第26話
食事を終えるころには風呂が沸いたので宵歌に先に入ってもらい僕が後片付けをした。ソファに座ってぼんやりとしていると風呂場の方からシャワーの音と鼻歌が聞こえてきて「ああ、あのドアの向こうでは宵歌が裸になっているのだなぁ……」とぼんやり考えたりした。とはいえそれだけだ。覗こうと思ったりエロいとも思わない。だって家族同然に過ごしていた幼馴染だから。
「そういえば、宵歌が隠し事してるっていう話……結局聞けてないなぁ。もう明日でいいかなぁ」
時計を見ると20時を回っていた。
すると風呂場のドアがガチャリと開いて「りつーー……」と弱々しい声がする。
「こ、こっち見ないで話聞いて!」
「なんで? 上がったんじゃないの?」と振り返ろうとするとドアがバタンと閉じた。「た、タオル巻いてるだけだから……」
なるほど。
「シャンプー忘れたから……お部屋にあるから取ってきて欲しいの」
「ああ、そう」
と答えて振り返ると、ドアがバタンと閉まって「オレンジの透明な容器に入ってるやつだからね! 早くしてね!」と言う。それっきり沈黙してしまった。
「一緒に風呂に入ったこともあるだろ……水着を着ていたとはいえ、いまさら何を気にしてるんだか」
僕はため息をついて部屋に向かった。
宵歌が暮らすようになってからは僕の部屋だという感じはまったくしなくなった。家具の配置がちょっと変わっていたり、机の上に化粧用品があったりすると、女の子が使っているんだなぁという感じがする。僕が使っていたころよりも物が増えているのに収納スペースが無くて困っているように見えた。
「今度ラックか棚を見に行った方がいいか?」
女の子が暮らすにはやはり殺風景である。
問題のシャンプーは机の上に置いてあった。その隣には宵歌のスマホがあり、いかに彼女が無防備であるかが伺える。
「こんな目立つ所に置いて忘れるなよ……ていうかスマホをここに置くか?」
宵歌のおとぼけっぷりも困ったものだと思いながらもシャンプーを手に取る。するとそのタイミングでスマホが振動して誰かからのメッセージを受信した。
『りつ君に迷惑をかける前に帰ってきなさいよ。お父さんも心配しているから』
そんなメッセージであった。送信者は伯母である。さらにメッセージは続いて『来週には2人で様子を見に行くからね』
「………変なメッセージ。叔父が行けって言ったのではなかったのか?」
宵歌からも小海さんからもそう聞いていた。伯母の説明も同様だったはずだ。しかしこの文面からは宵歌が勝手に出てきたように読み取れるが……。
「ま、いいか。宵歌が湯冷めする前に届けてやろう」
僕は気にせずシャンプーを持って部屋を出た。
今は夏とはいえ湯冷めはするものである。風呂場に行くと案の定「へくちっ」とクシャミしているのが聞こえた。「おい、取って来たぞ」
「それをそこに置いていますぐ離れて! 見たらただじゃおかないからね!」
古いスパイ映画のようなことを言う。
「分かったから騒ぐなって……ここ、壁が厚いわけではないんだから」
「絶対に見ないでね!」
宵歌の要望どおりシャンプーを置いてキッチンに隠れた。「離れたぞー」と声をかけるとドアが開く音がして、「あーーー! 転がってったーーーー!」と、騒がしい。
見れば、シャンプーがキッチンの方まで転がってきたではないか。開いたドアがシャンプーに当たってしまったのだろう。おっちょこちょいなやつ。
これ以上騒がれたら隣人に迷惑がかかると思った僕は「取ってやるから待ってろ」と声をかけてシャンプーに手を伸ばす。のだが、シャンプーを掴んだ瞬間にパッと白い手が伸びてきた。
「えっ?」
「あ………」
キッチンの角の向こうにはタオルを手に持った宵歌の姿があった。
タオルを巻いているとはなんだったのか。ただ胸を隠すようにして持っているだけである。体の前面は真っ白いバスタオルに隠れているけれど背中側はさらけだされている。しゃがんだ姿勢のためかお尻から太ももにかけての曲線が大福のように柔らかそうな弧を張り、電灯の光に照らされた肌にドキッとしてしまった。
「あわ、あわわわわわわわわ………」
「あー、悪い………別に見ようと思ってみたわけじゃ………」
「わぁーーーーん! りつのエッチーーーーーーーー!」
ぴゅーんと風呂場に逃げる宵歌。
タオルで隠していないせいで小さなお尻が丸見えであった。
「……………なぜ巻いてないんだ」
あとで聞けば、バスタオルが小さくて巻けなかったそうだ。
胸囲が大きいのも困ったものである。
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