イジワルな神様

@d-van69

イジワルな神様

 布団の中で目が覚めた。そろそろ母が起こしに来るはずだ。

 3……2……1……

「ヨウコ、いつまで寝てるの。遅刻するわよ」

「はぁい」

「さっさと起きて朝ごはん食べなさい」

 母は苛立たしげに言い残し、階段を下りていった。

 一階に行くと父はすでに出勤した後だった。母だけがテーブルについている。彼女の視線はテレビに向けられていた。朝の情報番組だ。

 ちょうど占いのコーナーが始まったところだけど、結果は見なくても分かる。今日の最下位は射手座のあなた。

「あらやだ。12位ですって」

 言ってから射手座の母は私へ視線を振り向けた。

「どうしたの、そんなところに突っ立って。はやく食べなさい。電車乗り遅れるわよ」

「大丈夫よ」

 どこかのバカが鉄道会社に爆破予告の電話をするせいで、電車は大幅に遅れるのだ。もちろんそれはいたずらなのだけど、通勤ラッシュ時のダイヤは乱れ、電車を利用する人のほとんどが予定を狂わされることになる。定刻どおりに家を出ようが遅れて出ようが同じことなのだ。

 と、思ったけど口には出さない。

 冷めたトーストをコーヒーで流し込み、行ってきますと言って家を出た。



 駅はすでに大混乱だった。慌てた様子で電話をする人、駅員を恫喝する人、急いでタクシーを捜す人。反応はさまざまだ。

 そんな中、私はあの人の登場を待つ。

「爆破予告があったみたいですね」

 その声に振り返ると朝倉ユウトが立っていた。毎朝電車で見かけていた大学生。気になるからいつも目で追っていたら時々視線が合って、最近は会釈するようにもなっていた。彼は私に声をかけるのは初めてのはずだけど、私は何度も話をしている。

「爆破?」と、判っていたけど驚いてみせると、

「電話があったらしいですよ。電車に爆弾をしかけたって。だから全線ストップして調査しているみたい」

「へぇ」

「高校生?」

「はい」

「学校、大丈夫?」

「これじゃあ多分、遅刻かも」

「だったら、遅延証明書をもらうといいよ。俺も講義に遅れそうなんで証明書もらいに行くから、一緒にどう?」

 別に私には必要のないものだったけど、断る理由もないので改札口へと向かう。

駅員の前には行列ができていた。そこに並んで待つ間、いろいろ話しをすることができた。名前、年齢、学校。繰り返し聞いたことだけど、初めてのふりをする。

 ようやく証明書を受け取ったところで彼が連絡先を訊いてきた。これまでと同じように教えようと思ったところでふと気がついた

 そういえば、ここで彼に連絡先を教えるから、後に食事に誘われ、ドライブデートに行き、そしてあんなことを願ってしまったのだ。それでこんな状態に陥ったのだから、連絡先の交換を拒めば彼とデートすることもないし、願いを口にすることもないし、その結果いつもの生活に戻れるんじゃないのか?

 試して損はないと考え、私はその申し出をやんわりと断った。がっかりした表情で、彼はその場を去っていった。

 さて。これで状況は変わったと思いたい。密かに期待しながら バスを乗り継ぎ学校へ向かう。

 2時間遅れで教室に着いた。それでもクラスのほとんどの子がまだ来ていなかった。これも想定内だ。そしてもうすぐ臨時休校を知らせる校内放送が流れるはず。学生の半数近くが昼までの登校は難しいことが判明するからだ。

 ほどなくして放送が流れ、待機していた私たちは下校した。家に帰り、驚く母に今日のことを説明した。一刻も早くこの日を終わらせたかったので、疲れたから夕食はいらないと言って自室にこもり、眠ることにした。



「ヨウコ、いつまで寝てるの。遅刻するわよ」

「はぁい」

「さっさと起きて朝ごはん食べなさい」

母は苛立たしげに言い残し、階段を下りていった。

 一階に行くと父はすでに出勤した後だった。母だけがテーブルについている。彼女の視線はテレビに向けられていた。朝の情報番組だ。

 ちょうど占いのコーナーが始まったところだ。それをぼんやり眺めていると、今日の最下位は射手座……って……え?

「あらやだ。12位ですって」

 言ってから射手座の母は私へ視線を振り向けた。

「どうしたの、そんなところに突っ立って。はやく食べなさい。電車乗り遅れるわよ」

 慌てて新聞を手に取り日付を確かめ愕然となった。

 だめだった。抜け出せなかった。この無限ループから。

 あの時、私は朝倉ユウトと連絡先を交換した。それから登校したものの休校となった。そこへ私が無事学校に着けたかどうか心配をする彼から連絡が入った。休みになったことを告げると、ランチに誘われた。食事のあと、まだ時間があるからとドライブに出かけた。まるで恋人同士のようだった。

 アクシデントをきっかけに気になる人との距離が急速に縮まりデートまでしている。あの瞬間、私には今日という日が特別な一日に思えた。

 だからあんなことを願ってしまったのだ。

「ああ神様、今日と言う日がずっと続きますように」

 以来、私はこの特別な日を何回も繰り返している。目覚めるとその日の朝に戻っているのだ。

 今まで私の言葉になんか耳を貸さなかったくせに、やっと願いが届いたと思ったらこんな形で叶うなんて。

 神様のイジワル!


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