第29話 「ヤニック陛下の昔話し」

『世界の創造主よ・・・・・いつまでも遊んでないで真面目に話しを進行させなさい。

後が沢山つっかえているのに、このシリーズをいつまで続けるつもりですか?』


『世界の言葉よ・・・我は皆を楽しませようと一生懸命に・・・』


『世界の創造主よ・・・後に控えている改稿の文字数がお分かりですか?

「魔法世界の解説者」だけでも、おおよそ30万字ですよ?何年掛けるおつもりですか?

と言うか、これだけの文字数を使っても「魔法世界の解説者の本編」すら始まってないのはどう言う事ですか?』


『世界の言葉よ・・・それは少し違うぞ?

今回の改稿で世界線を変更し過ぎたせいで「龍騎士イリス」と「幽霊退治屋セリス」に混沌(矛盾)が発生して大幅な改稿が必要になったのでキッチリ「100万字」に膨れ上がっておるのだ』 


『だったら余計にちゃんと話しを進めなさーーい!!

大体からして主人公のシーナを登場させないなんて何考えているんですかぁ?!」


『ごめんなさーーーーい?!』




ーーーーーーーーーーーーーーーーー



と、パシリ女神にマジで怒られたので話しを戻して進行します。



王立学園にて出席日数不足で留年した王太子ヤニック・・・

本人的にも「ああ・・・これもう、どう取り繕っても無理だな・・・」と悟り、完全開き直った。


この辺りの決断の速さは流石の勇者ヤニックである。

しかしそんな愚か者の開き直りを絶対に許さない女性が1人居たのだ!


その女性の名はファニー・・・では無く、ヤニックに勉強を教えている元同級生、現上級生のヤニックの専属家庭教師と化しているリアナ先生である。


「殿下!!!何で教えた所を忘れているんですか!最初からやり直し!

1ページ目から読み直しなさい!!!」


3ヶ月間のバトル脳全力解放でリアナに教えて貰った勉強の事を完全に忘れてしまったヤニック・・・

お前、本当に「思考加速」持ちなのか?


まぁ、記憶力と思考の速さは別なのだが・・・ヤニックは何か新しい事を覚えると古い事を記憶の隅に追いやる悪癖があるんだなこれが。


「はい!すみません!リアナ先生!!」


留年した分際でこの度めでたく正式な婚約者となったファニーとイチャラブ学園生活を送れる訳など無く、勉強漬けの毎日になったヤニック。


貴族院からの期待を一心に背負いリアナ先生は燃え上がった!

このダメダメな生徒を自分が何とかせねば!との使命感が彼女を突き動かす!


ちなみにこのリアナ先生は未来の王立学園の学園長になる人物だ。


王弟殿下のエヴァリスト大公爵閣下より「ヤニックに対する如何なる不敬も無罪」の免罪符を持ち、ヤニックをしばき回す!!


その点大変良く出来た婚約者のファニーはヤキモチなどを焼く事も無く二人の勉強の邪魔をする事も無く、友人のエスティマブル公爵令嬢達と楽しい学園生活を送っている。

と言うより「リアナ先生!殿下を何とかして下さいまし!!」と心から願っている。


そんなヤニックに更なる追撃が入る!


「お前・・・マジで馬鹿なのか?ホントにどうしょうもねぇな・・・」


「すみません・・・」


ここまで散々にヤニックに手を貸したもう1人の兄貴分の勇者ジャックも短い言葉ながらも辛辣にヤニックを貶す。

心優しき常識人の勇者ジャックにここまで言わせるヤニックは相当だな。


地味にジャックからのこの一言が1番堪えたヤニックであった・・・


それからと言うもの、心を入れ替えて勉強しかしていない王太子ヤニックは学園内で埋没して存在感が全く無くなった。

そして何のネタ・・・何事も無く一年が経過してファニーとヤニックは進級した。


この頃にもなると学園小説モノには欠かせない「生徒会長」の役割は王太子ヤニックの自爆により次に身分の高いエスティマブル公爵令嬢がずっと務めている。


そして婚約者のファニーはずっと副会長を務めている、ちなみにヤニックは、その生徒会にすら入っていない・・・

ヤニック・・・お前マジで何してくれてんねん!


このシリーズはテンプレ満載の「学園ざまあモノ」にしようと思って始めたのに、攻略対象の王太子がやっている事と言えば脳筋肉弾バトルをしているか缶詰で勉強してるか留年しているかの三択じゃねえか。


存在感は無いが、ヤニック王太子は王太子なので節目節目の行事には、ちゃんと王太子として参加はしていたので周囲からは次代の王だとは認識はされていた。


その為に良からぬ輩がヤニック王太子の婚約者のファニーを狙うのだ。


「ファニー嬢、ちょっとお話しが・・・」


「よし、その話しは私が聞こうか、お前はちょっと裏に来い」


「何だ?!伯爵令嬢如きが!!!うわああああ?!」


そんな輩は学園卒業後(年齢的にヤニックと同級生)に正式なファニー専属護衛となったフローラ伯爵令嬢改め、魔導兵団少尉フローラがバッタバッタと薙ぎ倒して行く。


そして・・・大事件が起こる?


「お嬢様!大変です魔物が!!・・・・・・・あれ?魔物?どこ行ったのかしら??」


「魔物って、どうなされたのです?」

部屋に飛び込んで来たフローラに対してキョトンとするファニー。


実は5分前にファニーの命を狙って30体程のブラックファングが寄宿舎へと放たれたのだ。

しかしヤニックが速攻で全ての魔物を転移陣で遠くの荒野へと飛ばして事なきを得ていた。


マクシム君に鍛えられたヤニックは極大魔法を行使出来ないだけで魔導士として完全復活している。


こんな感じにファニーを害そうと送られる魔物はヤニックが随時瞬殺して行く。

何せ、ヤニックの索敵能力は勇者でも最高クラス、そう易々とファニーの暗殺などは出来ないのだ。


そして魔物の使役術式から伸びていた魔力の糸を辿り魔物を送り込んだヤツも掃討して行く。


「殺す・・・」敵の正体を突き止めたヤニックの周囲の空気が震える!


大元を突き止め、ゴルド王国に組みして国家転覆を謀ろうとしたブロッケン侯爵の館にヤニックが単身で殴り込みを掛ける!


単独と言っても侯爵の館の周囲には300人以上の冒険者が完全包囲して警戒している。


「イノセントマスター!殿下だけを行かせて良かったのですか?!」

若い冒険者の男が冒険者ギルドマスターのイノセントに食って掛かる。


「んー?まあ・・・良くはねぇが、野郎のストレスも限界だろうよ。

猛獣はたまに暴れさせて獲物を食わせねえと大爆発しちまうからなぁ・・・

適度に発散させねえとな。

とばっちり食らうとお前も死ぬぞ?黙って見ていろ」


イノセントがそう言った瞬間!


ドガガガン!!ゴオオオン!!バキバキバキバキ!!ドオオオオオン!!

館から凄まじい破壊音が鳴り響き、続けて「ぎゃああああああああ!!!」と複数人の断末魔が聞こえて来る。


「な?悪い事は言わねえ、怒ってる時のヤニック王太子殿下には絶対に近寄るな」

これは命令だぞ?と笑うイノセント。


「は・・・はい・・・大人しそうに見えて殿下って怖いんですね?」


「怖いってか「怒ってる時の野郎はヤベェくらい危ない」ぞ?何せ野郎は「神虎」だからな」


「神虎・・・」ブルルルと震える若い冒険者の男。


一体館の中で何が起きてるのか・・・姿が見えない「神虎」に恐怖で慄く冒険者達であった。


ドゴオン!「うぐう?!?!」

立ち塞がった最後の護衛を倒してヤニックはブロッケン侯爵と対峙する


「やややややヤニック王太子殿下??如何なされたのですか?

こんな真似・・・ききき貴族院が黙ってませんぞ?!」

唾を撒き散らせながらヤニックを非難する侯爵・・・今それ逆効果じゃね?


「あ?貴族院だぁ?知るかそんなモン。

殿下如何なされた?・・・・・じゃねえよ、テメェ・・・」


200人程いたブロッケン侯爵の護衛を1人で拳のみで全員半殺しにして全身返り血で血塗れのヤニックが侯爵の部屋へヌルリと入って来る・・・


勇者覇気が高密度の魔力のオーラとなりヤニックの身を包んでいる。

魔導回路が復活しているヤニックに傷を負わせるのは容易な事では無い。


そのオーラに触れた食器棚が・・・

バシーーーンンンンン!!バキバキバキバキバキバキ!!ゴオオオ!!!

轟音を上げ爆発四散してあっという間に燃えて灰になる。


「ひいいいいいい???何だこの力は???でで殿下ぁああ??」

見た事も聞いた事もない異常現象にブロッケン侯爵の恐怖心がMAXになる。


「テメェよお・・・誰を殺そうとした?ああ?」

キィーン・・・ヤニックの持つ槍の矛先が侯爵の喉笛に触れる・・・


侯爵も見ただけで解る・・・これは鍛えに鍛え上げられた戦槍の矛先だ。

この矛先に今まで何人の男が貫かれたのか・・・


「ひいいいい???」

勇者覇気・・・いや勇者怒気をまとも受けて恐怖の余りにズボンを濡らすブロッケン侯爵。


「テメェ・・・ファニーを殺そうとしただろ?

俺はなぁファニーに何かするヤツは全殺しにするって決めてんだよ、テメェは死にてぇ見たいだな?侯爵さんよぉ」


「おおおおおお助けを・・・」もうガクブルのブロッケン侯爵閣下。


この時のブロッケン侯爵は王太子ヤニックをただの目立たないダメ王太子と決めつけて侮っていた事を心底後悔したと言う・・・

コイツは「虎」だ!、猛獣・・・いや!それ以上の何かだと魂に刻み込まれたのだ。


「・・・最後に聞くがテメェはファニーの奴隷になる気があるか?

生涯を賭けてファニーを守るってんなら命は・・・」


「なります!ファニー嬢・・・いいえ!ファニー様の奴隷になります!!」


「そうか?・・・・・その言葉を違えたら世界の果てまで追い詰めて・・・殺すぞ」


「肝に・・・いいえ!いいえ!命に変えてもファニー様をお守り致します!」


侯爵の心からの言葉を聞き、カシャンと槍を降ろすヤニック。

そして・・・「エクサヒール!!!」広範囲回復魔法を発動させる。


ヒュイイイインンンンン!!魔法効果が館の全てに広がる。


このヤニックの回復魔法で半殺しになっていた侯爵の部下達が瞬時に回復する。

しかしヤニックに、しこたま殴られたので気絶したままだが。


「ひいいいい?!これほどの範囲回復魔法まで・・・ひいいいい・・・

なんて・・・なんて事だあああ??・・・ああ!!もしや・・・勇者?!?!

でで殿下は勇者・・・なのですか?」

やっとヤニックの正体に気づいたブロッケン侯爵。


「じゃあ、ファニーの件、よろしくお願いしますね!侯爵閣下!」

そう言って先程までとは打って変わり満面の笑顔で部屋を去って行くヤニック。


その笑顔に腰が抜けて尻餅をつき、ズボンから床へ染みを伸ばすブロッケン侯爵・・・


いや!こんなの王子様の戦い方じゃねえよ!マジで怖えよ!!


その後、このブロッケン侯爵が率いる軍団が王妃ファニーに絶対的な忠誠を誓う王妃専属近衛兵団となるのだが、それはまだ少し先の話しだ。


こうして裏では着々と自分よりもファニーの味方を作って行っているヤニックだった。



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「お父様・・・辛い、辛いです。ここまでのお話を聞いてラーナはとても辛いです。

嫌な予感はしていましたが若い頃のお父様がこんなに酷かったなんて・・・


王太子が留年ですか?そして殴り込みですか?

このお話しの侯爵って軍務卿のブロッケン侯爵ですよね?


あのお会いする度に私に飴を下さるお優しい侯爵とそんな事が・・・なんかショックです。

ラーナは、お父様には「偉大で優しい父」でいて欲しかったです・・・」


「ラーナ?!お前が是非とも聞きたいと言うから私も恥ずかしい昔話をしているのに?!」


「なあ?酷いだろ?コイツ。

コイツが暴れた後にいっつも俺やクルーゼの兄貴が尻拭いするんだぜ?


シーナが前に「幻夢の銀仮面」ですよ!とか、はっちゃけても、コイツがシーナを叱れ無かった理由が分かっただろう?


なにせコイツの若い頃の方がもっと酷かったんだからな?人の事は言えんだろう?

シーナの奇行なんて可愛いモンだろう?」


「イノセント兄貴?!酷え?」


「おっ!お母様?!これ本当の話しなんですか?!冗談なのですよね?!

これ、「戦乙女の英雄」じゃ無くて「奇天烈な凶暴王子様と愉快な仲間」ですよね?!

こんな事はありませんでしたよね?!」


「ラーナ・・・ここからが本当のマグマなのですわ・・・

お父様の「留年」が一回で終わったと本当にお思いですか?」


「なんだってーーーーーー??!!」


このシリーズは、王女ラーナが「お母様とお父様の若い頃のお話しが聞きたいです!」

と、おねだりしてヤニック王が王女ラーナに語っていた昔話しだったんですね。



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ブロッケン侯爵の事件以降は、ファニーの学園生活は表向きは平和な日々が続いていた。


そう表向きは・・・ここからピアツェンツア王国は裏で本格的な「戦争」に突入する、ギャグもあんまり無し。


この時期はゴルド王国の調略がかなり激しくなっており、かなりのピアツェンツェア王国の貴族が王家より離反していたのだ。


そのゴルド王国に唆され、性懲りも無くファニーの誘拐を狙う刺客などをバッタバッタと返り討ちにしている王太子のヤニック。


もはや戦争状態と言っても過言では無い激しい戦いが各地で展開されている。

そして今回は冒険者の他にも正規軍の特殊部隊も連れて黒幕の殲滅に乗り出した王太子ヤニック。


炙り出した黒幕の伯爵には政治的な目的は無く、単純に金銭的に買収されただけと判明したが相次ぐ背任行為に楔を撃ち込むべく徹底的に掃討をするつもりだ。


いつもの様に単身突撃ではなく、包囲殲滅作戦を行う。


真の黒幕が三大公爵家のひとつアスティ公爵家なのは大方判明はいるが確定した証拠な無い。

なので先ずは分かり易く証拠を残した伯爵を掃討してアスティ公爵家を牽制する。


伯爵領の官邸で反王家の貴族達が呑気に集会を開催しているタイミングで伯爵邸へ乗り込む掃討部隊。


「何者?!ええ?!親征部隊?!ヤニック殿下?!なっなな何故当家に?!」


「悪いな、お前達は眠っていろ」ゴオン!!イノセントに殴られて気絶する門番達。


親征部隊はコソコソなどしない、堂々と正面玄関の扉をブチ破るのみ!


「おおおお待ちを!お待ち下さい!」


「死にたく無いヤツは部屋に籠って出て来るな!!」

戦闘意思の無い者を槍の石突を使い部屋の中に押し込むヤニック。


すると屋敷の奥から騒ぎを聞き付けた、伯爵が雇った非正規の傭兵100人程がワラワラと出て来るが・・・


ワアアアアアアアア!!!!キイン!カアーン!ズドン!!

「ぐはあ!!」ヤニックの槍先が傭兵の心臓を貫く!


イノセント、クルーゼ、ヤニックの勇者3人が率いる精鋭部隊に勝てる訳も無く傭兵達はあっという間に討たれ、集会会場の大広間の扉を蹴り破り突撃するヤニック。


「きゃーーーー?!」メイドの悲鳴が大広間に響く。


「殲滅を開始せよ!」

ヤニックの号令で次々と親征部隊に討たれて捕えられる反王家の貴族達。


そして・・・


「マジでいい加減にしろよテメェら・・・毎回毎回・・・」


ゴン!ゴン!「ぎゃあ?!」ズン!「ぶへえ!」ゴキィ!!べギィ!!!

大広間に骨が砕ける鈍い音が響き渡る。


「お許し下さい!お許し下さいぃぃ、私は・・・違うんです!」


「何が違うんだ?」ゴオオン!!ヤニックに頭を割られて頭から血を噴き上げる貴族の男。


自らファニーを狙う敵を成敗しているヤニック・・・

今回かなり本気でキレているので実行犯のみならず黒幕の伯爵一家も協力した貴族達もまとめて物理的に容赦無しに痛め付けている。


つまり、メッタクソに槍でブン殴っているのだ。


普段と全然違うヤニック王太子の殺気と気迫にビビリ倒している反王家の貴族達。

「ちちち違うのです殿下!私は潜入調査を・・・」

と見苦しい言い訳を始める者も居るが聞く耳持たず拘束して行く。


そして・・・


バギィガゴォ!!ベキ!!「ああ?!いだいいいい?!?!」


「ひゃあ?!あああああ!助けて!助けてーーー!!」


「ああ!痛い痛い!肩がぁあああ!!お許しををを?!」


絶対に逃げられ無い様に拘束された者達は全ての者が肩の関節が外されて両足の骨を叩き折られるのだ。


王太子の強権を使い裁判などは全て省略している。

そもそもコイツ等のやっている事は「反逆罪」なので「死刑」の一択しか無い。

骨を折られて拘束されてるだけ優しい処遇と言える。


臣下の分際で王族に手を出すと恐ろしい結末になる事をやっと理解した傲慢極まる反王家の貴族達と伯爵一家だが、時は既に遅い。


「でででで殿下ぁ・・・お許しを、お許しを・・・」

床に座り込んで抱きしめ合いガクガクと震える、顔がボッコボコ腫れ上がっている伯爵とその子息。


伯爵自身は単純な金銭目的だったのだが、この子息に関しては学生時代に後輩のファニーに横恋慕をしておりファニーに告白したがアッサリ振られた事があった。


その時の事でファニーを恨んでおり、今回の親の暴挙に便乗して人質になる予定だったファニーを自分の手で舐るつもりだったらしい。


これはヤニックが怒り狂うのも無理は無い。


王太子の婚約者に言い寄る事自体が王家を完全に舐め切っているし、女性の身体目的で誘拐しようとしたのもヤニックの怒りを倍増させたのだ。

つーか、マジでアホなのか?コイツ。


「よおヤニック・・・完全に勝負もついたし、お前これから王都に帰って気分展開も兼ねてファニー嬢と遊んで来いよ」


あー・・・そろそろ黒幕達を殴り殺しそうだなぁ、と思いイノセントがそんな提案をして来た。


イノセントは別に伯爵を庇ってる訳では無い、反王家派の情報が欲しいだけだ。

死ぬと情報得られないと思っているだけで、情報を得たら容赦無く処刑をするつもりなのだ。


「え?!良いんですか?!」パァと、鬼の形相から反転して表情が明るくなるヤニック。


「お・・・おう、後の事は俺とクルーゼの兄貴とやっておくからよ」


「ありがとうございます!!」喜び勇んで伯爵邸からダッシュで走り去るヤニック。

イノセント的には甘い所が有るヤニックが居ると何かとやり辛いので追い払っただけだ。


反王家派の真の地獄はここから始まる。

何だかんだで非人道的な事に対する防波堤だったヤニック王太子が帰ってしまったので拷問有りの尋問が始まる。


「能天気なヤツだな全く・・・・・・・・んで?伯爵殿・・・」

走り去るヤニックの背中を見送りクルッと伯爵の方へ向き直るイノセント。


「ひっ?!ひいいいいいい?!?!」

「ひゃあ?ああああ・・・」

先程のヤニックとは比べモノにならない殺気を伯爵と子息にぶつけるイノセント。


自分達に本気の殺気を放つイノセントの顔は伯爵親子には悪鬼羅刹にしか見えない。


「一応、王太子殿下の意向で現時点まで可能な限り命までは取ってませんでしたが・・・

今回の反王家集会の人数を見て国としての方針も変わりましてね、

本腰を入れてゴルド王国派の掃討を行うつもりです。


・・・・・・・・・・・だから拷問の末に肉塊になる前に仲間の事を全部吐け」


「あ・・・あう、ああ・・・あ」

甘い所があるヤニックは実際の殺しに関してかなりの忌避感があるので、今回もまだ死者は少ない。


ヤニックは戦場以外では必要最低限の殺生しかしないが、根っからの戦人のイノセントやクルーゼは全然違う。


自分や仲間が殺られる前にどんな小さな敵でも躊躇無く殺して蹂躙して行くのだ。

味方の命は自分の命より重く、敵の命など塵よりも軽い。


「伯爵は俺らの敵か?味方か?どちらだ?」

ズドン!!鈍い音を立てイノセントの裏拳が伯爵子息の心臓を撃ち抜く・・・

叫び声を上げる事も出来ずに即死する子息。


「うひぃいいい?!?!」いきなりの息子の処刑に慄く伯爵。


準王族のファニーの誘拐、婦女暴行未遂など裁判無しで死刑が確定している。

なので遠慮なく伯爵の口を割らせる為に目の前で息子を殺めたのだ。


「ああああああーーーー?!?!」イノセントの拷問が始まり伯爵の悲鳴が上がる。


結構アッサリと命を救われて免罪された前回の侯爵と何が違うか?

それはブロッケン侯爵は国の為に完全な政治的な理由で動いていたからだ。


陰が薄く頼り無いと見えた次代の王ヤニックでは、これからの国を守れないと憂いての事であったのだ。


この点に置いては王家にもかなりの責任が有ったし、普段のヤニックの立ち回りの悪さも原因だ。


誤解が解け国の為に働けば有能な人物と思われたらこそ秘密裏に助命された。


しかしこの伯爵家の親子は全然違う。


金に女、行動理念が私利私欲でしか無い上に個人の能力も低い、挙げ句の果てに反骨の相ありでは使い道が無い。


この使い物にならない害悪でしか無い無能な貴族達を今後一気に掃討するのが国の方針になったのだ。


その後、軍の尋問機関からも壮絶な拷問を受けて口を割った伯爵の証言からゴルド王国に加担していた貴族家の一斉摘発と取り潰しが行われた。


その結果、当主の死刑執行が23名、その一門で犯罪奴隷落ち後に強制労働に処された者は384名、僻地への追放の後に謹慎、降爵が18名、爵位の剥奪の処分者4名、処分を受けた家門の婦女子の修道院送り422名、そしてその過程で討たれた者は死者2415名、重軽傷者はおおよそ10000名強。


と、ここまでが「王家として正式に把握している」数字だ。


王家からの突然の猛攻撃で混乱した反王家派は仲間割れが続発して内部争乱によりかなりの人間が死亡しているとの事。

暗殺なども多発したらしいので正確な死者数を割り出すのは不可能だろう。


この内乱と言っても過言で無い一斉摘発で今回取り潰しになって国から消えた家門は93家。

実に一気に王国に存在していた3分の1の貴族家が消滅したのだ。


末期癌を患い延命魔法でギリギリ命を繋いでいる現国王の最後の大仕事にもなり、

罪人達とは言え反王家派に対する王家のその苛烈な仕置きに王国の中立派の貴族達も震え上がった。


そして、やる時はやる男のヤニック王太子は父王の先兵となり武力をもって罪人を捕らえて行ったのだった。


その圧倒的な強さから「頼り無い王太子」から「武力馬鹿な王太子」に人々の認識がランクアップしたのだった。


そしてこの掃討戦のおかげで学園では出席日数が足りずヤニックは留年した・・・


それはそれ、これはこれなのだ!ヤニックこそ王立学園を甘く見ては行けないのだ!


「勘弁して下さいよぉ!学園長ぉおおお!!仕事だったんですよぉおお?!」

さすがに酷い!と、半べそのヤニックが学園長に猛抗議をすると・・・


「ほっほっほ、掃討戦のご活躍見事で御座いましたなヤニック坊。

しかし学園とは「学問」をする所でしてな、まだ学問を終えて無い者を進級させる訳にはいきませんな、来期こそ頑張りなされ、ほっほっほ」


「ううう・・・」

父どころか、ヤニックの祖父である先代国王の師匠でもあった大賢者の仙人学園長の正論に勝てる者などいない・・・


「殿下!ドンマイ!ですわ!」

さすがにヤニックが可哀想に思ったファニーが珍しく散々にヤニックを甘やかして慰めたのだった。


ファニーのヨシヨシで、ようやく一気に気分が向上して元気なるヤニック。

ファニー本人は完全に否定しているが、側から見てると完璧なオシドリ夫婦である。


「やっぱ、アイツの嫁になれるのファニーの嬢ちゃんしかいねえな」


普通、相手が反逆者達とは言え、人を斬りまくった婚約者には何らかの負の感情を抱くモノだろうがファニーは全然気にした様子は無い。

むしろ武人としての手柄を得られる掃討戦に自分が参加出来なかった事で不貞腐れているのだ。


今回の粛清の嵐で貴族の生徒の数が一気に減った王立学園だったが、ようやくの平穏が訪れたのだった。


貴族社会では大粛清が行われたが民への影響は最小限に抑えられたので学園内に大きな混乱は見られない・・・しかし変化は確実にあった。


「え?!俺が生徒会に?!」

エスティマブル公爵令嬢が学年の成績上位にいる平民の男子生徒を生徒会役員に勧誘しようとファニーを連れて彼が居る教室まで赴いて来たのだ。


実家の貴族家が粛清されゴッソリと貴族の生徒が学園から消えてしまい、平民の生徒だろうと重要なポジションに就いて貰わないと圧倒的に学園の人手が足りないのだ。


今までは貴族の子弟達が独占していた王立学園の生徒会にも新しい風が吹く。


「いえでも・・・ヤニック殿下は?

俺・・・私なんかの服屋の倅が生徒会役員になって殿下が・・・」


大丈夫だ少年よ、ヤニックにそんな事をしている暇は無い。

朝の授業が始まる前と放課後から寝るまでの間には恐怖のリアナ先生が待っているのだ。


「ヤニック殿下は留年しました。生徒会をやっている場合ではありません」


「ええ?!」ファニーの突然の暴露にメチャクチャ驚く平民の男子生徒。


「ファニー様?!」

アッサリとヤニック留年を暴露するファニーに驚くエスティマブル公爵令嬢。


「いずれバレるので問題ありませんわ。

それより下手に隠して生徒会が停滞する方が問題です」


「そ・・・そうですわね・・・」


だが他の生徒の手前ああは言ったが、さすがにヤニックが可哀想だと思ったのか学園長が、「学力テストで平均90点を取れば特別に進級させましょう」

と救済案を出してくれたので現在ヤニックは猛勉強中なのだ。


一応「暫定留年」と言う、王族にあるまじき状態にいるヤニック王太子殿下・・・

つーかお前・・・本当に卒業出来んの?


ちなみに学力テストの結果だが・・・聞かないであげて下さいね・・・


そんなこんなで王立学園も多少の混乱があったがエスティマブル公爵令嬢とファニーの奮闘で何とか学園の運営体制も整えられつつある日の事・・・


「ファニー様!学園内に不審な男が!」


「ええ?!」


ファニーが居る教室に慌てた様子の男子生徒が飛び込んで来たのだ!


「案内して下さいまし!」

ファニーは徐ろに立ち上がると急いで教室の外に出る。

未だに国内は大規模な粛清の混乱は冷めていないからである。


その男が粛正した者達の残党が雇ったヤニック王太子殿下を「暗殺」しに来た刺客なら大事だからだ。


「それで不審な男とはどの様な人物なのですか?」

学園内なので槍を持つ訳にはいかず授業で使う木剣を持ち一目散に男を目撃した場所へ急ぐファニーは男子生徒に不審者の特徴を聞くと・・・


「とても大きな身体でとても恐ろしい顔の男です!」


「???」何とも抽象的な説明に困惑するファニー。

大きな身体は分かるが「恐ろしい顔?」とは何ですの?と不思議なファニー。


すると向こうからその「大きな身体の恐ろしい顔の男」がヤニックと共に歩きて来た?


「あら?なんですか・・・トゥーロン伯爵じゃないですか。

大丈夫ですよ?トゥーロン伯爵は不審者でも何でもありませんわ。

ちょっと、お顔が怖く見えますが大変お優しい方で王家にも信頼されているお方ですわ」


「そ・・・そうなんですか?・・・これは大変な無礼を・・・」


アレク・フォン・トゥーロン伯爵・・・

常日頃から無口で不機嫌そうで冷たい印象しかしない男だと、彼と初めて会った者は誰もが言う。


身長190cm超える大柄な身体は何もしていなくても威圧感があり、その見た目の冷たさから金に薄汚く家族や領民を道具としか見ていない・・・そして逆らう者には情け容赦はしない。


これが一般的な彼の評価だ。


ここで彼のエピソードを一つ話そう。


数年前のある日トゥーロン伯爵は自宅の執務室に居た。

身体が大きいので執務用の椅子も机も一般的なモノよりかなり大きい。


そんな彼の前に8歳の娘が立つ、そして・・・


「おとう様、毎日おしごとをがんばっているおとう様にクッキーをやいたのです」

そう言って執務室の椅子に座る伯爵の前にクッキーを差し出す娘。


見るからに不恰好な子供が作ったのがモロに分かるクッキーだ。

噂通りなら日頃から美食の限りを食べ尽くしているであろう彼には、とても食べられたモノではないだろう。


彼は不機嫌そうな顔のまま立ち上がり娘の前に立つ。


まさか?!娘の事を蹴り飛ばすのか?!と思った瞬間!


スッと娘の前に実に美しい所作で正座した?!?!


まるで茶道で座布団に着席するかの様な美しさだった・・・そして、

「ミリアリア、クッキーはここで食べても良いのか?」

と娘に話し掛ける、巨体なので正座で座っても娘と目線が合わないのが悲しい。


「はい!おめし上がり下さいませ!おかあ様にもきょかをいただきました!」

そう娘に言われて早速クッキーを一つ摘んで口に放り込む伯爵。


口も大きいのでクッキーなど一飲みにしてしまう。


そして・・・


「うん!美味しいぞ!ミリアリア」

とても美味しかったとは思えない程の渋い顔なのだが幾分嬉しそうな声にも聞こえる?


「やったー、こんなに喜んでいただけるなんて!作って良かったです」


娘のミリアリアは大喜びだ・・・伯爵は喜んで・・・いるのか??え?どこが???


するとトゥーロン伯爵は立ち上がりクッキーの乗った皿を自分の執務用の机の上に置きミリアリアを抱き上げて席に座り直す。


自分の膝の上にミリアリアを座らせて皿に乗っているクッキーをもう一つ口に放り込む。


「うん!実に美味いぞ、ありがとうミリアリアよ」


「えへへへへへ」メチャクチャ照れ笑いのミリアリア。


そして実際にクッキーは見た目に反して凄く美味しいのだ。


食堂の料理長が丹念に生地を練り上げて、ミリアリアが作った不恰好な造形を壊さず焦がさず絶妙かつ入念な計画の元に焼き釜を使い見事に焼き上げたのだ。


菓子職人の匠の技!ここに有り!なのだ。


未だに凄く不機嫌な顔をしているトゥーロン伯爵だが、家族や親しい友人達からして見れば、「感情がすぐに顔に出て分かり易い」らしいのだ?


娘のミリアリアの反応を見る限り、今のトゥーロン伯爵はメチャクチャ喜んでいるらしい??のだ。


そして仕事に戻り、書類を見ながらミリアリアの頭を優しく撫でる伯爵。


すると、扉からノックの音がして「メリッサです。入ってよろしいでしょうか?」と伯爵の奥様が執務室に来たのだ。

「うむ、入っても大丈夫だぞ」そうトゥーロン伯爵が答えるとメリッサ夫人が執務室に入って来た。


そして伯爵の膝に乗り机の下からピョコンと顔を出しているミリアリアを見て。

「まあ!2人とも楽しそうですね、わたくしも仲間に入れて下さいまし」

そう言って近づく夫人を不機嫌そうな顔で見ている伯爵。


伯爵とミリアリアに近づいた夫人は夫である伯爵の頬にキスをすると、伯爵もお返しに夫人の頬にキスをしてからミリアリアのオデコにもキスをする。


・・・・・・・・・・・どうやら噂とは全然違う人物の様だ。


トゥーロン伯爵はとても「父性愛」が強い人物で、家族をとても大切にしている。

王家に対して絶大な忠誠心を持ち、その溢れる「父性愛」から使用人や友人に領民に対しても底抜けに優しい。


そして見た目同様にとても武力も強い人物なのだ。

つまり見た目通りにメチャクチャ強いが身内にはとても優しい男と言う訳だな。


醜悪な噂の数々は王家からの信頼が厚いトゥーロン伯爵を疎ましく思っている貴族が流しているデマだ。


トゥーロン伯爵は自分の伯爵領領主と兼任して「近衛騎士団長」も勤めており、

今回の「大粛清」においても常に王家の先陣に立ち多くの戦果を上げて「大将爵」への就任も決まっている。


「大将爵」とは軍部独自の爵位で軍内に於いては「侯爵」と同等の権限を持つ。

つまり「辺境伯」より一つ上の身分になる。


正しく「ヴィアール辺境伯家」に並び王家の「懐刀」と言えるだろう。


そんなトゥーロン伯爵がなぜ学園に?と不思議に思ったファニーだが、挨拶をする為にヤニックとトゥーロン伯爵の元へ急ぐファニー。


「ヤニック王太子殿下、ご機嫌麗しゅう御座います。

トゥーロン伯爵閣下、ヴィアール辺境伯爵家の娘のファニーがご挨拶させて頂きます」


ヤニックとトゥーロン伯爵の前でカーテシーで挨拶するファニー。


「おお!ファニー王太子妃殿下、お久しぶりに御座います」

めちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしながら優しい声と美しい貴族の礼を取るトゥーロン伯爵。


どうやら彼は表情筋が誤作動してしまい笑うと顰めっ面になる様だ。

つまり不機嫌そうな顔になればなるだけ喜んで笑顔でいると言う事だ。

何とも難儀な体質である。


その事が分かれば・・・なるほど、「すぐに表情に出る」との話しは分かる。


常に不機嫌そう=常に笑顔でいる・・・のだ。

なので彼を良く知る者は彼の不機嫌そうな顔を見ると安心するのだと言う。


そして彼は戦場以外ではとても優しい性格なので日頃の大体は顰めっ面なると・・・


ちなみに戦場においては不機嫌どころか「悪鬼」如くの憤怒の表情になるので相対した敵の恐怖は計り知らぬとの事だ。


「本当にお久しぶりですわ閣下。

・・・・・・・って!ええ?!「王太子妃殿下」とは?!」


余りに自然にトゥーロン伯爵がファニーをそう呼ぶので流してしまいそうになったが「王太子妃」呼びに驚くファニー。


「はははは、これは気が早かったですな」

そう笑うトゥーロン伯爵だが、やっぱり顔は怖かった・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『世界の創造主よ・・・次回の話しは書き終えていますか?』


『世界の言葉よ・・・お待ち、お待ち下さい!無理ですから。

次からは未発表の「完全な新作」の投稿で今までの様な改稿ではありませんので時間が・・・時間が掛かるのです』


『そうですか?では、「10000万字を土曜日まで」に投稿して下さい。

2日もあれば書けるでしょう?』


『だから無理じゃって・・・早くても来週の半ばに投稿出来れば良い方なのじゃ。

だって新作を10000字を書くのって「早くても10時間以上掛かる」のじゃぞ?


『じゃあ徹夜して下さい』


『え?!』


『ですから徹夜して早く話しを進めて下さいね?』


『おのれパシリ女神め!お主は鬼か?!


とは言え真面目な話しで日曜日に集中して書いて、その後の手直しがあるので来週の水曜日くらいの投稿になります。

頑張りますが10000字代のキープはムリポだと思います』


『言い訳無用です!!さあ世界の創造主よ・・・1日は24時間もあります!

今日から徹夜すれば土曜日の朝には間に合います』


『お主も人の話しを聞かぬなぁ・・・

それに時間に追われながら慌てて書いて「改稿の改稿」になっても良いか?』


『それはちょっと困りますねぇ?』


『そうであろう?

まあ我は「改稿の改稿」は平気でやるがな、わははははは』


『とにかく早く主人公を登場させて下さいよぉ~』

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魔法世界の解説者・完成版 ウッド @riyuha2

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