第5話 口止め

 孫たちは昼間の疲れが出たのか、いつもより早く眠りについた。

 待ちかねていたかのように、婆さんが権蔵爺さんに話しかけた。

「由美がおかしいんや」


 千足谷の遊びから帰ったので、婆さんが由美の水着を脱がして洗濯機に入れようとした。由美は婆さんに抱き着いてきて、号泣した。

「なんぞ、あったん?」

 婆さんが訊いても、由美はただ泣くだけだった。


 翌朝、権蔵爺さんは由美を呼んだ。

「言うてみ。何があったんや」

 やはり、由美は泣くだけだった。

 爺さんは由美を叱った。

「誰にも言うなって、言われとる」

 由美はやっと、それだけ答えた。


 爺さんには事情が呑み込めてきた。

「なんぞ、されたんか? やったのは洋一か?」

 由美は固く口を閉ざしたままだった。


 権蔵爺さんは富江を、家の外に呼び出した。

「手癖が悪いだけじゃないんやな。なんぼ口止めしたって、ワシには分かるんや」

 富江は棒を飲んだようになった。


 富江は洋一を問いただした。洋一は取り合わなかった。それがますます疑惑を深めた。

 富江は和子にそれとなく訊いてみた。

「ウチ、何も知らん。由美ちゃん、ちょっとの間、おらんようになって。みんなで探したけんどな」

「その時、洋一は何しとった?」

 富江は最悪の場合も覚悟した。

「隆君やと一緒になって探し回っとったよ」


 洋一は仕方なく、マムシのことを富江に話した。

 富江は権蔵夫婦に会った。

「由美ちゃん、バスガイドさんみたいになるところやったんやって。洋一と隆は命の恩人やなあ。礼のひとつも言うてほしいわ」

 富江には言いたいことは、いくらでもあった。


 



 

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続 村の少年探偵・隆 その2 毒牙 山谷麻也 @mk1624

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