第9話 別れ

 あの日の数日後、絃葉も後を追うように息を引き取った。紬葵さんの身体に傷をつけてしまったことを絃葉のご両親に言うと案の定怒られたが、説明すると渋々ながらも許してくれた。二人の葬儀に参列し、生前絃葉の言った言葉を思い出す。

 

『これで、紬葵お姉ちゃんは自由になれたかな』

 

 それは、白菊には分からない。天国に行った絃葉が確認してくれると、助かるな。なんて、我儘が過ぎるか。


 葬儀が終わり、白菊は花束を購入してある場所へと向かった。針金のフェンスに囲まれた地方の墓地だ。

コンクリートで舗装された道からいくつにも伸びる細い道。そこにずらりと並ぶ墓石に彫り込まれた名前と手元にあるメモを頼りに目的のものを探す。少しばかりメモと墓石を交互に見ていると、目的の場所へとたどり着いた。


 細い道を辿り、あるひとつの墓石の前に立つ。その墓石には、『一ノ瀬』と彫られている。その下に小さく『夏鈴』と名前が書かれていた。間違いない、ここだ。


 花を供える場所に、汲んできた水を入れた後に花を挿す。持ってきた線香に火をつけ、消す。線香を指定の場所へ供え、手を合わせる。慣れた動作を手際よくこなす。


 あいつが願ったことが正しいことなのかは、俺には分からない。人の命を無下にしていると言う人もいるだろう。しかし、俺にあいつを止める権利はない。その願いを叶える能力が俺にはあっただけだった。これであいつが幸せなら、俺はそれでいい。


 ――人の死とは、儚く、無常で涙が伴うものだろう。しかし、人はその涙や亡き人の想いを糧にして前を向ける生き物だ。その連鎖を、怨霊はいとも簡単に汚く狂わせる。あの虚無感を、絶望を。もう誰一人感じさせない為に。白菊は、今日も葬儀屋を営む。

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葬儀屋の亡失 七星 瑞花 @sunoa_shosetu

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