たいせつな命

陽麻

たいせつな命

 一月一日。

 今年のその日は、姪たちがうちへ遊びに来ていた。

 姪たちの家では、家族が一頭ふえて、パグのサンくんが加わった。

 ちょっとぶさいくにもみえるけど、愛嬌があって言うことをよく聞くカワイイ犬だ。


 私は犬をかったことがないので犬の可愛さが良く判らない。

 サンくんはみんながお寿司をたべている間、ケージの中に入って大人しくしていた。


 姪たちはサンくん、退屈してないかな、と常にサンくんを気遣っていた。


 サンくんが姪たちの家族になってから、三年くらいがたっている。

 姪がぽつりと言った。


「サンくん、もう人間でいうと二十歳くらいなんだって」


 私は、姪がどうして急にそんなことを言い出したのか、そのときはいまいち理解できなかった。

 でも、その次で理解した。


「サンくんがいなくなったら、どこかで私たちのことを見ててくれるかな」


 姪のことばにハッとした。

 人間と犬との寿命の違い。

 姪たちは、可愛がって世話をしているサンくんが、いつか、そんなに遠くない未来で別れなければならないことが、不安なのだと伝わってきた。

 わたしは、すぐに返事をかえした。


「きっとサンくんは見守っていてくれるよ」


 他に何がいえようか。


 そんな話をしたあと、わたしと姪たちは二階の私の部屋で工作をしていた。

 すると、あの地震が襲ってきたのだ。


 凄い揺れだった。


 姪の一人は私のとなりにすぐに寄り添ってきたが、もう一人の姪は「サンくんをみてくる!」と言って、階下へ降りて行った。サンくんが見守ってくれるかなと言っていた方の姪だ。


 地震のなか一人で階下へ行かせてはいけない、と思って隣にいるもう一人の姪と階下へと向かった。


 姪はサン君を大事そうに抱いていた。


 本当に大事な家族なのだな、とわたしは感心した。


 その後、姪たちはサンくんをずっと抱いて、地震関係のニュースをみていた。


 地震があったので外出していたパパとママからメールがとどいたようで、帰る用意をして、すぐに家へと帰って行った。


 サンくんは姪たちに抱かれて、眠くなってしまったようで、寝ていた。


 姪たちは、サンくんとの別れを覚悟しながら、一緒にいるのだなと思った。

 サンくんの生涯を愛し、自分の生涯のなかでも家族としてサンくんを愛した記憶が刻まれるのだろう。


 死別が怖くて、わたしには耐えられそうもない覚悟だ。

 まだ子供と言っていい歳なのに、その覚悟をもっているということが尊い。


 姪が小さかったときは、私にむけられた純粋なまなざしと、抱き上げたときの体温のぬくもりを感じた事。

 少し大きくなって、無償の愛を私にむけてくれたこと。

 もう少し大きくなって、そんなこと知らないよ、とツンデレっぽくなっても、地震の際には私をたよってすぐに隣にとんできたこと。


 すべてがあたたかい。


 そういうことをひっくるめて、サンくんのことも含め、姪たちには、本当に色んなことを学ばさせてもらっている。




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たいせつな命 陽麻 @urutoramarin

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