第37話 大☆団☆円!
ネリアとヌー子のタイマンが始まった。
お互いに目にも留まらぬスピードで縦横無尽に駆け巡り攻撃を繰り出している。
ネリアの腕の装備からはビームが打ち出され、足からも小型ミサイルが無数に放たれる。
そこで一つの疑問が浮かんだ。
「いくら装備が充実しているって言っても、ネリアの運動神経であんな動き可能なのか?」
こういう時は眼鏡幼女に聞くに限る。
眼鏡をクイっと持ち上げ得意げに答えてくれた。
「ネリアーマーには非常に高性能な自動アシストAIが搭載されてるでチュ。ネリア様の動きを瞬時に修正して常に理想的な動作に変換するでチュ」
なんて便利な機能なんだ。
ネリアーマー、恐るべし……。
でもそれって……,
「ぶっちゃけ誰が装備しても最強になれるでチュ」
「おい! あえて突っ込まないでおいたのに! そんな事言ったらネリアが使う意味が無いみたいだろ!」
「正直無いでチュ」
それじゃあ武器の力でイキっちゃってる典型的小悪党みたいである。
「うわっ!?」
俺と眼鏡幼女の間に、ネリアのビームが飛んできた。
「なんか言ったかしら?(暗黒微笑)」
「なんでもないです」
「なんでもないでチュ」
やべぇ聞こえてた。
「……けど、実はネリアーマーはまだ試作の段階でチュ。長くはもたないでチュよ」
「マジか……」
となるとこのままではジリ貧だ。
どうするつもりかと思った時、ネリアが大きく距離を取り、空中でヌー子に向かって両腕を合わせた。
銃口の先に大きなエネルギーの塊が現れ、先ほどまでより明らかに高火力のビームが打ち出された。
「堕ちろーーーーッ!!!!!!」
「にゃあああああっ!!!!!!」
ヌー子はオーラを固めた拳でビームを正面から受け止めた。
高エネルギーがぶつかり合い、衝撃と閃光が広がる。
「やったか!? でチュ」
「ばかやろお前っ! それ言っちゃダメな奴!」
森羅万象を司るこの世の摂理──フラグって概念を今度みっちり教えてあげようと思った。
砂煙が晴れ、ネリアが俺達の前に着地した。
「今のでかなりエネルギーを使ったわ。もうすぐガス欠よ」
問題のヌー子はと言うと、ボロボロになりながらも、瓦礫の上に立っていた。
「……ちっ、ダメか」
「まずいでチュ。もう本当に打つ手がないでチュっ!」
くそっ、どうするどうするどうするどうするっ! このままじゃ終わっちまうっ!
不意にヌー子がよろめいた。
かなり消耗しているように見える。だが……。
俺が動き出せずに逡巡としていると、
「小僧おおおぉぉおおおおっ!!!!」
アルゴの猛獣のような雄叫びが響き渡った。
ヌー子を羽交い締めにして押さえている。
俺は当たって砕ける覚悟で走り出す。
「にゃあああああ!!」
ヌー子も力を振り絞ってアルゴを振り解こうとしている。
間に合え……っ!
「トム様っ!」
イヴさんがオーラを纏ったヌー子の右腕を押さえつけた。
そして暴れる足をネリアが、全員でヌー子を拘束する。
「決めろおおおおーーーーっ!!!!!!」
「サンキューゥゥアルゴォォオオオオッ!!!!」
──しゅるっ。
俺はヌー子に首輪をはめると、すかさず両手で頭を支えながらキスをした。
唇に当たる柔らかな感触と、ほんのりと甘酸っぱい味を感じながら祈る。
頼む、うまくいってくれ……っ!
「──ぷはっ」
ヌー子から唇を離す。
ヌー子の体から力が抜けるのが分かった。
アルゴ達ははヌー子から離れ、避難の準備をする。これでだめならもはやヌー子と戦う意味などないのだ。
ヌー子から放たれていたオーラが収縮していく。
「これは……」
ヌー子が意識を失ったかのように倒れ込むのを、俺は咄嗟に抱き抱えた。
「ヌー子っ! おいヌー子っ!」
まさか、時間切れ? すでに生命エネルギーを使い切っていたのか!?
頼むっ! 目を開けてくれ!
俺は何度もヌー子をゆすっては呼びかける。
「ヌー子っ……目を覚ましてくれよっ……、そんでまたみんなで雪合戦でもしようぜっ、もっとおしゃれな服も買ってやるからっ……、まだまだ遊び足りないだろっ? だからっ……だからっ……!」
俺の目から落ちた雫が、ヌー子の頬を伝って降りてゆく。
「トム……」
すぐ後ろから、会長の声が聞こえた。
「ずっと……そばにいてくれよっ……! ヌー子…………」
誰もが、言葉を失っていた。
静かに時間だけが過ぎていく。
「……っ!」
何かを言おうとした会長が驚いたように息を漏らした。
そして静寂を破ったのは、聞き馴染みのある舌ったらずで幼い声音。俺が一番聞きたかった声。
「……なに泣いてるんだにゃ。まったく、情け無いご主人だにゃあ」
「ヌー子っ!!」
その場の全員が、一斉に笑顔を浮かべ安堵していた。
「心配させやがって……このやろう……このやろう……っ!」
俺はヌー子を力いっぱい抱きしめた。
「だから泣くなにゃ〜。ご主人は笑ってる方が似合うにゃ」
「同意っ!」
何故か会長が元気よく言った。
「お嬢様、こんな時くらい空気読みましょうよ……」
「これが私流の空気の読み方よっ!」
パチンッ、と会長が指を鳴らした瞬間、外から笛を吹くような音がしたかと思うと、次の瞬間、上空に光の玉が打ち上がり大輪が咲き誇った。
「大勝利! てねっ!」
色とりどりの光が俺たちを照らす。
こんなもの、いつのまに準備していたんだ……。
「会長って、やっぱり粋ですよね」
「当然よ! なんてったって私はあの五階堂シトリンよ?」
どの五階堂シトリンかは分からないが、とにかく凄いという事で納得しておく。
俺はヌー子に向き直り、言った。
「──おかえり、ヌー子」
ヌー子は一瞬キョトンとした表情をしたかと思うと、すぐに満面の笑みを浮かべた。
なんだよ、お前だって人のこと言えないじゃねーか。
「……ただいま、にゃ!」
そう言ったヌー子の瞳からは、一筋の涙が伝っていた──。
…………。
「……とゆー事で大団円なんだけれども!」
いい感じに最終回っぽい空気は、会長の一言で瓦解した。
「お嬢様。今の流れは完全に終了のソレでしたよ。アニメならエンドロールが流れて来て、オープニング曲がエンディングに流れるパターンの終わり方でしたよ」
「細かい事はいいの! それより今日が何の日か分かるかしら?」
「えっと、12月25日……あ」
「そう! クリスマス! 打ち上げを兼ねてやるわよクリパァ!」
「どこでやるんですか?」
「トム家に決まってるじゃない?」
「いやなんの準備もしてないですよ!」
「安心して。こっちでしといたから」
言うと思ったわ。
異様に準備いいからなこの人。
すると、イヴさんがそっと近づいて耳うちしてきた。
「トム様……どうか乗ってあげて下さい。きっとトム様のご自宅にお邪魔してみたいだけですから。この前温泉に行った時、皆様でお勉強会してたでしょう? それが羨ましかったんだと思います」
ずいぶんご主人様への理解が深い事で。
と言うか耳に息が当たってきてくすぐったい。
最後にイヴさんは俺の耳に意味もなくふーっと息を吹きかけてきた。
「──っ!」
咄嗟に耳を離すと、イヴさんがイタズラな笑みを浮かべていた。
何なんだ一体……イヴさんが人をからかうなんて珍しい。みんな緊張から解き放たれてハイになってんのか?
かく言う俺も、人の事は言えないみたいだ。
「そうだな。せっかくだし派手にやるか!」
「Yeah! パーリナイッ!」
会長はご機嫌に両手をあげて喜んでいた。
「じゃあもう要は済んだし、私たちは帰るわ」
そんな様子を見て、ずっと黙っていたネリアが口を開いた。
「ああ、助かった」
…………。
「…………ほんとに帰るわよ!?」
と言いつつなかなか動こうとしないネリア。
アルゴと眼鏡幼女が、ネリアの背後から俺に目配せしてくる。
分かってるっつーの。最初からそのつもりだ。
「お前達も来るか?」
「嫌よ! どうして私がっ」
めんっっどくせーー!!
めんどくさい女2024冬だよ! 受賞おめでとう!
アルゴ達も呆れているようだ。
「感謝の意味も込めてって事で、な? 来てくれないか?」
「まっ、そこまで言うなら仕方ないわねっ。行ってあげる♪」
口角が上がっている事に気づいていないのだろうか。露骨にご機嫌である。
ま、いっか。
みんな無事で、ヌー子も戻ってきた。
今なら大抵の事は許せそうだ。
俺は寒空の舌大きく息を吐いて、星を見上げた。。
母さん、これでいいだろ? 大切なもの、守れたんだ。少しは葉月の言うヒーローって奴に近づけたかな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます