第5話 日々は過ぎ去って
その店ができてから、私の家では、花を買うときにはそのアライ池の花屋さんに行くようになった。
買うのは相変わらずたいていが「仏様に供える花」だったけれど、駅前の花屋さんに行くよりもアライ池のほうが近かったからだ。それに、たぶん、だけど、この店のほうが安かったのだろう。
小学校高学年のころになると、ハギワラさんは畑を作るのをやめてしまって花ももらえなくなった。
それに、そのころ、結婚式の引き出物としてけっこうりっぱなガラスの花瓶をもらった。色の違うガラスが複雑に入り混じったようなデザインだった。気取った家の玄関にも飾れるようなデザインだ。
それで、その花瓶に花を飾るということをふだんからするようになったのだと思う。
小学校高学年から中学校へと学年が上がるにつれて、私も学校行事や部活動で忙しくなった。家族の墓参りについて行くことも少なくなって、「暗い店」というイメージのあった花屋さんに行くこともなくなった。
私が大学生になって、帰省して墓参りに行き、その「暗い店」の花屋さんに行ったときには、もう「線香も売っていて、線香の火もつけてくれる」というサービスはやめていたと思う。
現在では、両親が「墓じまい」をしてしまったので、その「暗い店」の近くに行くこともなくなった。
アライ池の花屋さんをやっていたのは、まっ赤なシャツを着て白いズボンを穿いた若い女のひとだった。
もっともそのひとはただの店員さんかアルバイトのお姉さんだったかも知れない。それ以前に、私が覚え違いをしているかも知れない。
でも、ともかく、「暗い店」感のあった、それまで私が知っていた花屋さんの店員さんとはまったく違っていた。
やがて私が大学に通うために住むようになった街にはおしゃれな花屋さんが何軒もあった。いや、そのころになると、私が高校生まで暮らしていた街でも、ガラス張りのきれいな明るい花屋さんがたくさんできていた。「花屋さんというと暗い店」とはまったく逆の「花屋さんは明るくて色とりどりの店」というイメージが私のなかに定着した。
一軒家の店先にただ花を並べただけ、というアライ池の花屋さんは、むしろ、シンプルで、「野趣」のある店ということになった。
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