第28話 「荒ぶるケンタ君事件・後編」

顔を真っ赤にしてパタリと倒れて気絶したファニーに辺境伯邸は上へ下への大騒ぎだ!


「きゃあ?!ファニー様?!クローディアさん!クローディアさーん!!」

年若いメイドがどうして良いか分からず混乱して上司を呼びに走る!


「殿下にキスされた、殿下にキスされた、殿下にキスされた・・・・・・」

高熱を出してうわ言呟くファニー・・・


「お嬢様?!しっかりーーー!!」

ここでヴィアール辺境伯家のメイド長が見参する・・・はて?この女性?

どこかで会った気がするのじゃが・・・気のせいか?


熱でうなされて同じ事を延々と呟くファニーを見て軽々とお姫様抱っこしてベッドへ寝かせるメイドさん。


いやお姫様抱っこと言うよりは片腕でヒョイと持ち上げている?

華奢な見かけによらず凄いパワーだな?このメイド長さん・・・


「ファニー!!倒れたって?!大丈夫なのかい?!」

諸悪の根源のヤニックがファニーの部屋に乱入して来る!


「ええい!!お嬢様の症状が悪化するから、お前はまだ出てくんなぁーーー!!」


グワシ!!ズルズルズルズル


「うわああ?!ファニー?!・・・あれ?!振り解けない?!何で?!」


駆け付けたヤニックを有無を言わさず首根っこを掴んで部屋から叩き出すメイドさん!


ポイっとヤニックを廊下に投げてしまった?メイドが勇者をか?!

ぬう?!こやつ強い!本当に一体何者なのじゃ?!


「クローディア、メイド長!ナイスです~」パチパチと拍手をする他のメイドさん達。


「本当にアグレッシブな王子様ねぇ」


パンパン!と手の埃を叩きながらファニーの寝室へ戻って来たクローディアさん。

メイドさんの名前は「クローディア」さんと言うらしい。


・・・・・・・・・・・・ん?クローディア?クローディア・・・


クローディア・・・


・・・・・・・・ああーー!思い出したぁあああ!!

いや!この人・・・この龍が何でこんな所でメイドなんかしておるのじゃ????


クローディア・・・あのド変態海星龍の監視役で常日頃毎日奴を〆まくっていた海湊龍クローディアさんね。


クローディアさんは「龍騎士イリス」で登場したエレン母リリーの仲間で超簡単に説明すると海龍王直属の側近で海龍のお偉いさんです。


天舞龍リールと同クラスの高位龍でめちゃくちゃ強いです。


そりゃあ、たかが人間の国の王太子のヤニックの事を「お前」呼ばわりの不敬を働いても、首根っこを掴んで部屋から叩き出しても気にもせんわな。


多分、今はヴィアール辺境伯領にスパイ活動をしに来てるんだと思う・・・

そしてスージーがすぐ側の龍種の存在に気が付かない訳がないから、双方で話しが着いていて黙認されてるんだろうな。


後でコッソリその事をクローディアさんの所に直接出向いて聞いて見たら・・・


「いや貴方の事をずっと監視しているのよ!魔王バルドル!

それにあのケンタウロスのゴーレム・・・

アレってなんなのよ?!凄く面白い・・・いや!とても調査したいからケンタ君を私にも下さいね!」


と怒られてクローディアさんにケンタ君を取られた・・・なんて理不尽。

つーか儂って海龍に監視されてるの?!儂は悪者なの?!


「凄ーい、面白ーーーい」

ケンタ君を持って来たら大喜びのクローディアさん。


「いや・・・コレ陸戦用だけど良いのか?」


「大丈夫!海中用に改良しますから!」


この様に彼女も兵器マニアの少し変わった龍なのじゃ・・・

しかし海中用ケンタウロスって・・・いやまあ好きにして下さい。


そしてヤニックをボコった事でエルフの女王イリスからも怒られた。


「バルドルさんは、やり過ぎなのよ!私の弟子をボコらないでよ!

それにケンタ君にすっごく興味あります!

だからお詫びにケンタ君を私にも下さい!」


どさくさに紛れてケンタ君2号もこちらも兵器マニアのイリスに取られた。

こうしてイリスとクローディアさんの兵器マニア2人が裏でつるんで何かコソコソ始めおった。


別に良いけどさ・・・君達はケンタ君を何に使うつもりなのじゃ?

むしろ君達の方がよっぽど怪しいんですけど?


その後、ハイエルフを乗っけた高速移動用に改造されたケンタ君2号が森の中で魔物を相手に「後ろ馬蹴り」をしている目撃情報が報告されるのであった。


単純にイリスは移動手段としてケンタ君が欲しかったらしい・・・

いや馬じゃなくてケンタウロスだぜ?

ホントに感性が変わってるよねイリスって。


クローディアさんの方は・・・

《あのケンタ君を何とかして下さい!少しづつ増殖しながら群れをなして海の中を走りまくって怖いんですよ~》

と海龍王アメリアから苦情が来たとだけ言っておこう。


クローディアさんはシー・ケンタ君を量産しているらしい・・・

それを儂にどうしろと?そして海の中を走るってどう言う状況なのじゃ?


そしてヤニックもここから意外な行動に出る!


「魔王様!「勇者ヤニック」なる者が単身で城に攻め込んで来ました!」


「・・・・・・・・ほう?」

・・・え?!アイツ攻めて来たの?1人で?


あのクソガキ、イリスの弟子なだけあって根性あるなぁ?

いや・・・勇者としての本能なのか?

後日、魔王城に来た本当の理由が判明するのだが割としょうも無い理由だった・・・


何はともあれ勇者ヤニックがわざわざ南の大陸に渡り単身で魔王城に攻めて来たのだ。

「来る者は拒まず」がモットーの真魔族、盛大に出迎えてやろうではないか!


と言う訳で、両サイドに「四天王」を侍らせた魔王バルドルが勇者ヤニックと魔王の間にて対峙しておりますよ~。


「ふふふふ・・・

魔王城の鉄壁の防御を打ち破りここまで辿り着いた事を褒めてやろう勇者ヤニックよ」

魔王としての見せ場だから張り切っちゃうぞ~。


「え?!」


「え?!」


なんじゃ?その「え?!」は???


「いえ・・・正門の門番の方が「魔王?ああ良いぜ案内するよ」とここまで案内してくれたんですけど・・・・・・・・・やっぱり不味かった・・・ですよね?」

めっちゃ申し訳なさそうに魔王の間まで来た経緯を説明するヤニック・・・


あ・・・そうですか・・・今日も魔王城は通常運転ですか・・・そうですか。

そっかー・・・門番のクソ野郎が勇者を魔王の間まで普通に案内して来ちゃったかぁ・・・


「そ・・・そうか・・・それは良かったな。どれ・・・儂自ら貴様のあい・・・」

「この痴れ者がぁ!魔王を相手にするなど1000年早いわ!!!!!」

儂のセリフにマクシム君が怒声を被せて来ましたよ?!


「貴様の相手など「四天王の末席!」このマクシムで充分だわ!」

どうしたマクシム君?!急に大きな声を出して?!


「「四天王の末席」・・・これは噂に聞くテンプレってヤツですね!お願いします!」

いやちょっと?テンプレって?


ヤニックとマクシム君とのやり取りに、

「え?!」「おい?!」「馬鹿!止めなさい!」「マジで?!」

左から筆頭、2番手、3番手、儂の順に驚く!


「良かろう!掛かって来い勇者ヤニックよ!四天王最弱のこのマクシムが相手だ!」


「はい!行きます!マクシムさん!」やる気マンマンのヤニック君?!


「いや!だから!」「知らんぞ俺は!」「マクシム!止めなさい!」「良いから落ち着けっての!」

また、筆頭、2番手、3番手、儂の順に止めようとするも・・・


「「うおおおおおおおおお!!!!」」

人の話しを全く聞かない者達同士、激突するヤニックとマクシム君・・・


そして予想通りに・・・


ゴオオオン!!「ふへえ~?????」ドサッ・・・シーン・・・


「真魔族最強」にして「覚醒魔王マクシム君」に案の定ワンパンでのされるヤニック君・・・


これは・・・酷い?!マジで可哀想・・・いくら何でも無理過ぎだろ?

つーかヤニック!何で「魔導士」のお前が「なーんでいきなり殴り掛かる」んだよ?!


儂は完全に伸びてるヤニックを見て思う・・・「再教育が必要だなコイツ」と・・・

全く・・・コイツの師匠の顔を見て見たい・・・


《ん?呼んだ~?》


「おめーは自分の弟子にどんな教育をしてんだよ?」



ーーーーーーーーーーーーーーー



さすが勇者の端くれ、意外とすぐにヤニックは復活した・・・


「ええ?!マクシムさんって「真魔族最強」なんですか?」


「いや・・・「真魔族最強」と言うより「世界最強クラス」なんだが・・・」

「勇者ヤニック瞬殺」に滅茶苦茶呆れ果てた表情の四天王の筆頭。


「だってマクシムさん自分を「四天王最弱」だって・・・」


「マクシムっていきなり変な事を言うのよ?だから本気にしちゃダメよ?」

殴られた頬に薬を塗りながら苦笑している3番手。


2番手は農政大臣の仕事がメッチャ忙しいので途中退場して行った・・・毎日お疲れ様です。


力の差も考えんと問答無用でヤニックを思い切り殴ったマクシム君は正座にて反省中じゃ。


「それにしてもヤニックよ・・・なぜお主は魔法を使わんのだ?」

ここまで頑なに魔法を使わんヤニックに違和感を覚え始める儂・・・


「あー・・・実はですね・・・」


聞けば「黙示録戦争」の最終盤に集団極大魔法を使った影響で自分の魔導回路が焼き切れておりヤニックは魔法の行使が出来ないとの事だった。

それで戦士・・・闘士に転向したと・・・


「なるほどのう・・・どれ」

儂は「身体鑑定魔法」を使いヤニックの魔導回路を検査する。


ふーむ?なるほど・・・確かに体内の魔力貯蔵タンクの破損、4箇所の魔導回路の大幅な損傷、26箇所の小規模な破損・・・か。


しかし・・・


「何とか、ある程度なら治療は出来そうじゃな・・・7割は回復するじゃろうて」


「ええ?!イリス師匠には「魔導士じゃない私には治療は無理」だと・・・

それに国の治療術師にも匙を投げられてまして・・・」


「まあ普通の治療術者には無理じゃな。

それから確かにイリスは「魔導士」では無いからな、正確には「魔導闘士」じゃ。

なので繊細な魔導回路の修復は無理だろうな。


仕方ない・・・傷害事件のお詫びに儂が治してやるしかなさそうじゃな。


こうして儂はヤニックの魔導回路修復を始めた。


「うぐぐぐ?!ぐうううーーー?!ぐぐぐ!!!」


医療ゴーレム6体を使いヤニックの破損している魔導回路を一つずつ、ゆっくりと丁寧に治療して行く。


魔導回路修復には全身の高熱と激痛が伴う。

そんな「デバフ」にもめげないヤニックは激痛に耐えている。


「しかし随分と厄介な損傷の仕方をしたのう・・・これでよく死ななんだなぁ」

魔導回路とは血管とも同じ役割を持つ、それが破損すると身体に生命の根幹の魔力が巡らずに何らかの障害、場合によっては死亡する。


「他の勇者からも同じ事を言われました・・・ぐうううう?!?!」


「治療の関係上で丸々1ヶ月はこのまま寝たきりじゃぞ?」


「そんなに・・・あのトイレは?」


儂の目線の先に尿瓶を持った医療用ゴーレムが佇んでいた・・・


「・・・マジですか?」



こうしてヤニックは1ヶ月間の過酷な治療を耐え抜いて、儂の見立て通り7割程の魔導回路を復旧させる事が出来た。


「うむ!痛みに耐え抜いた貴様には見どころが有る!我が魔導の真髄を教えてやろう!」

またマクシム君が変な事を言い出した。


「え?!」「またか?!」「ヤニック君!断りなさい!」「死ぬぞ?止めとけ!」

また左から以下略。


「本当ですか?!お願いします!マクシムさん!」めっちゃ乗り気のヤニック。

こうしてマクシム君に弟子入りしてしまったヤニック君・・・儂は知らんぞ?


しかし案外とマクシム君は人にモノを教えるのが上手く、ヤニックは「上級魔法」までは完全に行使する事が出来る様になった。


「うーむ?やはり「極大魔法」の行使は止めた方が良い・・・次は死ぬぞ?」


マクシム君でもヤニックが「極大魔法」の行使は「不可能」との判断だ。

世界最高峰の魔導士のマクシム君の見立てでもそうならもう絶望的だな。


「いえ!ここまで回復出来たので不満など何一つありません!

手持ちの武器で戦える様に頑張ります!」


「さすが我が弟子じゃ!共に魔王城を制圧しようではないか!」


また変な事を言ってるマクシム君の相手をするのが面倒臭いのでスルーする儂は、

「ところで貴様は何をしに真魔族領に来たのだ?」と質問をすると・・・


「え?!・・・えーと?・・・それがですねぇ」

ヤニックは魔王城に来た本当の目的を話し始める・・・


「うむ!お主の好きにせよ!」理由を知った儂はいよいよ面倒臭くなり仕事に戻る事にした。

はい!終了!仕事仕事!


こうして魔王城にて因縁のリベンジマッチ!ヤニックVSケンタ君3号の戦いが勃発!!


「行けー!ぶっ倒せーヤニック!!」


「負けんなあケンタ君!ヤニックなんぞ蹴り飛ばせー!!」


そしてめちゃくちゃ白熱する!主に兵士達のトトカルチョ的な意味で。

いやお前ケンタ君ゲットが目的だったんかい!


{私に勝てたならオトモしましょう}ヤニックを煽るケンタ君3号。


そんな理由でわざわざ単身で魔王城に来んな!お前もかなりの変人だよな?!

そして兵士達よ、その侵入者を使ってトトカルチョすんな!


それから儂はヤニックの事を放置した。




そして2ヶ月が経過して。




「遂に勝ったぞーーー!!ケンタ君をゲットだーーーー!!」

遂にケンタ君3号を沈めて渾身の雄叫びを上げるヤニック!!


{参り・・・ました。私の・・・負け・・・です。おめでとう・・・ございます}


「うおおおお!!!ヤニック!ナイスーーーー!!」

大穴トトカルチョをゲットした魔王軍の兵士も雄叫びを上げる!大穴当選おめでとう!


「クッソー?!ここでヤニックが勝つのかよ!」


26回戦目でようやくケンタ君3号に勝利したヤニックに賞品としてケンタ君3号が贈られた・・・もう勝手に持って帰って下さいな。

と言うか、お前・・・2日に1回はケンタ君3号と戦っていたんかい。


更に詳しく聞くとヤニックはイリスにケンタ君2号を自慢されたのが羨ましくてヤニックもケンタ君が欲しかったらしい・・・だとさ。

別に良いけどさ・・・師匠共々ホントに変わってんね君達。


さて・・・話しをようやく本線に戻そう。


ヤニックが真魔族領でケンタ君戦に夢中になってる間にケロリと復活した英雄ファニーは、

ピアツェンツア王国首都に帰って行った、このままだと王立学園で留年するからだ。


その3か月後、真魔族領で遊んでいてファニーに置いて行かれたヤニックも慌ててケンタ君3号に駆って王立学園へ帰ったが時は既に遅しで出席日数不足で見事に留年した・・・

マジでお前何してんねん!


「はぁ・・・ヤニック殿下・・・本当に、本当に色々と信じられないですわ」

婚約者そっちのけでバトルに熱中し留年をかました王太子って本当に有り得んね。


「申し訳ありませんでしたーーー!!」

ファニーの絶対零度の視線を受けて土下座敢行するヤニック。


「自分の婚約者である王太子殿下が王立学園で王国500年の歴史の中でも前代未聞の留年!」

のインパクトが余りにも強すぎて、キス事件はファニーの頭の中から完全に消去された。

中々、便利で都合の良い思考回路を持つファニー。


これにて第一回ファニー実家に帰る事件は良く分からん結末を迎えたのだった。


そして新学期を迎える。


当然ながら下級生だった生徒達の顔に困惑の色が隠せない。


「あれ?!何でヤニック様がこのクラスに居るの?確か1学年上だよね?」


「何でもヤニック殿下は外交での外遊で忙しくて出席日数が足りずに留年したらしいですわ」


「まぁ!お可哀想に!学園の方で配慮とかは無かったのかしら?」


思い切り個人的事情でのサボりなので配慮する必要性なんて無いじゃん?


一応は何とか国の総力を上げての隠蔽改変工作が功をそうして、「極秘の公務の都合による留年」との噂をゴリ押ししてヤニックの名誉はギリギリ保たれた・・・

国として良いのかよ?それで。


「お前よぉ、マジで馬鹿なのか?連絡くらい寄越せよ子供じゃあるまいし・・・

そして迷惑掛けた罰としてケンタ君を自宅の警備用に俺に貸してくれ」


「はい・・・」


馬鹿な弟弟子の後始末に各所に奔走させられた兄弟子の勇者イノセントは、腹いせに元凶であるケンタ君3号をカツアゲした。


こうしてケンタ君3号はイノセント邸のエントランスに展示されたのだった。


ヤニックに売られたと知りひねくれたケンタ君3号、

{ぴぴぴ・・・私に勝てたら・・・」


「おーし!!分かったぁ!!!」ドッゴーーーーンン!!{あーれー??}


イノセントに挑んでワンパンで沈められたケンタ君3号。

ああーーーー?!ケンタ君があーーーーーー?!イノセント!テメェなんて理不尽な!



そして月日が流れて・・・



「・・・・・・・・・・ケンタ君の存在感があり過ぎるんですけど?」


展示され始めて32年後のイノセント将爵邸のエントランスのど真ん中で棍を振り上げてバッチリと格好良くポーズを決めて展示されているケンタ君3号を見てセリス夫人が呟いたと言う・・・


その次の瞬間!!!


バターン!!ドタドタドタドタ!!!「ヒャッハー!!金出せやー!!」 


イノセント邸宅に何の脈絡も無く突然強盗団が押し入ったのだ!

いやこれ何の強制力だよ?!


お前ら、ここって勇者の巣窟なんだが?・・・正気か?マジで死にに来たのか?自殺志望者の集まりなのか?


いきなりの急な無理矢理展開に、

「きゃああああああああああ?!」悲鳴を上げるセリス夫人!怯えるメイド達!


「おいおい!こんな所にパツキンの可愛い姉ちゃんが居るぜ!!」


「ヒャッハー!!!攫っちゃうぞー、パツキン姉ちゃん!」


「ええ?私ぃーーー?!いや!姉ちゃんって歳でも無いんですけどーーー!

つーかパツキン呼びやめんかーーー!!何かムカつくわボケェ!

そして5人の子持ちですけどーーー?!」


年を取っても相変わらず口が悪いセリス夫人28歳の絶対絶命の大ピンチに、

{ぴぴぴ、セリス夫人危険!自動迎撃モード発動、侵入者確認、行動開始、敵を排除します}


32年の沈黙を破り、我らがヒーローのケンタ君3号が再起動する!

よっしゃあああ!!キタキタキターーーー!!


「うええええ?!ケンタ君って動けるのぉ?!?!」

押し入って来た強盗団より彫像だとずっと思っていたケンタ君3号が急に華麗に動き出した事に戦慄を覚えるセリス夫人!


タターン!!パカカカ!!


「とお!」と言わんばかりに華麗なジャンプを決めて強盗共の前に踊り出るケンタ君3号!!


「何だコイツ?!キモ?!」


{キモ?言葉の意味を検索・・・ぴぴぴ・・・ほう?・・・マジでブチ殺します}

あ・・・悪口を言われたケンタ君3号がキレた・・・。


{tornado spear}ブオオオオオンンン!!!バキバキ!!メキメキメキメキ!!!


「うわああああ!!!何だコイツーーー?!?!」


「ぐわああああ?!?!」


初手から本気のケンタ君3号が巻き起こす凄まじい竜巻に数人の強盗がエントランスにあった調度品ごと吹き飛ばされる!!


バギーーンンンンン!!ガッシャーーーンン!!!


「きゃあああああ?!?!とってもお高い壺があーーー?!?!

それ結婚のお祝いにイリスから貰ったヤツーーー?!」


え?!イリスから貰った壺がお亡くなりに?!


ガシャーン!ドガーン!バリーン!!


「護衛対象の人命最優先」がモットーのケンタ君3号は戦闘をするのに邪魔な物をドンドンと「後ろ馬蹴り」吹き飛ばしてエントランス内が綺麗になり動き易くなった。


ここからがケンタ君3号の本領発揮なのだ!!さあ!ケンタ君3号!決め技じゃあああ!!


{必殺!連続後ろ馬蹴り発動}ズドゴオオオオンンン!!!!ゴン!ゴン!ゴゴン!!

「ぎゃあああああああ?!?!?!」ケンタ君3号に蹴られてぶっ飛ぶ強盗達。


ヒューン・・・ベシィーーーンン!!ブシャアアアア!!!


「きやああああ?!?!とってもお高い絵画があーーー?!?!

それ長男の出産祝いにイリスから貰ったヤツーーー?!」


何だとぉ?!今度はイリスから貰った絵画がお亡くなりに?!


セリス夫人お気に入りの美しい風景が描かれたセンスの良い絵画に顔面から激突する盗賊!

鼻血ブーで絵画が鼻血で真っ赤に染まる!!


{スペシャルギャロップダンス発動}タタン!タタン!タタン!華麗なステップを踏みつつ、

トゴオオオンン!!「うぎゃああああ?!?!」


Sランクのケンタウロス型ゴーレム、ケンタ君3号の必殺技「連続後ろ馬蹴り」が次々に強盗共に炸裂する!


バキイ!ドゴオ!メキメキ!

思わず目を背けたくなる惨劇だ?!ヒャッハー!!格好良いぞケンタ君3号!!強いぞケンタ君3号!!




「きゃあああああ?!?!取り替えたばかりのとってもお高いカーテンが!それもイリスから貰ったヤツーーーー?!」


ズドゴオオオオンンン!!ゴオオオン!!バゴオオオンン!!


「きゃあああああ?!?!イリスから貰った超絶貴重な本が空の彼方にー?!」


ガアアアアンンン!ドゴーーン!!


もはや戦いはケンタ君の独壇場だ!

「後ろ馬蹴り」で蹴られて次々に壁だの扉だのをブチ抜いてて飛んで行く強盗団!!


そして伴いドンドンぶっ壊れて行くイノセントの邸宅!

凄い勢いで崩壊して行く自分ん家を見て唖然としているセリス夫人!!


強盗襲来から僅か30分後・・・


ケンタ君3号が130名程の強盗団を一方的に殲滅させた頃にはイノセント邸宅は、あっちこっち穴だらけで半壊していた・・・


うんうん、ケンタ君3号の強さが光る実に素晴らしい戦いだったね!


そして役目を終えてビシィ!と華麗なポーズを決めて完全崩壊したエントランスの定位置で彫像モードに戻るケンタ君3号。


決めポーズも最高に格好良いぞケンタ君3号!ヒューヒュー。


その10分後・・・


自宅に強盗団来襲の急報を聞き、駆け付けたイノセントが見たのは、ボロッボロに破壊された自分の邸宅の惨状であった。


「おいおい・・・魔法で強化された外壁が・・・こ・・・この破壊力は?一体なんだ?」


現時点でイノセントは妻のセリス夫人や家人達には怪我とかが無いのは分かっている。

何せイノセントは「献身の守護者」と言うスキルを24時間発動させている。


イノセント邸宅内に居る限りセリス夫人や家人達が受けるはずのダメージは全てイノセントが代わりの受けると言うスキルだ。


そして今のイノセントに全くダメージは来ていない・・・

つまりセリス夫人や家人はかすり傷一つ負ってない証拠なのだ。


しかしその反面、邸宅が受けたダメージは被害甚大だ・・・

上級魔法でも弾く強固な魔法障壁は粉々に砕けて、鋼鉄に近い強度まで高めたはずの外壁にはたくさんの大穴が空いているのだ!


「マジかよ?龍種でも暴れたのか???」


この時のイノセントはヤニック王から巻き上げたケンタ君3号の存在の事は綺麗サッパリと忘れている。

おうおう!イノセントよぉ、ケンタ君3号の存在を忘れるたぁ、どう言う了見じゃい!


どこに飛んで行ったのか・・・虚しく行方不明になった扉があったと思われる正面玄関から自分の邸内に入るイノセント。


すると愛しの妻であるセリス夫人が・・・暗闇の中で・・・


「イノセント・・・良いですか?・・・ケンタ君は陛下にお返しなさいね?」


ぶっ壊れたエントランスに椅子・・・も全部ブッ壊れたので適当な木箱を置き、

真っ暗闇の中で姿勢正しく座り、イノセントに対して無表情でケンタ君の返品を促す。


「分かりましたね?」


「はい・・・そうですね・・・分かりました、すぐにケンタ君は返品します」

そう言う事しか出来なかったイノセントだった・・・


{ガーーーーン?!}


はい!ケンタ君3号が自宅警備員をクビになりました!

オーバーキル全開の荒ぶるケンタ君は邸宅警備とかの任務とかには全然向いていなかったのだ・・・残念。


その後ヤニック王に返品されて配置先の王城のエントランスでも「後ろ馬蹴り」をやらかしたケンタ君3号は作成者の儂の所に返品されて帰って来た。


だから何でどいつもコイツもケンタ君3号をエントランスに置くんじゃ?

絶対に配置ミスだと魔王は思うんですよ。


『ファニーが怒って口を聞いてくれなくなりました・・・』

ヤニック王の悲しいメモがケンタ君3号に差し込まれておった・・・


そしてとうとう奴が来た・・・来ると思っていたよ。


「大変です魔王様!エルフの女王が龍騎士1500を率いて攻めて来ました!

つーか何したんだよアンタ?!今度の原因は何なんだよ?!どうせまたアンタの悪口か?!

どうせまたアンタが悪いんだろ?!そんなモンで戦わねえぞ俺達は?!

アンタが全部何とかしろよ?!」


主君の魔王よりエルフの女王の味方の部下からの激しい罵倒に対して・・・


「うむ、それで良い・・・全ては儂に任せろ」

優雅に部下を下がらせて儂はエルフの女王を迎え撃つ・・・


さぁてぇ、イリスからセリスへの記念のプレゼントを魔王制作の「荒ぶるケンタ君」が大量にブッ壊わした事件の件で魔王城門の前にてイリスに土下座をする準備をするかぁ~。


「ふっざけんなぁ!!バルドルーーー!!とっとと出てこーーい!!」


外からはイリスのマジギレした声が聞こえてくるなぁ・・・


でもなイリスよ?一つ言っても良いか?


確かに自分が心を込めてセリスに贈った物が大量に壊されて怒る気持ちは分かるよ?

その原因になった「ケンタ君3号」の製作者に儂に怒りが向くのも分かる。


だがな?


颯爽と「ケンタ君2号」に騎乗して現れても説得力が全然無いんだよなぁ・・・

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