第38話 ねこねこ爛漫☆クリスマス!!
「それじゃあ!ヌー子ちゃんが戻ってきた事を祝して! 行くわよっ、メリー──」
「「「クリスマース!!」」」
会長の音頭に合わせて、みんな手元のグラスわ掲げ乾杯をした。
あれからすぐ葉月と喜一にも連絡し、急遽クリスマスパーティーをやる事になったと言ったらノリノリで来てくれた。
特に葉月はいつもに増して機嫌が良さそうだ。
部屋中にクリスマスらしい飾り付けが施されており、いつのまにか運び込まれていたクリスマスツリーの電飾が煌めいている。
そしてテーブルの上には、五階堂のシェフが用意したらしいローストチキンやシーザーサラダなど様々な料理が並んでいて実に美味そうだ。
「いやー、とりあえず一件落着したみたいで何よりだよ」
喜一がいつものスカした笑みを浮かべながら言った。
「かなりギリギリだったけどな。本当みんなには感謝してるよ。ほら、ヌー子も礼くらい言っとけ」
「褒めて使わすにゃ〜」
「なんで上からなんだよ」
美味しそうに肉にツナ缶を頬張るヌー子。
てかこんな豪華な食事があるのにも関わらずツナ缶かよ。勿体無い奴。
「あはは、まぁヌー子ちゃんがいなかったらそもそもヴァイスに全員やられてたかも知れないんだし、いいんじゃ無い?」
葉月はヌー子に対して甘くなる節があるな。
別にいいけど。
「そういえばイヴさん、ケガの具合は大丈夫ですか?」
イヴさんはヌー子との戦闘で右足を怪我していたはずだ。
「ええ、問題ありません。それよりも……」
イヴさんは俺の横に擦り寄ってくると、そのまま頭をもたげ、俺の胸に預けた。
「イヴさん!?」
視界の端で葉月がジュースを吹き出すのが見えた。
本能が叫ぶ! これは、面倒くさい事になるパターン!
「私頑張ったんですよ〜? もっと褒めてくれたっていいジャマイカ〜?」
「えっ!? 本当にどうしちゃったんですか!?」
いつもの様子とはあまりにも違いすぎるイヴさんに戸惑う俺を、会長が愉快そうな顔でこちらを見ていた。
明らかに何か知ってそうだ。
よく見ると、イヴさんの頬が蒸気したみたく赤くなっていて、目尻がトロンとしていた。
これはまるで、お酒に酔っているような……ってまさか!
「お酒じゃないわよ?」
確認する前に否定された。
「じゃあどうして……」
すると会長は、懐から怪しげな小瓶を取り出した。
「まさか媚薬!?」
食い気味に葉月が反応した。
何で興味津々なんだよ。
「またたびエキスよ。これをジュースに混ぜてみたの」
「なんて事を!」
「時々あげてるのよ? いつもより少し多めに入れちゃってみた!」
てへっ☆っと自分で頭を小突くぶりっ子ムーブをする会長。正直可愛い。
そう思っている間にも、イブさんはすりすりと頭を擦りつけてくる。
「トム様〜。撫でて撫でて〜」
仕方ないのでそっと頭に手を乗せると、イブさんは気持ちよさそうに笑った。
シラフに戻ったとき死にたくなるんじゃないかと心配になる。
──ピキッ。
ん? なんだ?
音のした方を見ると、ヒビの入ったグラスを持った葉月が引き攣った笑顔でこちらを見ていた。
そして俺の表情も引き攣ってしまう。
「あなたも大変ね」
ネリアが静かにお茶を飲みながら言った。
その奥ではヌー子が眼鏡幼女のローストチキンを奪って追いかけっこを始めていた。
「約束の事、忘れてないでしょうね?」
「もちろんだ」
ヌー子の一件で協力してもらう代わりに、俺は自分の全てをネリアに差し出した。生殺与奪の権すらも。
「いつでもあなたを殺せるんだからねっ。それまではちゃんと私の命令には従うのよ!」
「わかってるよ」
ネリアが横目でチラチラとみてくる。
まだ何か言いたいのだろうか。
「ちゃんと感謝してる!?」
「してるよ。本当にありがとう」
ネリア達がいなかったら、ヌー子は帰って来れなかっただろう。
再度礼を言うも、ネリアはまだどこか不満そうだ。
「ならっ、態度で示しなさいよね!」
「?」
何を言いたいのかさっぱりわからん。
その時、いきなり俺の肩から眼鏡幼女が顔をだした。
どうやら無事ヌー子からローストチキンを取り返したらしい。
「ニブイ男でチュね〜。自分の手元を見てみるでチュ」
「手元……?」
視線を落とす。
当然そこには、膝枕状態のイブさんと、その頭を撫でる左手……え? そういう事?
「……マジ?」
「なによその目は」
え? 撫でるの? 俺が? ネリアを?
くっ……流石は面倒な女2024冬! とてもシラフとは思えないぜ!
「じゃあ……」
ネリアに手を伸ばそうとした時、心臓が跳ねたのを感じた。
何緊張してんだ俺は……。
ネズミ星人とはいえ、女の子の頭を撫でるなんてプレイボーイな真似、俺にはハードルが高すぎた。イブさんは酔ってるからノーカン扱いだ。
ネリアは軽く俯いたまま動かない。
眼鏡幼女の言う通りみたいだ。
もういい、さらっと撫でて終わらせよう。
割り切ってネリアの頭に手を伸ばす。
「はい、そこまで」
俺の手がネリアの頭に触れる寸前、いつの間にか近くにいた葉月に手首を掴まれた。
「ネリアさんも、嫌な事は嫌って言った方がいいですよ?」
「そ、そうね! もっと私を敬いなさいって言いたかったのよ!」
うそつけや! 満更でもなさそうだっただろ!
「アルゴ! 歌いなさい!」
「えっ!?」
急に無茶振りされたアルゴに会長からマイクが投げ渡された。
「……ったく仕方ねーな」
動揺しつつも、立ち上がり息を整えるアルゴ。こういうのには慣れているのだろうか。
お前も大変だな……。
「それじゃ失礼して────こほん」
筋肉モリモリの強面から出てるとは思えない美声で讃美歌アメイジンググレイスを歌い始めるアルゴ。
そのあまりの上手さに全員が聞き入っていた。
「……ありがとうございました」
歌唱を終えたアルゴに、「おー」というリアクションと拍手が送られる。
「美味すぎるだろ……」
「そうでもねぇよ、フッ」
得意げな顔をするアルゴに会長が言い放つ。
「75点!」
「なんで!?」
「確かにうまいけど魂を感じなかったわ! 歌は心で歌うものよ。じゃなきゃ本当に人を感動させることなんてできないわ」
「くっ……!」
会長の言葉が効いたのか、アルゴは悔しそうに俯いた。
「大丈夫、まだまだこれからよ! 頑張りなさい!」
そう言いながらアルゴの背中をポンポンと叩く。
どこ目線だよ……。
「にゃー! 雪だにゃ!」
庭の方からヌー子の声が聞こえた。
行ってみると、確かに白い雪がしんしんと街に降り注いでいた。
「アルゴの歌には雪を降らす力があるのよ」
「マジで!?」
「嘘よ」
「無駄に騙すな!」
ネリアが愉快そうに鼻を鳴らした。彼女なりのジョークのつもりだったのだろうか。
「ホワイトクリスマスだな」
そう言った俺に、ヌー子がこちらを向いて呟いた。
「ご主人、ありがとうにゃ」
「なんだよ改まって」
ヌー子はニッと笑い、そっと俺の手を握った。
「これでまた、一緒にいられるにゃ」
「……そうだな」
降りしきる雪が、まるで俺達を祝福してくれているかのようにキラキラと輝いて見えた。
サンタクロースも粋な事をするものだ。
ついでにPS5もくれないだろうか、とか願ってみる。
「くしゅんっ!!」
ヌー子が大きなくしゃみをして、体を震わせた。
外にいるには寒すぎる格好だ。
その時、丁度リビングから葉月が俺たちを呼ぶ声が聞こえた。
「みんなで写真撮るから集まって!」
俺とヌー子は顔を見合わせて笑い合うと、手を繋いだまま家の中へ戻っていく。
もう二度と、この手を離さないと、心の中で誓いながら────。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
この話を持ちまして、一旦ヌー子達の物語は幕を下ろします。
本作を読んでくださった皆様の人生に、一つでも笑顔を増やす事が出来たのなら幸いです。
反響があれば続きを書きたい思います。
それではまた会いましょう。アデゥー☆
ねこねこ爛漫☆パンチング!! 反宮 @mayo9029
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