掌の小説~不理解編~

吉太郎

第1話 不理解

 人間って生き物はね、意味を持たないものを許さないんです。この世のあらゆる事柄に起源があって、そこに存在する理由が有ると思い込んでる。

 でもね?むしろ世の中意味のない、理由の無いことのほうが多いんですよ。だから意味やら理由やら考えるだけ無駄なんです。辞めた方が良いですよ?


 僕の地元に、『幽霊屋敷』って呼ばれてた心霊スポットがあったんですよ。それは街の中心地から離れた山間の集落の更に奥。鬱蒼とした森に包まれるようにして有りました。

 僕と同郷で同じ大学に進んでいた・・・、仮にAとしますが、そいつが『幽霊屋敷』への肝試しを提案したんです。さすがに二人だけでは淋しいって事で、共通の友人B・Cも誘って四人で僕の車に乗って心霊スポットへと向かいました。

 駅前から2時間ほど駆けて幽霊屋敷がある山の麓まで来て、そこから二十分くらい坂道を歩いてようやくたどり着きました。でも幽霊屋敷を前にして、僕たちは最初「場所間違えたかな?」って思ったんです。

 新しすぎるんです、その家が。幽霊屋敷って言われるくらいだからかなり年季の入ったボロ家だと思ってたんですけど、どう見ても築4,5年くらいの真新しい一軒家なんですよ。家族向けの綺麗な一軒家が森の中にポツンと建っているんです。

僕「え、ホントにここ?」

B「いくら何でも新しすぎでしょ~。道間違えた?」

A「いや、そんなはずは・・・。やっぱり、心霊サイトとかみるとここになってるよ?『老婆の霊が出る』とか、『自殺者が後を絶たない』とか」

B「誰も住んでないみたいだけど、老婆が住んでたとは思えないほど綺麗だし、自殺者が出るような雰囲気も無いけど?」

C「・・・・ねえ、あれ」

 ここでCが声を上げ、指を指しました。その方向には幽霊屋敷の縁側に付けられた窓があります。僕たちは彼女が指さした方を見ました。

 縁側の窓から見える幽霊屋敷の中にはびっしりと御札が貼ってありました。傷1つ無いであろう白い壁にベタベタと、やけくそにでもなったかのように無造作かつ乱暴に貼られていました。

僕「なんで?」

 僕は口からそんな言葉を漏らしていました。「何あれ?」でも、ましてや「怖い」でもなく、「なんで?」。だって変じゃないですか。こんな森の中にこんな新しい家が建ってて、何の曰くも無いような家の中に御札が乱雑に貼られている。そもそも御札を『家の中』に貼るのっておかしくないですか?だって普通、家に悪い物が住み着いたとして、それを封じるために家の外壁とかに御札を貼るとか、もしくは外から悪い物が入ってこないように玄関に御札を貼ってるって言うなら分かるんですよ。でもこの家は『家の中』に御札を貼ってる。しかもかなりの枚数をこれでもかってくらいに。まるで家の中から何が何でも追い出したいモノが居るかのように。

 僕たちがその光景に唖然としていると、家の玄関がひとりでにすーっと開いたんです。そして薄暗い家の中からにゅっと何かが顔を出しました。

 老婆でした。気持の悪い、とても人とは思えない笑みを浮かべた着物姿の老婆が玄関のドアにしがみつきながら僕たちを見てるんです。あまりに恐ろしくて、僕たちは一歩も動けませんでした。

 老婆はそんな僕たちの様子を見て更に口角を上げると、


「ワタシは何者でしょーーーか?」


 まるで無邪気な子供の問いかけのように、老婆はそう言って満面の笑みを浮かべました。

 気づけば僕は、僕たちは、走り出してました。怖くて怖くて、体が強張って思うように動かなくて何度か途中転びそうになりながらも、なんとか麓に駐めていた車に飛び乗って全員乗っていることを確認してから一目散にその場から逃げました。

 車で山から離れて暫くして、Cが口を開きました。

「・・・・ねえ、あれは何だったの?」

 当時、誰も答えることはできませんでした。そもそも何かを話すような状況じゃ無くて、皆口を閉ざして何も喋ろうとはしませんでした。


 ・・・以上で話は終わりです。

 え?あれは結局何だったのか?

 ほら、悪い癖が出てますよ。すぐに意味を、起源を知りたがる。

 今となってもあれがなんなのかは分かりません。ネットには『老婆の霊』とか『自殺者が後を絶たない』とか書いてますが、どれも根拠がありませんし、そもそもあの家自体、いつ建てられて誰が住んでたのかさえ分かりません。

 でも、あの家を建てた人は恐らく僕たちと同じようなことをしたのかも知れません。

 その人は得体の知れないものに出会って、それに意味を、理由を付けようとした。起源を探ろうとした。でも分からなかった。だから

 

 ・・・理解ができないモノは怖いです。意味が分からないモノは恐ろしいです。でもだからと言って、無理に理解しようとするのは危険です。何故ならその得体の知れないモノは、理解しようと近づいた人間のみを狙うのですから。

 















AもBもCも、みーんなあそこで首を吊りました。

 

 

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掌の小説~不理解編~ 吉太郎 @kititarou

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