霧島さんの日常
霧島さんの休日 其之一
私にとって魔法とは、例えばスマホのようなものであり、また例えばこの社会のインフラのようなものである。
翻訳もできるし電話じみたこともできるし、高速で遠くまで移動することもできるし水を出すこともできる。
仮に全人類が魔法を問題無く使うことができれば、この社会の様々な電子機器やインフラは不要となるだろう——まあ、悲しいことにこの世界の魔法少女の末路は私みたいな魔法醸女なのだが。
そういう訳で、酒代さえ払えばこの社会の殆どのインフラを魔法で代用することができる。
「……さて」
フリフリの服の上にパーカーとスキニーを纏い、旅行用の大きめなリュックを背負い、靴を履く。
目を閉じ、大きく息を吸い——
「まじかるぅ~! しゅんかんいどうするぅ~!」
演歌じみた呪文を唱え——るとほぼ同時に視界に映る世界が一瞬にして変わった。
無数の木と白銀の大地、場所は今回の目的地に近い——はず。初めての場所なので本当に目的地付近なのか分からないけど。
「うぅ……」
変わったのは景色だけで無い。ずっしりと襲い掛かってくる倦怠感から、纏った服の下の魔法少女服が消えたことが察せられる。
——やっぱり瞬間移動じゃエネルギーの消費が多い。
とはいえ今日明日と休日なので問題は無いし、こんな所に態々運動をしに来た訳でも無い。そして本来数万円、何時間も掛かて目的地へ行くところを、酒代の数千円を払うだけで一瞬にして行けるのだから、喜んで疲れたいところだ。
スマホの地図アプリを開いて方向を確認しつつ、目的地へと向かい——
「——着いた」
眼前に広がるは温泉街。河原とその上を通る大橋に、山の斜面に沿って並ぶホテル。
日本三名泉法とは、例えばスマホのようなものであり、また例えばこの社会のインフラのようなものである。
翻訳もできるし電話じみたこともできるし、高速で遠くまで移動することもできるし水を出すこともできる。
仮に全人類が魔法を問題無く使うことができれば、この社会の様々な電子機器やインフラは不要となるだろう——まあ、悲しいことにこの世界の魔法少女の末路は私みたいな魔法醸女なのだが。
そういう訳で、酒代さえ払えばこの社会の殆どのインフラを魔法で代用することができる。
「……さて」
フリフリの服の上にパーカーとスキニーを纏い、旅行用の大きめなリュックを背負い、靴を履く。
目を閉じ、大きく息を吸い——
「まじかるぅ~! しゅんかんいどうするぅ~!」
演歌じみた呪文を唱え——るとほぼ同時に視界に映る世界が一瞬にして変わった。
無数の木と白銀の大地、場所は今回の目的地に近い——はず。初めての場所なので本当に目的地付近なのか分からないけど。
「うぅ……」
変わったのは景色だけで無い。ずっしりと襲い掛かってくる倦怠感から、纏った服の下の魔法少女服が消えたことが察せられる。
——やっぱり瞬間移動じゃエネルギーの消費が多い。
とはいえ今日明日と休日なので問題は無いし、こんな所に態々運動をしに来た訳でも無い。そして本来数万円、何時間も掛かて目的地へ行くところを、酒代の数千円を払うだけで一瞬にして行けるのだから、喜んで疲れたいところだ。
スマホの地図アプリを開いて方向を確認しつつ、目的地へと向かい——
「——着いた」
眼前に広がるは温泉街。河原とその上を通る大橋に、山の斜面に沿って並ぶホテル。その傍らには民家に学校など、ありふれた日常が立ち並ぶ。
日本三名泉が一つ、下呂温泉である。
このように休日は魔法を使って温泉地に瞬間移動し、そこで色々食べたり温泉に入ったりして休んでいる。
早速駅のすぐ側にある街の大通りに足を踏み入れ——
——お!
まるで私を歓迎しているかのように、地酒の店が入ってすぐの所にあった。
私は旅行の際に事前に色々調べ、現地でやることや行く場所を決めるということはしない。言うなれば現地でノリと勢い、何となくでやることや行く場所を決めている——が、どこに行っても絶対に行く場所が一つだけある。
それが地酒の店だ。酒好きの性か、こういう店に行かずにはいられない。
店に入り、一通り酒瓶の並ぶ棚——特にそのラベルに注目して見て回る。なるべく値段や酒の説明が書かれた紙を目に入れないよう、意識をラベルに集中させる。
こういう店の酒には、例えば甘口か辛口か、アルコール度数はどのくらいか、といったような説明の載っている紙が値段とセットで掲示されている時がある。
私はそれを見ないようにしている。元々値段は気にしていないし、嫌いな味がある訳でも無い。偶然に選んだ酒がどのような味なのか——それを楽しんでいるのだ。
名前の響きが気に入った酒を三つ取り、レジに行って会計を済ませる。一つは魔法醸女に変身する用、もう一つは家で楽しむ用、そして最後の一つは今日の夜に呑む用だ。
会計を済ませるとすぐに店の外に出て、大橋を渡る。橋から続く大通りは山の斜面に沿って伸びており、幾つもの店が立ち並んでいるのが見える。
——そろそろご飯の時間かな。
朝早くから旅行先に行くと、やることが無さ過ぎて痛い目を見てきたこともあって、行く時間は昼前にしている。
スマホを手に取って時間を確認してみると、十二時——丁度昼食の時間だ。
——良い感じの店、探しますか。
ここにはどのような美味い料理があるのか——その期待を胸に、大橋を渡った。
魔法醸女りゝかる霧島 粟沿曼珠 @ManjuAwazoi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔法醸女りゝかる霧島の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます