第36話 ネリアーマー!


「……いたわね」


 俺たちは最後にヴァイスと戦った場所に再び訪れていた。無論、ヌー子に会う為だ。

 会長の話では最近になってこの場所に戻って来たらしい。

 まるで見つけて欲しいとでも言っているようだ。

 瓦礫の上に座り込むヌー子を見つけて、一安心を得た。

 よかった。まだ生きている。

 この場に来ているのは俺、会長、イヴさん、ネリア、アルゴ、眼鏡幼女の6人。

 ネリア云く、他の小鼠達は危険性を鑑みてアジトにおいて来たらしい。


「それで、作戦は?」


 隣から顔を出したネリアが言った。


「プランNで行く」


「何よそれ? 聞いて無いんだけど」


「………………即興」


「ノープランのN!?」


「仕方ないだろっ。作戦立ててる時間なんて無かったんだからっ」


「まっ、小細工が通じる相手でも無いしね」


 会長の言う通り。今のヌー子にはヴァイスでも敵わなかったのだ。多少策を弄した所で無駄だろう。

 だから実際に現場に来てから考えるのが良いと思ったのだ!(正当化)

 ネリアは困ったように顔をしかめた。

 

「ライブ感でどうにかなる相手じゃないでしょうに……」


「うるせー。ネリアのくせに真っ当な事言うな!」


「ちょっといま凄い失礼な事言わなかった!?」


「?」


「なに『よくわかんない』みたいな顔してるのよ腹立つわね」


「お二人とも、いつの間にそんな仲良くなったのですか?」


 イヴさんからの思わぬ問いかけに、ネリアの顔が赤くなった。


「仲良くなんて無いわよ! 変な事言わないで!」


「まったくです。仲良いどころか付き合ってるんですから」


 俺はネリアに胸ぐらを掴まれ凄まれる。


「殺すわよっ?」


「ははっ、サーセーン」


 イヴさんは一瞬微笑むが、すぐに真剣な面持ちになって口を開く。


「私とネリア様達でなんとかヌー子様を押さえます。トム様はその隙に首輪をつけてキスを」


「はい」


「チャンスは一回、タイミングは一瞬かも知れません。見逃さぬよう」


 イヴさんの言う通り、仮にヌー子を拘束できたとしても、完全に制圧できなければ長くは持たないだろう。

 ワンチャンス、あるかないかの命賭けの大博打だ。


「それじゃ、行くわよ!」


 会長が増幅を使いイヴさんからオーラが滲み出る。


「おっぱじめるとするか〜」


 ポキポキと指をならすアルゴ。

 これ以上無いくらいの闘志を感じる。


「あの猫のオーラ、暴走したての時より弱まっている気がするでチュ。勝機はあるでチュよ」


 眼鏡幼女に言われて気づいた。確かに、ここ数日エネルギーを放出し続けていたせいか、ヌー子からあの時ほどの迫力は感じない。

 逆に言えば、それだけタイムリミットも近いと言う事だ。

 ──ガシャリ。


「装填完了。いつでもいいわ」


 ネリアがライフル銃をブローバックしていた。


「おい! お前それ大丈夫なのか!? ヌー子を撃つつもりじゃないだろうな!?」


「平気よ。捕獲用の特別製だから。信じなさい」

 

「それでは、私は右から回り込みます。そちらはご自由に」


 シンプルな指示にネリア達が頷く。まぁネズミ星人とうまく連携がとれるとも思えないし、ある意味これがベストなのかも知れない。

 イヴさんがヌー子の側面に回り込み注意を引きつける。

 いかにイヴさんでも正面からやり合うのは分が悪い。一定の距離を保ちながらヌー子と睨み合う。

 次の瞬間、ヌー子を網状の縄が包み込んだ。


「よしっ」


 銃を構えたネリアがガッツポーズをとっている。あの銃は捕縛ネットを打ち出すものだったのか。


「今だ!」


 ネットにかかるヌー子につかさずイヴさんとアルゴが飛びかかりに行く。

 俺はいつでもいけるように首輪を握りしめながら前のめりになる。

 しかし、ヌー子は爆発なオーラを放ってネットを吹き飛ばし、イヴさんも後方へ非難した。

 やはり、そう簡単には行かないようだ。


「つれねぇじゃねーか」


「アルゴ!」


 アルゴは睨みつけるヌー子に臆する事なく近づいていき、ファイティングポーズをとった。

 ヌー子の方からアルゴに飛びかかった。

 次々に襲いくる攻撃をアルゴは紙一重で交わして行く。

 そのうち、連打の合間を縫ってボディを放つが、ヌー子は反撃の気配を察したのか大きく飛びずさる。


「すげぇ! ヌー子と対等以上に戦ってる!」


「日々の鍛錬の賜物でチュ。前より格段に強くなってるはずでチュ。なんだかんだ天才でチュからね」


 以前アルゴとヌー子が戦った時とはまるで逆である。


「実際はパワーもスピードもあの猫の方が上なのは確かでチュ。善戦できているのは、猫が理性を失って攻撃が単調になっているからでチュ」


「なるほど……」


 眼鏡幼女の的確な解説に納得した。

 確かに前にアルゴと戦った時、ヌー子はもっとテクニカルな動き方をしていた。

 ありがとう眼鏡幼女。やっぱ君必要だわ。


「でも、このまま押し切るのは難しいでチュ。火力にモノを言わされたらどうしようもないでチュからね……」


 なんとか上手い事拘束できればいいのだが……。


「アルゴ様、ナイスですっ」


 イヴさんがヌー子の背後をとってはがいじめにした。


「ネリア様!」


「分かってるわ!」


 ネリアの銃から打ち出された捕縛ネットがイヴさんごとヌー子を捉えた。


 ──今だ!


 俺はその場を駆け出し一直線にヌー子の元へ走り寄る。

 だが、ヌー子の右手にオーラが集まるのを見て立ち止まった。


「イヴさん! 離れて下さい!」


 と言ってもヌー子と一緒にネットに包まれていては難しい。

 まずい、あのスーパーナントカスマッシュがくるっ。

 ヌー子は羽交い締めにされたままもがき続け、ついにイヴさんがバランスを崩したところで地面に拳を叩きつけた。

 

「うおあ!!」


 衝撃で床が抜け、下の階へと崩れ落ちる。


 ──死ぬっ!


 足元が崩れて落下しそうになったが、眼鏡幼女に体を引かれ、なんとか瓦礫に埋もれずに済んだ。


「ありがとう! 助かった!」


「どういたしましてでチュ。それにしてもとんでもない奴でチュね」


「にゃーーーああお!!!!」


 自由になったヌー子が天に吠えた。

 

「イヴ!」


 会長もアルゴによって崩落から免れたようで、横たわるイヴさんの元へ駆け寄っていく。


「すいませんお嬢様……」


「たてる?」


「はい、なんとか……っ!」


 立ちあがろうとしてバランスを崩すイヴさんを、会長が支えた。


「どうやら、左足を痛めたみたいです……」


 会長はイヴさんに肩を貸し、ヌー子から離れ非難する。

 まずい。イヴさんが戦闘不能とあってはますます勝機が薄れてしまう。

 どうする……って、そういえばネリアはどうした?


「まさかあいつ、逃げたんじゃ……」


「──誰が逃げたですって?」


 どこかから、ネリアの声がこだました。

 すると上空から、謎の飛行物体が俺たちの前に降りてきた。

 それは、全身に機械武装を施したネリアだった。


「これぞ我らが技術の結晶! 私専用の対猫用パワードスーツ、ネリアーマー!」


「絶妙にダセェ!」


 正直モノはかっこいいんだが、もっとネーミングなんとかならなかったのか。


「本当はあまり見せたく無かったのだけれど、そうも行かなそうだしね」


 敵に手の内を明かすようなものだと言いたいのだろう。本来は俺たちニャクラメントに対抗するために作られたリーサルウェポンのはず。それを今、ヌー子を救う為に使ってくれようと言うのだ。感謝しておこう。

 ネリアはヌー子へと向き直ると、自信満々に言った。


「あんた達はそこでジッとしてなさい! 私の本当の力、見せてあげるわ!」

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