第56話 癖が強い
休憩をしていると、扉にノック音がなる。アランが対応すると、そこには疲れ切った表情を浮かべている5人ほどの男性が立っていた。
アランが問いかけようとする前に、一人の男性がフローリアンを見つけて声をかける。
「酷いっすよ団長さん。村長さんへの挨拶を私たちに丸投げして、自分はアラン殿や皆さんと仲良くしているなんて」
フローリアンに苦情を言っているのは宮廷魔術師No.2であるデトレフであった。次期宮廷魔術師長に一番近い場所に居ると言われているが、平民出身であり高位貴族からは反対の声が上がっているが、それを実力と実績で黙らせている人物でもある。
本来なら宮廷魔術師長が来るはずだったのだが、ユーファによって王都に張った結界の魔力タンクにされており、代わりに派遣されている。そんなデトレフの疲れた顔を見て、フローリアンはやっと来たのかとの表情を浮かべながら答える。
「はっはっは。すまんのう。人生を全てを投げ出せる師を見つけたのだ。最初の目的とは変わってしまっておるが、そんな些細な事はいいだろう。デトレフ殿。村長への対応助かったぞ」
「いやいや。よくないっすよ! なんで自分だけ楽しそうにしてるんっすか。こちとら勇者様が村に来ているのを村長に黙ってもらうようにお願いするのに一苦労してたっすよ」
「一苦労? 村長に頼むだけならそれほど難しくもなかろう? 強行軍が
疲れた顔のままデトレフに、きょとんとした顔でフローリアンが軽く返す。その言葉を聞いた瞬間、デトレフが真顔になる。そして黙ってしまった。
「お、おい。マズいぞ」
「ああ、ちょっと外に出ていようか」
「おい! 置いてくなよ。俺も外に出るから!」
デトレフの様子を見た共の者達が慌てて入って来た扉から外へと飛び出していく。
いつも王城で見る光景が目の前で起こりそうだ。一斉に外へと出ていった者達に気づいたフローリアンが、さすがにマズイと思ったのか、慌てて言葉を探して言い訳を始める。
「い、いや。デトレフ殿。今のは儂が全面に悪かった。そんな簡単な話ではなかったな。ちょっと落ち着いてはどうかのう?」
「はっはっは。全面に悪いとのことですが、先ほどの発言を聞く限り、フローリアン殿はそう思っていたとのことでしょう。世界の英雄であるユーファ様が先ぶれも無しに村にやってきた。きっと何かあるのだろう。そう言えばアラン殿と勇者様が婚約されたと聞いた。その為の打ち合わせにこられたのだ。だが、せっかく勇者様が来られたのなら村を上げて盛大にお祝いをしないと。そうなりますよね」
「い、いや。まあ、そうなるだろうな」
「だが、ユーファ様とアラン殿は早急に王宮へと戻ってもらわなくてなりません。そう言った事情を伝えたうえで『お祝いは不要です。お気持ちは嬉しいのですが、どうか勇者さまが来られているのを内緒にしてほしい』そう伝え、お祝いは後日に改めてやって頂くことにしましょう。がっかりとされている村長さんへ説得が難しくないと? そして一人で身体強化をして先走った周りの事を考えない騎士団長が『鍛錬が足りない』ですって?」
「デトレフ殿。ちょっと落ち着こう。いつも喋り方が無くなっているぞ」
「私が落ち着いていないと? 至極落ち着いておりますとも。もちろん落ち着いておりますよ。この聞き分けのない、いつも迷惑をかけられる騎士団長へどのような説明をすれば理解してもらえるのか。それだけを考えておりますよ」
「ちょっと待て! お主がそうやって普通に話す時は――ぎゃー!」
真顔で近づいてくるデトレフに引き攣った笑いで後ずさるフローリアンだが、肩を掴まれると絶叫をする。
『ほう。珍しい属性の使い手のようじゃのぅ』
「そうですねー。デトレフさんは王国で数少ない雷属性の使い手なのですー。その力で宮廷魔術師No.2なのですー」
『懐かしいわい。昔の勇者が使っていた属性じゃのぅ。お主は使えんのか?』
「私には適性なかったみたいですー。聖剣を使えて魔王を倒せたのですから、別に問題ないですー」
「2人とも冷静すぎない!? フローリアンさんが焦げてるんだけど!?」
「あばばばばば」
ユーファとレーヴァがのんびりとお茶を飲みつつ会話をしている。そんな悠長な態度のにアランが思わずツッコむ。目の前では先ほどまで威厳があったフローリアンが騎士団長として出してはいけない悲鳴を上げている。そして無表情のまま大声で笑うデトレフ。
『おお、そろそろマズいじゃろぅ」
「そうですねー。前見た時より長いですねー。よっぽど怒っているんだと思いますー」
かなりカオスな状況であり、アランは本気で危機を覚える。そして覚悟を決めてデトレフへ話しかけた。
「デトレフさん!」
悲鳴すら上げなくなったフローリアン。身体がピクピクと動いているところを見ると、まだ息はあるようだ。いやいや。マジで危なそうなんだけど? そう思っているアランに、無表情のまま雷属性を発動させているデトレフがアランへ視線を向ける。
「何か?」
「ひっ! い、いえ。あのその。そろそろその辺で勘弁してあげては? 反省をされているようなので」
「ん? ああ。そうですね。いや、そうっすね。ここは王城じゃなかったすね。失礼しました、アラン殿。では、今日はこれくらいにしておくっす。団長さん。次からは発言に気を付けてくださいっす」
アランの言葉で我に返ったデトレフは、雷属性を止めると満面の笑みでフローリアンに告げるのだった。
道具と喋れるのは普通じゃないそうです。 うっちー(羽智 遊紀) @unasfine
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。道具と喋れるのは普通じゃないそうです。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます