰かではいけないのか? 運命に抗うことはできないのだろうか? いや、そんなことはないはずだ。僕はこの不幸を幸福に変えることができるはずだ! ……ならばどうするかって? そんなのは簡単だ。彼女を生きながらえさせればいい。そうすれば彼女が死ぬ必要もなくなるのだ。そうだな。これを一つ目の奇跡としよう。
「いやだ」
……だから少女は今生きているのだ。そうだとも、何も間違ってなどいないさ。死んだはずの彼女が生きているんだ! そうさ、これが二つ目の奇跡だ。
ああ、なんという喜劇だろう。あまりにもできすぎていると思わないか? まるで誰かがお膳立てしたかのように何もかもがうまくいっているじゃあないか! 運命なんてものはそもそも存在しないんだ! 人の意志でいくらでも書き換えることができるのだから! ああ、僕は本当に嬉しいよ! 神様には本当に感謝しなくては!
「……はい」
ああ、嬉しいよ! やっとわかったんだ! 僕は神様の間違いを証明するために今まで頑張ってきたけれど、もう必要ないってことがわかったんだ! 僕はこの間違った世界を改革しなければならない。そのためには神様が間違っていると証明するだけではだめだ。実際にこの世界を生まれ変わらせなければならないのさ!
「はい」
さあ、僕のこの思いに賛同してくれる者よ! 共に戦おうではないか! 神様なんかに未来を委ねてはいけない! 世界は僕たち自身の手で変えていかなければならないのだ! 僕らの手で素晴らしい世界に作り替えていこうじゃないか!!
「はい」
ああ、嬉しいよ! 君のその気持ちが本当に嬉しいんだ!! ……ありがとう。君はなんて素晴らしい人なんだ。これからもずっと僕についてきてくれよな?
「はい」
……さて、そろそろ時間のようだね。僕は今から旅に出ることにするよ。君も一緒に来るかい? ああ、そうか、君は忙しいんだね。それじゃあまた会おうじゃないか! その日まで元気でな! じゃあまた会おうぜ!! やあ、今日もいい天気だな。一体今日はどこまで進めるかな? あ、そうだ! 君も一緒に行くかい? よしっ! それじゃあ出発しようか!!ははははははははは…
あ?なんだこの骨…?
「はは、あははははははは!!」
ああ、なるほどそういうことか! やっとわかったよ! 全部わかったんだ! 僕が何をすればいいのかをね!!
「なあ?そうだろう?はは…」
「おい637」
なんだなんだ? もう出てきたのか。少しくらい感傷に浸らせてくれてもいいじゃないか。まったく、君は本当に空気が読めない男だな。そんなんじゃ女にモテないぞ? もっと紳士的な態度を心掛けることだな。そしたら彼女もすぐにできるさ、保証するぜ!!
「……毎日壁に向かってうるせえよ」
ああ、ごめんごめん。それじゃあ行こうか! さて、そろそろ目的地に着いたかな? ん? おいおい……この道はなんなんだい? この先は行き止まりじゃないか。まさか君、道を間違えたんじゃあないだろうね? ああもう!! なんでこんなことになってしまったんだ!? ああ、神様!! 神様ああああああ!!!
「……今日でコイツともおさらばか」
ああああああ!!!
「うるさい死刑囚だ…」
ああああああいやだああああああ!!!!!!!!
後悔 あはんへんほん @kamisaka_san
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